第45話 脇役高校生はイルカショーを見る
「ふぅ……結構余裕で間に合ったな。よし、どこら辺に座る?」
「うーん、まだ水をかけられたくないから後ろにしない? 午後にあるペンギンショーの時に前に行きましょ!」
「そうだな。まぁ、これから他のところも見るのにびしょ濡れじゃ駄目だからな」
座って待っていると、こんなに人が居たのかという位集まってきて席が埋まっていく。そして、時間になると飼育員らしきダイビングスーツを着た女性がステージに現れた。
「皆さんようこそお越しくださいました! 人と動物が織り成す不思議なショー! アシストしてくれるイルカはクーちゃんです! はいっ!」
その掛け声とともにイルカが高く飛ぶ。吹き荒れる歓声、それと同時に水しぶきが飛び散り悲鳴が上がる。
「さて! 最初に見せてくれたのはクーちゃんお得意の大ジャンプ! 拍手ー! お次はウォータースライダー! クーちゃんは器用に人を運ぶことができます! こんな風に!」
飼育員さんが水の中に入り、イルカが飼育員さんの足元に顔だけ覗かせる。確かにウォータースライダーのように見える。というか、単純にすごいという言葉以外出てこない。
「はい拍手ー!」
拍手喝采が止まらない。そのまま、二回目の大ジャンプや旋回など様々な技を披露していた。そしてイベントが始まった。
「では! そろそろ恒例のお客様から協力者を集めたいと思います!」
これがさっきスタッフさんが言っていたやつだろう。今は後ろにいるが、前にいると選ばれやすいと言っていたから次のペンギンショーの時に前に行きたい。イルカも好きだが、ペンギンも可愛いからな。
それに、涼風が見たいと言っていたのはペンギンショーだし前に行く事になると思うし。
「さて! 参加してくれる人ー! と言いたいところなのですが! 今日はカップルチケットのお客様が一組ここにいるということで、その方々に来てもらいたいと思います!」
「「「おおおお!」」」
なるほど、こういう感じでサプライズをするのか……。前にいたらこんな風にされていたということは、ペンギンショーではこれを受けるのか……?
「前にいてくださいって言ったのに恥ずかしがって後ろに行ってしまったみたいですね! ほぼ最後列にいますよ!」
ん?ほぼ最後列にいるカップルチケットって……。
「俺たちじゃねぇか!」
「その通りですよ! さあ前に出てきてください!」
観客も皆こっちを見た。かなり注目を集めてしまっているし前に行くしかないか?
「……ちょっと静哉、前に行くしかないんじゃない?」
「だよなぁ……これ、知ってた?」
「色々あるって書いてたけど知らなかった……」
本当に知らなかったみたいだ。俺たちは前へと出る。前に行くための道でめちゃくちゃ注目を集めているし、心なしか温かい目で見られているような気がする。
「さて! 二人とも! イルカはー!?」
「哺乳類! ってイルカショーやってたのあんたかよ!」
そこにいたのは俺たちのことを写真で撮ってくれたスタッフさんだった。最初からこうする予定だったのだろう。侮れないスタッフだ……。
「その通り! カップルは必ずショーに行くように誘導して、こうして参加者として強制連こ……じゃなくて、参加してもらうのがこの水族館の名物なのです! おっとまだカップルじゃなかったかな?」
「今強制連行って言いましたよね!? というかそんな情報調べても出てこなかったんですけど!?」
「ま、まだってそんな私たちは……」
「えー? 常連さんは知ってたよねー?」
知ってたー!という声が観客席から飛んでくる。ノリいいな!いや、これを見るために来てるとか言ってるおじいちゃんもいるぞ……。
「この突発的イベントの反応が意外と好評だから口コミとかで書かないようにって言ったら本当に書かないような良い人たちが集まっているので、このようにサプライズにできるのです! じゃあ、始めさせてもらってもいいかな?」
「まぁ。こうなったからには楽しもうかな」
「そ、そうだね」
