第36話 プロローグ
「おはようございます。皆さんお久しぶりです」
「久しぶりね、光生くん。今日は来てくれて本当に助かったわ!」
一か月ぶりの仕事のために俺は前回と同じスタジオに来ていた。今日は一緒に帰ることができないと断ったら江橋さんや雅人に怪しまれたが、なんとか抜け出すことができた。
というか、雅人が俺が何とかしといてやるよ!とか言っていたが、正直不安しか残っていない。とりあえず準備を完了してしまおうと思ったら前から涼風がやってくるのが見えた。
「静哉くんおひさ~。……あれ? なんか疲れてない?」
「久しぶりだな涼風。……疲れてるように見えるか? 少し学校でいろいろあったからそのせいかもしれん」
「もしかして神代光生ってことがばれたとか?」
涼風がにやにやしながらそんなことを言ってくるが、残念ながらほとんど当たってしまっている。まぁ、多分涼風としては冗談で言ったのだろう。
「一人にバレた。いや、一応人違いって言い張ってるけど絶対確信されてる」
「……まじで?」
「おおマジだ」
「一体何があってバレたのか聞きたいな~」
俺の返答に一瞬真顔になったが、面白がるような顔に一転しやがった。元々話そうとは思っていたが、なんかこのまま教えるのも癪だ。
「キャハ、涼風たん知りたいにゃ! って言ったら教えてやるよ」
ふっ、メイド喫茶で見ても痛いと感じるレベルのこの言動を……。
「キャハ☆ 涼風たん、静哉くんに何が起きたのか知りたいにゃ! すごく気になるにゃ!」
恥ずかしげもなく言い切っただと……?しかも堂々とやりやがったせいでめちゃくちゃ可愛かった……。
もしこれを江橋さんがやったとしたら羞恥心が半分くらい混ざりそうだ。痛いと感じるよりは、多分ほっこりとして終わる……ってどうしてここで江橋さんが出てきたんだよ。
「ちょっと聞いてるにゃ? ちゃんとやったんだから全部白状しなさいにゃ!」
「あ、あぁ。悪い、すごく可愛かったけどまさかやるとは思っていなかったから固まってた。何があったかは元々話す予定だったしな……。というかもうにゃって付けなくていいんだが……」
「……じゃあなんでやらせたのよ……。とりあえず全部白状しろ~!」
普通に話すのが癪だったからとか言ったら怒るから言わない。
「前回の仕事が終わってから涼風を送っただろ? 涼風と大通りで別れた後夕飯と食材を買うためにモールに行ったんだよ」
「ふむふむ。……そういえば静哉くんって料理もできるんだった……」
「ん? まぁとりあえず続けるぞ? 買い物終わった後にしつこいナンパにあっている女子を見かけてな。華麗に助けたらナンパされていた女子が同じ学校でしかも同じクラスだったのよ」
「へぇ! 助けたらばれたってどんまい過ぎるでしょ!……あれ? 静哉くんって学校では髪をおろしてるせいで目も隠れてるし、モブを極めてるんだよね? じゃあどうしてバレたの?」
痛いところを突いてきたな。その質問は弁慶の泣き所いや、龍の逆鱗レベルで痛い。
「色々とへまをしたんだ」
「何々? どんなことがばれるきっかけになったわけ?」
「まず、助ける時に名前を呼んだことだろ? 声が同じなところだろ? あとは、特徴的な俺のバッグが覚えられていたことか? あ、次の日持って行ったモールで買った弁当を見られた」
「え、それ一回の出来事なの……?」
「そうなんだよなぁ。……すごいだろ?」
「威張れるようなことじゃないからね? 威張る要素ゼロだからね!?」
アホじゃないの?と言われたが、アホではない。雅人が言うには天然だ。アホというと悪口に聞こえるのに天然というだけでただのいじりに聞こえるぞ?不思議だなぁ……。
「それで、助けた女の子ってどんな子なの? ナンパされるくらいなんだからやっぱりかわいいの?」
「そうだなぁ……。学年で一番かわいいって言われてるかな? まぁ、簡単に言えば涼風みたいな存在だな」
「へ、へぇ。……それって私も可愛いってこと?」
「ん? そんなの当たり前だろ?」
モデルもしているんだから可愛くないはずがないのになぜそんなことを聞くのか分からない。だが、なぜか上機嫌になっているからこれで良かったのかもしれない。
「えっと、助けてばれて誤魔化して終わりってこと? ならなんで疲れてるの?」
「いやぁ、それがさ……。違います、人違いですとは言ったんだけど、やっぱり本物だと思われたらしく、本を貸したり勉強会をしたりタコパをしたりしたんだよ」
「な、え、その子とは何かしたの? その、付き合ったりとかは……?」
なんか今日は雅人にも同じようなことを言われたのだが、そのセリフは流行っているのか?というか、他にやったことか……。
「一応、タコパの後に友達になってくださいって言われて連絡先を交換したくらいか?」
「うっそはや! 一か月会ってないだけでいろいろ起こりすぎでしょ!」
「一緒に帰ろうとかは言われるけど、信用できる男の友達が俺が初めてだったって言ってたし、そんなに変わってない気がするんだけど……」
「……さすがに早すぎる……その彼女が好きなのは光生であって静哉くんじゃないんじゃないの……? いやでも、それなら一緒に帰ろうだなんて誘うはずがないし、そう考えるとその人は静哉くんのことが好きになったってこと……?」
涼風が何かをぶつぶつと言っているが、大丈夫だろうか……?
「お、おい涼風……?」
「よし! 決めた! あれ? どうしたの?」
「うお! びっくりした……。いや、ぶつぶつ何か言ってたから心配になっただけだ」
「なんだ、そんなことか。 あ、そうそう。静哉くん、次の土曜日私と一緒にでかけよう!」
「……なんて?」
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