第67話 超絶美少女、お前もか

『おっけー! じゃあ木曜日は確定ね!笑』


『分かりました。モールの近くというのはどこのことなのでしょうか?』


『うーんと、少し待っててね!』


 多分、位置情報を持ってきてくれるのでしょう。……行くと即答してしまいましたが、木曜日まで全ての宿題を終わらせることができるような気はしていません。


 先ほど宿題が終わるまでは遊んだりしないと決めていると言ったのに、それを一瞬で破ってしまうことになりそうです。


 なるべく急いで進めたいとは思いますが、正直間に合う気がしません。学校が始まるまで残り一週間で取り組み始める人はどうやって終わらせているのでしょうか。


 時間が足りないと思うのですが……不思議ですね……。


『ここだよ! プールの隣にある自然公園で撮影されるらしいよ! 秋の新作の撮影をするんだって!』


『なるほど……でも、まだ夏なのにもう秋の撮影をするのですか?』


『なんかね、次の雑誌の撮影をするっていうのが基本らしいの! で、次は九月に発売される十月号だから秋の服って感じ!』


 つまり二か月後に着る物を撮影していると考えればいいわけですね。今月撮影したものが来月雑誌に載り、その服を購入したら再来月に着るというイメージでいいみたいです。


 早いところでは十月の半ばには紅葉が始まりますし、夏と秋では服装もガラッと変わります。秋は気温も一気に寒くなりますし、正直寒い方が苦手な私にとってはそういう服のチェックは欠かせません。


『それでさ! もしも、もしも撮影がデマ情報だった時のためにさ!』


『……そういえば五分五分と言っていましたね』


『一応ね! 撮影があるって信じてるけどさ! せっかく隣にプールがあるから一緒にプールに行かない?』


『……プールですか?』


『そうそう! さすがに日裏くんたちと一緒に行くのも恥ずかしいなぁって思ってね!笑 もし撮影があってもそれを見た後に行く事もできるしさ! どうかな?』


 プールに行く事に支障はありません。その……私も日裏くんに水着を見せるのはまだ恥ずかしいですし、明梨ちゃんと二人で行く事は賛成です。


 賛成だし、行ってもいいのですが一つ問題が残っています。あ、宿題以外の問題です。


『行く事に問題はないのですが、水着がありません……』


『え? 去年一緒にプールに行ったよね? 確かビキニタイプのやつを一緒に買いに行かなかったっけ?』


『えっと……その、申し上げにくいのですが……』


『もしかしてもう行かないと思って捨てちゃった? それともやっぱりビキニタイプは恥ずかしかった感じ?』


 そういう内面的なこととか捨ててしまったのではなく、物理的な問題です。


『いえ、サイズが合わなくなってしまって……新しく買わなければいけなくなってしまいました』


 おかしいです。明梨ちゃんから返信がありません。


 成長は女性の方が早いと言いますし、そろそろ止まるとは思っているのですが、一年間でサイズが一つ大きくなってしまいました……。


 贅沢な悩みなのかもしれませんが、買いなおすのにもかなりお金がかかってしまいますし、可愛いデザインのものが少なくなっていってしまうのでもう成長しなくてもいいと思っています。


 そんなことを考えていたら明梨ちゃんからの返信がやっと届きました。


『……は?』


『えっと、新しいものを買わないとプールに行くことができません……』


『……は?』


『……明梨ちゃん……?』


『……は?』


 どうしましょう……。明梨ちゃんは多分マジトーンです。どうしてこうなったのかは私には分かります。というか、一つしかありえません。


 明梨ちゃんの胸はどちらかというとその……慎ましい大きさで、えっと、身軽そうです……。


 このままではいけません。どうにかして明梨ちゃんを励まさなければ、ずっとこの返信しか返ってこない可能性もあるかもしれないです。


 慎ましい胸の良いところは……。


『大丈夫です! 明梨ちゃんは可愛いブラをたくさん買えますし、陸上に有利な体型じゃないですか! その……空気抵抗がないといいますか、とにかく慎ましくても問題はありませんよ!』


『うがああ! 慎ましい言うなああ! どうして私の胸には栄養が行かないんだああ! 陸上か! 陸上なのか!? 陸上のせいなのか!? フーンだ……どうせ持つ者には持たざる者の気持ちなんか分からないんですよーだ!』


 ちょっとかちんときました。明梨ちゃんは大きい人の大変さを分かっていません。


『大きいだけで肩は凝るし視界は狭くなりますし、何より可愛いブラがないんです! 大きいからいいってものじゃないんですよ!』


『うぐっ……確かにそう聞くけど……』


『それに、こうして買い替えるだけで一気にお金は飛んでいきますし、汗疹ができてしまったりするので大変なんですよ? それに……見られますし……』


『そ、それはごめん……』


 コンプレックスと思ったことはありませんし、自分の身体ですから自信を持てるくらいケアも欠かしていませんが、もし無かったらもっと普通に友達も作れたのかなとか考えてしまうこともあります。


 なぜか特別みたいに扱われてしまうのは昔からなので、胸で変わったとは思っていませんが……。もし変わったとしたらそれはそれで複雑な気分になりそうです。


『分かればいいのです。私もごめんなさい。焦ってしまって貶すようなことを言ってしまいました』


『まぁ隣の芝生は青く見えるってやつなのかなぁ……』


 明梨ちゃんはそう送ってきましたが、それは一応訂正しなければいけません。


『いえ、私はちゃんと自分に自信を持っているので大丈夫です。明梨ちゃんは明るさと活発さが取り柄なのですから、丁度いいのではないでしょうか……』


『まぁ確かに麗華の苦労も分かるし、そうかもしれない……。もうこの話はおしまい! プールの話に戻そう! 麗華は水着を買わないといけないってことであってるんだよね?』


『そうですね。去年のでいってしまうと、昔のテレビでよくあった事が起きてしまいます』


『あー……それは買いに行かなきゃだめだね笑 うーん……じゃあ、明後日部活無いから一緒に水着見に行かない?』


『ぜひ、行きましょう。明梨ちゃんに似合う水着を選んでみせます』


『私も麗華に似合う水着をチョイスするから試着してね!笑』

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