第75話
「次はこれに行こうよ!」
「ん? 人がいっぱいいると思ったらウォータースライダーか。……うわ、結構勢いあるけど大丈夫か?」
「全然平気だよ! お化けは無理だけど絶叫系は余裕! だからウォータースライダーも平気!」
「そうか……。俺も大丈夫だけど、この並びに並ぶのは少しめんどくさいな」
ウォータースライダーの前には今日プールに来ている人が全員並んでいるのではないかと思う位人が沢山いた。
イメージとしてはテレビでよく見る新型スマートフォン発売用の列くらい並んでいる気がする。そこに並ぶのを少しだけ躊躇っていたら涼風が俺の手を引きながら言う。
「このプールの売りはウォータースライダーなんだから当然でしょ!」
「確かにそうだけど……今日平日だよな?」
休日ではないかと思うほどに人が沢山いるのだ。まぁ、今日は平日に決まっているから休日だったら確実にこれ以上の人がいると考えるとすさまじいことになりそうだ。
逆にこのウォータースライダー以外には誰かとぶつかったりするほどは人がいないように見えるから、ウォータースライダーの後のことを考えれば気が楽かもしれない。
「こんな人、タピオカを買う時の列とほとんど変わらないよ! むしろすぐに次の人が滑ったり何人かが一緒に滑ってるこっちの方が回転率が良いくらい!」
「タピオカって……。確かに思い出してみるとタピオカの方がめちゃくちゃ並んでる気がするな……」
地元でもこんなに人がいたのかと思うくらいタピオカには人が並んでいた。一杯500円という、学生にとってはかなり高額な金を支払って飲むほどおいしいのかと一度試してみたが、俺はそこまでハマるようなものではなかった。
食感は面白いと思ったが、そこまで並んで買いたいと聞かれれば否と答えるだろう。
「ほら! こうしてる間にも人がどんどん並んじゃうから! 早く並ぼ?」
「そうだな……。これくらいならすぐに回ってくるか」
その言葉は正しかったようで、ほとんど足を止める必要なくスタート地点まで登っていき、五分ほどで次の順番が回ってきた。
ウォータースライダーは一人用の浮き輪と二人用の浮き輪があるみたいで、スタッフさんが二つの浮き輪を手に持って待っていた。
「お二人で滑られますか? それとも一人ずつ滑りますか?」
「……だってよ。俺はどっちでもいいけど涼風はどっちがいいとかあるか?」
「え、ええと……どどどうしよう!?」
どうしようと言いながら迷っているみたいだが、その涼風を見てスタッフさんが助け船を出してくれた。
「一人だとどちらかといえば浮き輪が回ります。二人だとスピードが出るというイメージをしてくださいね」
……と思ったら涼風はあまり聞いていなかったみたいだ。
「だってさ。そんなに迷うなら二回目も並んですればいいんじゃないか? どうせ10分もかからないんだし」
「え、そ、そうだね! じゃあ最初は……えっと……」
結局後からもう一回するのに、まだ悩んでいるようだから俺が決めてしまおう。
「最初は二人からするか。スタッフさんお願いします」
「かしこまりました」
「ええええ!? ふ、二人でするの!?」
「んだよ、もう一回すぐにやるんだからどっちからしても変らないんじゃないか?」
「そ、そうだけど二人だと心の準備が……」
「絶叫系は大丈夫なんじゃなかったのか?」
「そうだけどそうじゃない!」
涼風は分かってない! と言いながらプイッと顔を背けてしまった。しかし、そんな状況でもスタッフさんは普通に進める。
当然だろう。ウォータースライダーは俺たちの後ろにも沢山並んでいるのだから、人数を決めてもらったら迅速に行動してほしいのだ。
「はい、用意できましたよ。どちらが前に行きますか?」
「じゃあ俺が前に行くな」
「う、うん! おっけー!」
浮き輪に座って下を見ると、意外と急斜面何だなぁとか思いながら涼風が座るのを待つ。
「っしょ、うわぁ、意外と高いんだね!」
涼風の足を掴んでとスタッフに促され、それと同時にやってきた背中に感じた柔らかい感触。え?
「それじゃあ流しますねー」
「はい! お願いします!」
浮き輪が水に流され、勢いよく滑っていく。見ていたよりもスピードが早いなー、水しぶきがすごいなーなんて考えは浮かんでこなかった。
「きゃーっ! すごーい!」
涼風の楽しそうな声が聞こえるが、こっちはそれどころではない。意図してのことではないと分かっているのだが、大回りするときや曲がるときに当たる、すごい当たる。
背中ですごい形を変えている感触がする。なんだこれは? マシュマロ? いや、もっと凶悪なものとしか思えない。
「うわああああああ!」
~~~~~
「あー楽しかった! もう一回行こ!」
「そ、そうだな……」
涼風はさっきの狼狽えやらがどこに行ったのか、次に行こうと急かしてくる。次は一人で滑るから構わないだろう。
「一人ですか? 二人で行きますか?」
「スピード感あるの楽しかったのでもう一回二人でお願いします!」
「かしこまりました」
……何だって……? いや、次は一人でやる予定だったじゃないか。聞いてないしもう一回あれを食らうのはまずすぎる。何がまずいって、俺が意識していることを涼風にバレる可能性があるってことだよ。
涼風にとって俺は気軽に話すことができる男友達だし、俺にとってもそんな感じの存在だ。だが、水着の破壊力が高すぎる。マネージャーさんが選んだ水着を涼風が着ているのだ。可愛くないはずがなかったのだ。
「待て! 俺が後ろに行く! さっきと同じじゃなく位置は交代しよう!」
「元からそのつもりだよ! 静哉くんが結構声出してたし迫力あるのかなって! ……二回って約束だったけど、大丈夫だったら一人で滑るためにもう一回行きたいな……?」
「おっけーもう一回だな! 良いぞ! とりあえず前に乗ってくれ! 話はそれからだ!」
「やった! じゃあ滑ろう!」
そして二回目も滑ったわけだが、次は後ろに髪が流れてきてとてもいい匂いがした。おかしい、さっき一緒に塩素の入ったプールの中に沈んだはずなのに、どうしてこんなにいい匂いがするのだろう。
というか何だこれ、前も後ろも全く関係ない。どっちも危険すぎる、全てにおいて涼風を
「きゃーっ! 迫力あるー!」
「うわああああああ!」
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