第76話 脇役高校生は……

「楽しかったねー! メインにしてるだけあって迫力あったね!」


「そ、そうだな……。確かにすごかったな……」


「だよね! その……三回もありがとね!」


「いや、別に大丈夫だぞ。……うん、問題ないはずだ」


 涼風に気がつかれていないし、俺も一人で滑ったことで結構落ち着いてきたから大丈夫なはずだ。でも、正直ぎりぎりだった。


 正直少しだけ頭を冷やした方が良いような気がする。それに、ずっと水の中にいたからのどが渇いてきた。


「ちょっと飲み物を買ってこようと思うんだが、何か飲むか? 良ければ買ってくるぞ」


「え、いいの? じゃあ結構動いたしスポーツドリンクお願いしていいかな?」


「了解。じゃあ、ここら辺で待ってくれ」


 そう言って俺はその場を離れる。まずは財布が置いてある更衣室まで取りに行かなければいけない。まぁ、どうせすぐに着くのだが。


 財布を取ってドリンクが売っているところまで向かう。自動販売機ではなく、氷水の中にジュースが入れられているものがあり、そこから買うと一本100円なのだ。


 モデルの仕事をしているとはいえ、高校生の俺にとって10円20円の差は大きい。だからこういう細かいところで節約することが大切だ。


「えっと、何々を買えますか?」


「はい! スポーツドリンクと炭酸系とお茶ですね! 炭酸系の量が少なく見えると思いますが、もうすぐ補充が来るのでご心配なく!」


「じゃあスポーツドリンクとお茶を一つずつお願いします」


「はい! 200円になります!」


 ちょうど渡して購入を完了する。とりあえず財布を戻しに行かなければいけない。パッと戻しに向かう。


 それから、プールの方へと戻るが、涼風の姿が見当たらない。もしかして一人でウォータースライダーに乗りに行ったのかと思って探しにも行ってみたが見つからなかった。


 プールなのだからスマートフォンがつながるわけもないし、どうしようかと迷っていたら少し離れたところから声が聞こえてきた。


「ちょっと、辞めてって言ってるじゃない! こっちの二人も嫌だって断ってたじゃないの!」


 涼風の声だ。誰かと言い争っているようだ。……なんだかデジャヴを感じる。とりあえず、トラブルに遭っていることは間違いないのだから、俺は急いで声のする方へと急いだ。


~~~~


「ちょっとそこの二人組、もしかして二人っきり? 俺たちと遊ばない?」


「二人じゃ暇でしょ? 俺たちと楽しいことしようよ」


「いえ、結構です。私たちは二人で大丈夫なので」


「ここで遊んでいるだけで満足なので大丈夫です!」


 涼風が待っていると、そんな会話が耳に入ってきた。明らかにナンパだろうけれど、どうやら二対二のようで問題ないと考えた。だが、次の言葉で事情が変わってきてしまった。


「そんなこと言わずにさ……って、ん? お前……あー! てめぇ、前に一回男とコケにしやがったやつだろ! あの時はよくもやってくれたな!?」


「あの時の女かよ! 今度は容赦しねぇぞ!」


「わ! 私はあの時も断りました!」


「やめてください! すぐに監視員が来ます!」


 多分男たちはむきになって自分の行動が周りからどう見られているのかも分かっていないのだろう。すでに監視員がいる場所に走っていった客もいたようだ。


 しかし、到着まで少しは時間がかかるだろうしこのままではまずいと思い、涼風も助けに入ることに決めた。


「そこの二人、嫌だって言われてんだからおとなしく引いた方が良いと思うけど?」


「あ、あなたは……」


「あぁ? ……っめちゃくちゃ上玉じゃねぇか。お前も遊びてぇのか?」


「はぁ? な訳ないじゃん。誰があんたらみたいなクズについていかないといけないのよ」


「その通りだよ! 明華さんもこう言ってるじゃない! おとなしく引いてくれないかな!?」


 やっぱり誰なのかはばれてしまったかとは思ったがそれよりも、上玉などとモノ扱いされたことにイラついてしまった。


 そのせいで強い言葉を言ってしまったのが悪かったのか男2人は逆上してしまった。


「あぁ!? てめぇら、こっちが下手に出てれば調子に乗りやがって……無理やり連れていかれてぇのか!?」


 そう言って男たちは涼風の手を掴んだ。


「ちょっと、辞めてって言ってるじゃない! こっちの二人も嫌だって断ってたじゃないの!」


「うるせぇ! こんなの逃がせるかってんだ!」


 声のした方に行ってみると、ナンパなのかよくわからない男と、その男に手を掴まれている涼風の姿があった。


 涼風は後ろの女の子二人をかばってそういう状況になったようだが、少し声が震えているのが分かった。それを聞いた瞬間、俺はすぐに動き出していた。


「良いからこっち来い……あぁ?」


「……人の連れに何してんの?」


 俺に手を掴まれた男はこっちを睨みつけた。


「連れだぁ? ……てめぇよく見たらこの前邪魔しやがった男じゃねぇか! 女の方もいたから居るとは思ったけどよぉ!」


「って、お前らこの前の……。とりあえず痛がってるからこの手を放せ」


「うっせぇな! また邪魔すんなら容赦しねぇぞ……?」


 二人組は掴んでいた涼風の手を放して俺の腕を捻り上げた。結構痛いが、我慢できないほどではない。


「何を容赦しないのか分からないけど、俺は引かないよ? というか、邪魔してるのはそっちだよな?」


「うっせぇなっ!」


「きゃっ! 静哉くん!」


「……いってぇ……」


 顔を殴られそうになってとっさにガードをしたが、ガードした手ごと顔に当たってかなり痛い。それを見てにやけた二人組が追い打ちのように拳を構えた。


「もう一発くらっと……」


「そこ! 何をしている!」


 誰かが呼んでいてくれたのか、監視員がこちらに走ってきた。騒ぎの大きさを聞いていたのか、複数人がやってきていた。


「……ちっ! 呼んでやがったか!」


「そっちは頼んだ!」


 二人組は監視員に連れていかれた。プールに出入り禁止になるだろう。それと同時に涼風が駆け寄ってきた。


「大丈夫静哉くん!」


「手でガードしたから大丈夫だよ」


「君、殴られていたように見えたが大丈夫か?」


「はい。大丈夫です」


「少しだけ事情を聴きたいのだが、後ろの子たちは?」


「……無関係だと思います」


 血も出ていないし、これ以上関係ない人を巻き込むわけにはいかないだろう。物理的な被害を受けた俺と涼風だけでいい。


「……そうか、分かった」


 その気持ちを汲んでくれたのか、監視員さんは俺と涼風だけを移動するように促した。


「……あの! ……ありがとうございます……」


「また助けていただきありがとうございます……。それと、ごめんなさい……」


「気にしな……い……で? ……え……? いや、少し嫌な気分になったかもしれないけど切り替えて楽しんでね」


 そこにいたのは一ノ瀬さんと江橋さんだった。二人とも申し訳なさそうな顔をしている。殴られた痛みより、こっちの方が衝撃的だった。


 とりあえず、涼風と一緒に監視員さんの誘導に従うことにした。後ろから聞こえてきた「静哉くんって……」という声は聞こえないふりをした。

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