第68話 最後の10文くらいが書きたかった。

 水曜日、私はモールの中にあるフードコートで明梨ちゃんを待っていました。今日は出かける予定だったので、せっかくだからと早めに来て二学期から使用するノート類を購入しました。


 復習は章末にある問題や授業中に解いたものの解きなおしをすればいいのでほとんどノートを使いませんが、予習は要点を先にまとめてしまっているのでページを多く使用してしまいます。


 ……ちなみに、宿題を全て終わらせることはできませんでした。あと数学だけだったのですが、宿題で出されたものは一問を解くまでが長くてどうしても終わりませんでした。


 答案には答えしか載っていないので、もし間違えた時は途中式のどこを間違えたかを探さなければいけないという手間もあって、一問間違えてしまった時にやる気力がなくなって諦めました。


 そもそも、最初に終わらせるというこだわり自体要らな———


「———麗華ー! ……もしかして待った?」


 あらかじめ場所を教えていたため明梨ちゃんが迷わず私の座っている場所までやってきました。テーブルの上に置かれているドーナツのから袋をみて遅れたと勘違いしたみたいです。


「こんにちは、明梨ちゃん。先に来て文房具を買っていただけなので時間どおりですよ。すぐに片づけて来るのでお待ちください」


「はーい。お昼食べてきちゃったから美味しそうだけど買えない……。夜ご飯に買おうかな……」


 とりあえず、返却コーナーでお盆やごみを片付けて明梨ちゃんのところへ戻ります。明梨ちゃんはだいぶ迷ったみたいですが、結局買わないという判断をしたようです。


 今から水着を見に行くのにドーナツを片手に持っていたらただの邪魔でしかありません。だからもし買うとしても水着を選び終わってからになるのでしょう。


「では、水着を見に行きましょう。……いいものがあればいいのですが……」


「そうだね! 私のサイズのはどうせ簡単に見つけることができるから麗華のから探そうね!」


「いいえ、明梨ちゃんもすぐには終わりませんよ。明梨ちゃんの水着は私が厳選するのでかなり時間がかかることを覚悟しておいてくださいね」


 私たちはエスカレーターに乗って上の階へと向かいます。この前日裏くんたちと行った服屋の一つ上のお店に向かいます。


 このお店は女性の服を専門に扱っているお店で、水着も取り扱っています。ちなみに、もう一つ上の階に行くと男性用の服を取り扱っている店があります。


 この女性服専門店も男性服専門店も同じ系列の店なので、男女で見に来ても困らないという利点があります。


「よし! じゃあ最初は麗華のやつからね! ……ビキニタイプでいい?」


「そうですね……。ビキニタイプでお願いします。一応私の方でも軽く探してみますが、明梨ちゃんの選択にゆだねます」


「それは責任重大だね! じゃあ更衣室で待ってて! というか、麗華のサイズはどれくらいを選べばいいの?」


「前回より一つ大きいサイズでお願いします」


「ちっ!」


 それを聞いてから明梨ちゃんは店内を見回りはじめました。きっと似合いそうなものを探してくれているのでしょう。


 でも、とりあえず言ってしまうと私は多分柄がある水着が似合いません。イメージと合わないと言われてしまうし、私も服を買うときは柄がないものを買うことが多いです。


 そうこうしている間に明梨ちゃんが水着を選んで持ってきてくれました。全部で三着ほど持っているみたいで、その中から一番いいものを選ぶという方法をとるようです。


「麗華! これ一個ずつ着てみせて! どれが一番かわいいか決めるから!」


「分かりました。右から順番に試着してみます。どんなイメージだったか遠慮せずに言ってくださね」


「おっけー!」


 私は最初のフリルが着いたビキニタイプの水着を試着しました。無地の水着だということでフリルしか飾りがないこの水着はかなり合っていると思います。


 カーテンを開けて明梨ちゃんにも確認をしてみます。


「ど、どうでしょうか?」


「うん! これはかなり似合ってるんじゃないかな! シンプルで麗華のイメージにぴったりだよ! でもまだ候補はあるから着てみて欲しいな!」


「分かりました。これから違う方も着てみたいと思います」


 次に着たのは花柄で私より一回りほど大きくなっても着ることができそうなものでした。ですが、やはり私には似合いません。


「うーん……なんかしっくりこないなぁ……。なんか違う! これじゃないって感じがする」


「やっぱり柄があるものは似合わないみたいです。自分でも再度そう思いました」


「そっかぁ……。じゃあ次がラストだね! 実は次が本命だよ……」


「そうなのですか? では、着替えてきますね」


 三着目は、シンプルなデザインで、黒系の色の水着みたいです。これは……どうなのでしょうか? 自分では似合っているかどうかの判断ができません……。


「ど、どうでしょうか?」


「おお! 麗華がすごく大人っぽい! めちゃくちゃ似合ってる……」


「お、大人っぽい……」


 確か、この前日裏くんに選んでもらった服も大人っぽいイメージでと言っていました。……どうしましょう……。


「うん! 麗華! 思い切ってこっちにしてみなよ! 正直私も興奮しそう……」


「そ、それはちょっと……」


「でも、日裏くんも言ってたけど大人っぽい服装が似合うんだね……。というか、ちくしょう! こんな大きいものを持ちやがって! 私を見ろ! なんだそれは、反則でしょ! くぅ……こうしてやるっ!」


「ひゃっ! ちょ、ちょっとやめてください! 人がいるんですよ!」


 明梨ちゃんが急に後ろに回り込んできて、私の胸を後ろからわし掴みにしてきました! こんなところで何を……!


 それと、脇に手が当たってとても擽ったくて変な声が出てしまいます……。


「大丈夫だって! 女の人しかいないから!」


「そ、そういう問題じゃありません! 放してください……!」


「んもう……。今日はこの辺で勘弁してやろう」


 そう言って明梨ちゃんは手を放してくれましたが、離した手をワキワキさせています……。


「な、なんですか……その手は……」


「いやぁ……前に触った時より大きくなったなぁってさ……」


 明梨ちゃんがとても遠い目をしています。自業自得です。

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