第41話 脇役高校生はサービスする

 平日が過ぎ去って休日。今日は何事もなく迎えた土曜日。つまり、涼風と水族館に行く日だ。


 水族館は隣町にあり、歩いていったらいつまでたっても到着することができないため、バスに乗って水族館まで行く事になる。


……というわけで、集合場所である駅前の水族館から出ている専用バスが来るバスターミナルまで来たわけなのだが……。


「またやっちまった……。時間まであと一時間もあるぞ……。どうしよう……」


 前回同様、またもや集合時間より早めに来てしまったのだ。まだ午前の二桁にもなっていない時間だ。まだ本屋もスーパーも開いていないから本格的にやる事がない。


「うーむ……SNSの登録してみようかな」


 せっかく水族館という写真をたくさん撮りそうな場所に行くのだ。この機会に登録してもいいかもしれない。


 涼風は明華としてアカウントを作って適当に写真を投稿していると言っていた。適当に撮った写真を投稿するだけでいいと言っていたが、そこまで簡単なものではないだろう。


 しかし、前から少しは興味があったから登録してみることにした。


「うーん、名前は日裏……じゃなかった。神代光生で良いとして、メールアドレスか電話番号の入力は電話でいいか」


 送られてきた認証コードを打ち込んで登録を完了させる。案外簡単に登録が完了した。


「えっと? 好きなジャンルを選んでフォローしてみましょう……? 表示されてる人全部にチェックついてるし強制かよこれ!……うわ、チェック全部外さないといけないのかよ……」


「で、誕生日はクリスマスイヴだから12月の24日っと。……ん? 公開設定か。年は非公開にしておくか」


 やっとワイドショーなどで見かけるような画面までたどり着いた。色々入力したが、まだ入力しなければいけないことがあったらしい。


「アイコン画像? え、こういうのって本人の顔とか載せちゃダメなんじゃないの? プライバシー的なあれがあるんじゃ……。よし、後から設定で。ホーム? これは……これも後にしよう。あとはプロフィールか?」


 プロフィールを開いて都道府県を設定してから編集ボタンを押す。


「えっと、モデルをしています。所属事務所は……くらいでいいのか? よし! 初めて投稿をしてみようか……。んー、これでいいか」


 投稿した内容はSNS始めました。というシンプルな一文。投稿した直後だったのにいや、登録した直後でフォローもフォロワーもゼロなのに、通知という欄に数字が表示された。


「お? 早くね? どんな通知が……ん?」


 通知を確認しようとした時、遠慮気味に肩を叩かれたことに気がついた。振り向いたところにいたのは、2人組の女子高校生だった。


「あ、あのっ! 神代光生さんですか!?」


「違いま……いや、そうですよ」


「やっぱりですか!」


 いつものように違います、人違いです。と答えかけたが、今日は涼風と神代光生として過ごそうと思っていたことを思い出して言い直した。


 こんな風に話しかけられることも珍しいし、せっかくのファンなのだから交流するのも偶にはいいだろう。


「こ、光生さんは今何をしていたんですか!?」


「今日は涼……同じ事務所の明華と水族館に行こうという話になったからここで集合しようって話になってね。懸賞で当たったからどうかと誘われたんですけど……少し早く着きすぎてしまって……」


 あはは、と笑いながら言う。この調子だと明日もこんな感じになりそうだから正直笑い事じゃないんだが。


「そうだったんですか……! あ、あのっ! 一緒にお写真を撮っていただいてもよろしかったでしょうか!?」


「わわわ、私も撮らせていただけるというのであれば是非ともご一緒させて撮らせていただきたいのですが! なんならチェキ代を払いますので! 一万円で足りますでしょうか!?」


 え、何この二人組めちゃくちゃ面白いんだけど……。推しにあって語彙力が崩壊した人みたいな喋り方に……推しって俺か!?


「あ、あの失礼なことを言ってしまい申し訳ありません!」


「あわわわわわわわわ」


 まずい、面白くて笑いをこらえていたらイラついていると勘違いされてしまったようだ。俺は急いで声をかける。


「ははは。少し言い方が面白かったから笑いをこらえていただけなんだ。写真は全然問題ないよ。二人一緒に撮る? それとも一人ずつ撮る?」


「え、あ、わ、ひ、一人ずつでもよろしいでしょうか!? こ、このスマホでお願いしてもいいでしょうか!?」


「うん。良いよ。じゃあもう一人の子にカメラを頼もうかな?」


「は、はい! 任せてくださ……きゃっ!」


 手渡されたカメラを待機する人にそのまま手渡したらなぜかスマートフォンを落としてしまった。きゃっと言っていたし虫でもいたのかもしれない。


「ちょっとそれ私のだからぁ! 割れてない!? ってか急にどうしたの!」


「ててて、手が……! ちょんって!」


「そ、それはしょうがない……。割れてないし許すよ!」


 ん?手が当たったから落としたの?……初心か!めっちゃ純粋!手ごときとか一瞬考えた俺を恥じたい……!ってしょうがないのかよ!似た者同士かよ!


 心の中でツッコミをかます。顔は常にニッコニコだ。絵文字並みにニッコニコだ。


「えっと、じゃあ撮りますっ! 3,2,1、撮れました!」


「じゃあ、もう一人も撮っちゃおうか」


「よよよ、よろしくお願いしましゅ!」


 あ、噛んだ。なんか、めちゃくちゃ面白いぞ……?そう思ったが最後、ついいたずらをしてしまいたくなってしまった。


「あれ? さっきの子より少し遠くない? もう少し近くていいんじゃない?」


「え? あ、う、あわわわわわわわわ」


 少しだけ残ったモブハートが女の子が持っていたカバンを少し引っ張るという接し方を選択した。トップカーストならここで手でも引くのだろうが、あいにく俺にそんなことをできるような心は持っていない。


 チキンハートなのだ。ガラスのように割れやすかったり豆腐のように崩れやすかったりするわけではないが、ネガティブ芸人もびっくりの思考回路をするときがあるからな。


「はい、撮ります!3,2,1、オッケーです! ありがとうございます!」


「いえいえ、せっかく声をかけてくれたんだしこれくらいはね」


「本物の神代光生さんに会えて感激です!」


「わ、私もまさか本物と会えるとは思っていませんでした……!」


 いやぁ、面白い言い方をする子たちだな。


「まるで偽物が居るみたいな言い方をするんだね」


「ええ……やっていないから知らないと思いますが、今SNSで光生さんの偽物が頻繁に現れているんです……」


「人気になった途端こういう迷惑行為が増えて……正直未来から来ましたとか言ってる人と同じ頻度で現れますからね! 最近では偽物が現れた途端にリプ……返信を送り付ける人も増えているんですよ」


「え゛」


 え゛?

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