第48話 脇役高校生は帰る

「いやぁ、楽しかったぁ……」


「そうだね~。やっぱショーが一番面白かったなぁ……」


「まぁ、お土産も買ったし、後は帰るだけかな」


「そうだね~。こんなにはしゃいだの久しぶりだったよ! それに帰り道はクーちゃんも一緒だからね!」


 結局、涼風が買ったのはイルカのぬいぐるみだった。ギリギリまでイルカにするかペンギンにするか迷っていたが、クーちゃんに輪投げをした時にキャッチしてくれたことが楽しかったからこっちを選んだらしい。


 お土産を選んだあと、クラゲコーナーを少しだけ見てから時間を確認すると、帰りのバスに良い時間だったためそのまま帰ることにした。


 あれからカップルチケットによるハプニングなどは起きなかったため、平和的な時間を過ごすことができた。


「ま、そういうなら俺はペンちゃんと一緒か?」


「そうだね! ペンちゃんとクーちゃんと一緒に帰れるってことだね!」


「まぁそういうことになるのか? でもこのペンちゃんは寝る時に抱きしめると心地よさそうだな……」


 大きさ的にはちょうど腕に抱えられるくらいで、柔らかさは押さえつけたら凹むけれどすぐに元に戻るくらいの弾力も兼ね備えている。


 しかも、素材的に若干ひんやりしているため今のような蒸し暑い夏の季節にはもってこいの抱き枕になってくれそうだ。


「ペンちゃんも抱きしめるとピッタリみたいだけど、クーちゃんはちょうどいい乗り心地って感じのサイズだよ!」


「まぁ、一長一短ってところか?」


「そんな感じかな! あー……寝る時用にペンちゃんとゲームとかする時用にクーちゃんを買えばよかった……」


「いや、さすがに部屋に巨大なぬいぐるみは……なんというか、絵面がうるさくないか?」


「んー、リビングに置こうかなぁ……でもそしたら勝手に使われそう……」


 今のところ、俺の場合はペンちゃんは寝室に置く予定だ。確かに、もしクーちゃんを買っていたらテレビやゲームが置いてあるリビングにおいていたと思う。


 でもまぁ、どちらにしろペンギンとイルカのぬいぐるみをどちらも買うという選択肢はなかっただろう。


「あれ? というか、勝手に使われそうって誰にだ?」


「え、家族にだよ? 言ってなかったっけ? 私は一人暮らしじゃなくて地元がここらへんなんだよ」


「へー、てっきり一人暮らしだと思ってた。とりあえずバスが来たから乗って話そうぜ」


「そうだね。帰りもガラガラだね!」


 話をしていたらバスがやってきたためそれに乗り込む。バスの中は、行き同様に人が一切乗っていないガラガラの状態だった。


 まだ夏至もやってきていないため日暮れの時間は日々遅くなっているから、明るいうちに着くことができるだろう。


「ねぇねぇ見て! この写真、変な方向見てるせいで静哉がエイみたいな顔になってるよ!」


「ん? どれどれ? えぇ……確かに変な顔だけど、これがエイみたいな顔か……?」


「いやもうエイにしか見えないよ! あ、とりあえず撮った写真はアルバムにして送っておくね」


「ただの変顔にしか見えないけどなぁ……。俺もアルバムにするか……」


 涼風の写真やスタッフさんに撮ってもらった写真だけでなく、イルカショーやペンギンショー、昼に食べたものから、クラゲやチンアナゴなどの小さい水槽にいた生き物までたくさんの写真があったため、100枚を優に超えるアルバムになってしまった。


 動画まで全て今一緒に送ってしまうと通信量という強敵が現れてしまうので、家で送ることにした。


 家には、オンラインでゲームをしたりするために一応Wi-Fiを設置しているからな。


「よし! 写真もいっぱいになったし、せっかくだから今日登録したSNSに投稿してみようよ!」


「お、良いな。とりあえず言われたとおりに通知は切っておいたけど……うおっ! フォロワーが2000人超えてるぞ……やばくないか?」


 涼風によると、通知がオンのままだとファンの人たちが投稿にどんどん良いねを付けてくれるらしいから、通知が止まらなくなってしまうらしい。


「あー、多分ネットニュースになったからだね。ま、そこから先は投稿してれば勝手に増えるよ!」


「そういうもんか? とりあえず、投稿はどんなふうにすればいいんだ?」


「とりあえず、紙とペンみたいなマークのボタンを押してから写真を4枚まで選んでもらえる? あ、一枚は私と静哉が写ってるやつを入れて欲しいかな! ほら、今日は次の雑誌に載るこの服の宣伝に来たわけだし……」


 確かに、俺と涼風の格好は前回の撮影で着たものそのままの格好だ。スタッフさんによって紹介されるという少し違う目立ち方をしてしまったが、服を宣伝するという目的を考えると大成功だろう。


 それに、今回の服装はデートコーデという特集だったのだから、今日俺たちが恋人同士に見られていたのならある意味大成功だし、普通に見ても恋人同士に見えたのなら俺たちの写真もそう見える可能性が高い。


 その画像を投稿するのは、宣伝も兼ねているこのアカウントにとっては当たり前のことだろう。


「よし、選んだぞ?」


「ふむふむ。じゃあまずは場所とか水族館の感想を書いてから服についての紹介も書いてね。あ、URL送っておいたからそれも貼り付けてもらうと楽かも!」


「なるほど……よし、できたぞ」


「良いね良いね。じゃあ最後に今日は私といったから、誰と? ってところに私のアカウントを載せておいてね!」


「できたから投稿するな」


 投稿した瞬間、良いねと再投稿などがどんどんされていく。一コメ頂きましたとかいう返信を送ってきている人もいるが、登録したときのように何か事件が起きる気配はない。


「よし! 私も投稿できた! って、もうそろそろ着くじゃん!」


「ほんとだ。バスだと意外と早いなぁ……」


 そうしてバスは到着し、涼風とはそこで解散する。夕暮れがきれいな時間だ。


「静哉くん」


「ん? なんだ?」


「これ、大切にするね?」


 そう言いながら涼風が俺に見せたのは、水族館で俺があげたキーホルダー。


「おう、失くすなよ?」


「もちろん!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る