第46話 脇役高校生は昼ごはん

「いやぁ、散々だったな」


「そうだね。でもクーちゃん可愛かったなぁ……」


「まぁ確かにかわいかったけど、カップルチケットってすごいんだな……」


 今日だけで俺は数か月分のツッコミをした気がする。あのスタッフさんのノリはもちろんのこと、観客もノリが良すぎてツッコミが止まらなかった。


 俺たちがモデルだとバレたわけだが、イルカショーが終わった後に握手などを求められることもなかった。本当にこの水族館に来る人は治安がいいのかもしれない。


「あー、そろそろ昼か? 何か食べに行くか?」


「そうだね。確かクラゲとかを使ったご飯を食べられるらしいから行ってみよう!」


「そんなところがあるのか? なんか水族館で魚料理を食うのも変な気分になるな……」


「まぁまぁそんなこと言わずに! いこいこ!」


 涼風に連れられてレストランらしき場所に向かう。確かに、そこではクラゲなどを使った料理やアイスクリームが置いてあるようだった。


「うーん、遅かったか? 涼風、もう満席みたいだぞ」


「そうだね~。でもすぐに空きそうだから少し待たない?」


 その時、丁度店員さんもやってきた。


「すみません……ただいま席が空いておらずって……カップルチケットの方でしたか! ショーの方はお疲れさまでした。カップルチケット専用席にご案内しますので少々お待ちください」


「……カップルチケットってすげぇな……」


「……まるでファストパスだね……」


 案内された場所は、野外コーナーを一望できる場所で、アザラシやペンギンなどの水陸両用な動物たちを見渡すことができる場所だった。


 まぁ、こっちから野外コーナーが見えるのだから、野外コーナーからもこっちが見えるに決まっている。


 あ、小さい子が手を振ってきた。振り返しておこう。


「なにやってるの? あー! ちっちゃい子いる! 私も手を振ろーっと!」


「ふふ、メニューとお冷をお持ちしました。デザートは食後ですか?」


「えっ! あ、ありがとうございます……」


 俺が手を振った後に涼風が手を振ったら、タイミングよく店員さんがやってきて少し笑われてしまった。


 涼風もこれは恥ずかしかったようで声が小さくなっている。


「え、デザートも何も、まだメニューすら開いてませんよ?」


「カップルチケットには、特別なデザートもついているんですよ。色々な意味で甘い物なので、食前に頼む人もいるんです」


「色々? よくわからんが、どうする?」


 よくわからないし、デザートのような甘いものは男より女の方がこだわりがあるだろうから涼風に任せることにした。


「じゃあ食後にしようかな~。好きなものは最後に食べる派だからね!」


「そういうことでお願いします」


「かしこまりました。こちらメニューになります」


 メニューを受け取り中を見る。確かに魚介中心のメニューが多いみたいだ。食べた事がないものも多くて迷いそうだ。


「うーん、俺は普通に刺身の盛り合わせにしようかなぁ……。この近くで獲れた魚を使ってるらしいし、すごく美味しそうだからな」


「そっかぁ……そっちも美味しそうだね~。じゃあ私はこっちの海鮮丼にしようかな! いくらも入ってるしすごく豪華だよ!」


「じゃあ少し交換するか?」


「良いねそれ! お願いしまーす!」


 注文をしてしばらく待つと写真と変わらないいや、写真よりも豪華に見える料理が届いた。水族館では魚のさばき方なども詳しいのだろうか……。


「じゃあ口を付ける前に交換するか?」


「するー! じゃあここに置くから少し取るね!」


「おう。……これも美味いな! 刺身とか寿司は高いからほとんど買っていなかったが、これを食うと買いたくなってくるな……」


「うーん、これ店で買うやつとは段違いに美味しいよ?」


 そんな会話をしながらどんどん食べていく。クラゲの食感が個人的にはハマりそうになった。そして、涼風も食べ終わったことで食後のデザートを頼むことにした。


「お待たせしました! デザートのクラゲアイスと特製ドリンクです!」


 届いたデザートは、とてもじゃないが一人前には見えないほど大きなパフェ、スプーンは一つしかついていない。ドリンクにはイルカをかたどられた、飲み口が二つ付いているストローが刺さっていた。


 それを店員さんは俺と涼風のちょうど中間に置く。……あぁ、これで二人分なのか。


「……あの、このストローって……」


「何か問題がありましたか?」


 同じところに繋がっているストローと一つしかないスプーン……。


「問題しかないわ!」


「一応これじゃなければお出しできないルールなのですが……それに、提供は無料ですがキャンセルには……」


 無料の罠!カップルチケットのサービスだからな、カップルらしいものが来ることを想定しておくべきだった。


 キャンセル料を支払ってでも辞めるべきかと考えていたら、涼風がおずおずという感じで言う。


「せ、静哉……私はこれでもいいよ……? もったいないし、それに……」


「いやでも……キャンセルするなら俺が支払うが、大丈夫なのか?」


「う、うん……じゃあ先に食べるね……?」


 涼風がクラゲアイスを食べる。それを俺と店員が見守る。


「って、なんで店員さんはまだいるんだよ!?」


「こんな初々しいカップルを見逃してたまるかってんの!」


「仕事に戻れや!」


「ふえーん……」


 なんだろう、この水族館にはユニークな人しか存在していない気がする。キャラが濃すぎて……。


「え、えっと静哉くん? はい、あーん……」


「モゴッ!? ……これがクラゲアイスか……。クラゲはアイスにしても美味いな……って、え?」


「カップルチケットだし一つくらいそれらしいことしよかなー……なーんて」


 気にしてなかったが、今のって間接キスだったよな?俺はそういうのを気にしないタイプだが、そういう言い方をされた途端に意識してしまって急に恥ずかしくなってきた。


 でも俺はやられて終わるようなやつじゃない。涼風の持ってるスプーンを奪い取る。


「はい涼風。あーん」


「え? え? あ、あーん……」


「次はドリンクを飲もうか。はい涼風、片方」


「え、う……んっ」


 涼風が恥ずかしがっているのが手にとるようにわかる。


「美味いか?」


「わ、分からない……」


「ったく、こういうことは彼氏とやるようなもんだぞ?」


「そそ、そうだね……」


 涼風はまたあたふたし始めてしまった。こういう系の話に耐性が無さすぎないか……?


 そんな俺たちの様子をさっきのスタッフが陰から見ていることに俺たちは気がつかなかった。

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