第81話 モテ高校生は優しい
江橋さんが合わせてくれたおかげで美咲は反省をしたけどある程度元気を取り戻したという一番良い状態になってくれた。
まぁ、代わりに俺は神代光生だという言質を完全に取られることとなったわけだが。
美咲は顔を上げておずおずと聞いてきた。
「……こんなモデルの人見たことないし、麗華さんとお兄ちゃんってどういう関係なの……?」
「私と日裏くんは学校のクラスメイトですよ。ええっと、日裏くんは一人暮らしでしたよね? 日裏さん? はどうしてこちらに?」
「えっと、お兄ちゃんの行ってる学校を受けようと思ってオープンスクールのために来たんです。あと、日裏くんと日裏さんだと混乱しちゃうので美咲でいいですよ」
それは俺も一瞬思った。くんとさんで一応分かれていても、俺もさんで呼ばれるときがあるから間違って返事をしてしまいそうだ。
この提案は正直助かるし、江橋さん的にも呼びやすくなるのではないだろうか。
「それでは、美咲さんと呼ばせていただきますね。……日裏くんと同じ学校を目指すなら私の後輩ちゃんになる可能性もあるわけですね」
「それでいいと思います。私も最初から麗華さんって呼ばせてもらってますし! お兄ちゃんもいるしこんな美人さんがいるなんて、勉強以外もレベルが高い学校なんですね!」
「いえ、そんな私なんかは……」
江橋さんが謙遜しようとしているが、さきほど強調されたことを俺は忘れていない。仕返しの意味も込めて美咲に教えてやる。
「江橋さんは学校では高嶺の花だなんて呼ばれてたくらい人気があるぞ。まぁ俺は美咲が知ってる通り髪を下ろしてるから人気は無いな」
「ちょ、ひ、日裏くん? 私は高嶺の花なんかじゃありません!」
「知ってるよ。江橋さんはいたずらもするし、勉強だって常に一番だってわけでもない普通の女の子だろ? でも、高嶺の花って呼ばれてたことも事実だからな」
「あうう……今は無理です……」
俺が指摘すると江橋さんは顔を背けてしまった。
「いや、無理って言われても……ただ事実を言っただけなのだが……」
「……そういうこと?」
美咲が何かを呟いたと思ったら江橋さんのほうへと近づいていき、小声で何かを話し始めた。
美咲に何かを囁かれて、江橋さんはころころと表情を変えている。一体何を囁かれていることやら……。
話は終わったようで、美咲がにやけるのを我慢するような顔で戻ってきた。
「ふーん、なるほどね」
「違いますからね!? そんなことないんですから!」
「ん? 何がだ?」
「お兄ちゃんには秘密! 安心してください! 分かってますから!」
「分かってません!」
何やら二人の間で秘密ができたようで、俺はのけ者にされてしまったみたいだ。
「そんなに仲良くなったなら、せっかくだし江橋さんに服を選んでもらったらいいんじゃないか?」
「確かに! 麗華さん選んでもらえますか!?」
「私で良ければ是非選ばせていただきたいです」
「やった! じゃあお兄ちゃんはそこらへんで待ってて! 終わったら呼ぶから!」
「はいよ。店の外にあるベンチで待ってるからな」
美咲に手を引かれて江橋さんが店の奥へと連れていかれた。俺は二人に言った通りベンチに座ることにする。
偶然江橋さんと会うなんて思ってもいなかったし、美咲が原因とはいえ江橋さんに色々と合わせてもらってしまった。
今回のお詫びとこの埋め合わせは近いうちにしなければいけないだろう。……思いつく埋め合わせは祭りの屋台で奢るとかか?
江橋さんは多分というか絶対貸しだなんて思っていないとは思うが、個人的にとても助かったのは事実だからな。
……そういえば、前に一度貸し借りの話になった気がするが、涼風とだったかもしれない。
我ながら最近人と関わるようになってきたせいで、発言に気をつけなければいけなくなってきたと思う。
ついこの前までは、会話する相手は雅人しかいなかったから「行けたら行く」みたいな発言でも十分だったからな。
そんなことを考えていたら結構時間が経っていたようで、たくさんの服が入ったカゴを持った二人が出てきた。
「お兄ちゃん選び終わったよ! 私に合うか一応確認して!」
「いや、美咲に似合うのも可愛い系だし、江橋さんと選んだなら間違いないと思うが……」
「……日裏くん、それはどういう意味でしょうか?」
「センスがいいってことだよ。うん、スカートにシャツに、薄手の長袖もあるし大丈夫じゃないか?」
「それならいいのですが……」
江橋さんが可愛い系という言葉に反応したが、これは褒め言葉だ。
江橋さんは服を二セット選んでくれたみたいだったが、それぞれで組み合わせを変えることができるように選ばれている。
今美咲が着ている服も合わせて三種類を組み合わせることで九通りにはなるだろう。
俺でも難しいことをサラッとやってのけているから凄い。まぁ、確認も済んだことだし……。
「じゃあ会計してくるな」
「え? お兄ちゃんそれ私の服だよ!?」
言いたいことはわかるが、それだと何だか違う意味合いに聞こえてしまう。
「俺が着る服みたいな言い方するな。せっかくこっちまで来たんだから買ってやるよ」
「え、でも服って結構高いよ!」
「いや、俺の仕事なんだと思ってるんだよ……」
服というものがいい値段するということは俺が一番知っている。だがまぁ、着た服が貰えてしまうため俺自身は服にほとんど金をかける必要がない。
「そうだけど……。こっちでいっぱい買い物するためにお小遣い持ってきたのに……」
「ったく、中学生はバイトもできないんだから貯めるのにも一苦労だろ? 遠慮しなくていいから」
「……分かった。お兄ちゃんお願いします!」
レジへ向かって手早く会計を済ませる。カードをかざしてお馴染みの犬の鳴き声を聞いて袋に詰められた商品を持っていく。
「日裏くんと美咲ちゃんは帰られるのですか?」
「まぁ、荷物もできたし……どうする? 帰るか?」
「そろそろお昼だからお昼ごはんだけ食べていかない?」
時計を見ると、時間は午後になるかどうかといった所だった。
「じゃあ食っていくか。せっかく美咲と仲良くなったみたいだし江橋さんも一緒に行くか?」
「いいのですか? よろしければご一緒させてください」
「やったー! いこいこ! レストラン街的なやつはやっぱ地下かな!?」
「大当たりだ。じゃあ向かうか」
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