スタッフさんこと飼育員さんが、今回のカップルチケットは二人だけでしたー!とか言いながら始めますと宣言する。
「じゃあまずはこの魚を持ってください」
「うおっ、ぬめっとしてるな……」
「では、二人が初めてあった場所は?」
「それは仕事で……ってそれ関係ある? というかその質問するならこの魚持たせる意味あった!?」
「なるほど、仕事ですか! ちなみに、見たところ学生の年齢ですけど、お仕事とは何を?」
「えっと、モデルです……」
「無視された!? というかあなた知ってましたよね!? 魚投げつけんぞ!?」
スタッフさんの質問に涼風が答えたことで「あれ?」とか「もしかして?」とかいう声が広まっている。いやもうこれ完全にバレたじゃねぇか。やっててよかった光生の格好。
「わお! ちなみに、芸名とか聞いちゃってもいいですか?」
「……はい。えっと、俺が神代光生で」
「私が麻倉明華です」
観客席から「やっぱりー!」という声が聞こえてくる。
「お二人は最近話題のモデルと! 話題のモデル同士の恋愛とはいい感じがしますね!」
「いえ、俺と明華は付き合っているわけではなく明華が懸賞か何かでここのチケットを当てたらしくて……」
それを言い終わる前にスタッフさんは大声で言う。
「なるほど! それは早とちりでしたね! カップルチケットはカップルで使ってもよし、気になるあの子と来ても良し! あ、ついでにいうとただの友達と来ても良しですからね。皆さんもカップルじゃなくてもカップルチケットは使ってもいいので覚えておいてくださいね! なんたって料金は一切変わらないのですから!」
あぁ、このスタッフさんは俺たちが勘違いされないようにわざとこの話題を振ったのだろう。確かにちらほら視線は感じていたし、このまま進めばSNSに2人がデート中とかいう投稿がされていた可能性もあったのか。
それにしては、ただの友達と来ても良し。でスタッフさんの声が小さかったのは勘違いだろうか。
「気を取り直してお二人にやっていただくのは輪投げ! 最初に魚を食べさせてあげてから投げると、よほどの事がない限り輪を取ってくれます! さてどちらからやりますか?」
「うーん、じゃあ俺から終わらせようかな」
さあやりますよと言われてまずは魚を食べさせる。そして輪をどんどん投げ込む。幸い、運動音痴でもないしある程度飛んでいく場所が固まっていたためイルカは全ての輪をキャッチしてくれた。
「光生さんとクーちゃんに大きな拍手!」
「次は私ね! よし……」
涼風もイルカに魚を食べさせてから輪を投げる。
「えいっ!」
「……ん?」
真下に落ちた。
「あれ……え、えいっ!」
「おおう?」
水の中に入らなかった。
「光生くん……私、投げるのだけは苦手なの……。手伝ってぇ……」
「まじか……手伝うって……よし。一緒に投げるか」
俺はそのまま涼風の後ろに回って、涼風の手を掴む。涼風がえとかちょっとか言っているけれど、これ位の接触は撮影の時ならしょっちゅうあるから大丈夫だろう。
「よし、じゃあせーので行くぞ?」
「う、うん……」
「せーのっ!」
二人で投げた輪は、真っ直ぐに飛んでいき、イルカが見事にキャッチしてくれた。
「やった! クーちゃんがキャッチしてくれた!」
「よし、じゃあ次か」
そのまま残りの輪も一緒に投げることでうまくキャッチさせることに成功した。
「お二人ともありがとうございました! いやぁ、最後にしてやられましたね! お二人に拍手!」
「明華がそんなに投げるの下手だって思わなかったってオブラートに包んで言われてるぞ」
「確かに投げるのは下手だったけど、下手だったけど! してやられたことは違うことだと思うな……!」
「そうか?」
戻るときに爆発しろ!とか末永く!とか聞こえたけれど、俺たちは付き合っていないという言葉が聞こえていなかったのだろうか。
いや、多分この掛声も恒例のようなものなのだろう。
最後にイルカの超特大ジャンプを見てイルカショーは終了した。
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