第37話 脇役高校生はそる
「いやだから……」
「ちょっと二人とも! ずっと話をしてないで、そろそろ撮影を始めるから準備してちょうだい!」
「あーもう。撮影終わってから続きを話すから先に帰らないでね!?」
「分かったが……いつも送ってるんだから先には帰らないぞ?」
「だからそういうとこ!」
よくわからないが怒られた。とりあえず、今日は時間がなかったから髪を整えずに来てしまったから、着替えてから髪のセットもしなければいけない。俺は、着替えるために更衣室に入っていった。
「おはよう光生くん。久しぶりだね。髪のセットは後からするから今日はこれに着替えてくれるかな?」
中に入ると既にメイクアップアーティストさんが待っていた。時間も押しているためすぐに着替えを渡された。
「おはようございます。予定では来週から復帰する予定だったので本来なら思ってたより早いと思うんですけど、最近学校で色々あったせいでなんかものすごく久しぶりな気がします」
「光生くんが学校で色々あったのかい? ……もしかして学校のみんなに光生くんが在籍しているってことがばれたのかな?」
「なんでみんな学校で何かあったって言うだけでバレたバレてないっていう話になるんですかね……。いやまぁそんな感じのことが起きましたけど」
そういうと少し驚いた雰囲気を感じた。感じたという理由はもちろん、仕切りでお互いの姿が見えず、声しか聞こえないからだ。
日裏静哉と神代光生を結び付けるのはメイクアップアーティストさんでも無理だと思っていてくれたと喜ぶべきなのか、髪型一つで完全に別人として扱われていることに悲しむべきなのか分からない。
「……ちなみに、何があってバレたのか教えてもらってもいいかな? もしかしたら参考になるかもしれないし」
「何の参考にもならないと思いますけど……涼風にした説明と同じことを言うと、前回の仕事の帰りにナンパされていた女の子を助けたらクラスメイトだったんですよ」
「それはすごい偶然だね。というか、光生くんはナンパとか見かけても助けに行ったりしないと思ってたよ。……もしかして、ナンパされていた子がめちゃくちゃ可愛かったとか?」
光生は俺にとっての理想の人気者みたいなものだから、むしろ積極的に助けに行くような人なんだけど……メイクアップアーティストさんはそんなイメージを持っていたのか?
まぁそれは良い……のか分からないけどとりあえず置いておいて、確かによくよく考えてみると助けた相手がクラスメイトってすごい偶然だよな。
「確かにかわいい子ですけど、相手がどんな人とか関係なしに助けますよ。神代光生という人物は人のために動けるんですから」
「理想って感じかな? それはそうと……どうしてバレることになったのかな?」
「あー、助ける時に持ってたバッグとか弁当とかを変えずにいたせいですね。あ、あと声もばれる原因の一つだったので同じクラスだったことが一番の原因だと思います」
「それで日裏くんイコール神代光生っていうことが広まっててんやわんやって感じになったのかな?」
「ん? いえ、バレたことは広まってないですよ。多分、その人一人しか知りませんね」
「え? そうなの? 俺だったら普通に色々な人に話しちゃうと思うんだけどな……」
そういえば江橋さんは一ノ瀬さん以外に神代光生と会った話すらしていないみたいだった。一ノ瀬さんに話すきっかけも俺が与えたようなものだったし、どうして相談しなかったんだろうか?
本当に友達だと思っている人という条件なら一ノ瀬さんは当てはまっていたはずだし……。
「まぁ、本貸したりタコパしたり色々あったんですよ。……あれ? 今日の服ってどんなモチーフですか?」
「今日は夏のデートコーデ特集かな? うーん……光生くんでも合うと思ったんだけどダメだったかな? 着替えたなら出てきてもらえる?」
更衣室から出る。多分あってるとは思うけれど、なんというかあれだ。とあるワンポイントのせいで台無しになっている。
「そっかぁ……。なるほどねぇ。……剃っていい?」
「半袖は着るから腕は処理してましたが、長ズボンしかはかないから触れてませんでしたよ。まぁ後からどうせ剃る予定だったので、剃っちゃってください」
「そうだよねぇ……。事前に言われなきゃ足が出る服は着れないよね。女性でも生えるんだから男の光生くんにはすね毛が生えてないっていうのはちょっと無理があったね」
「腕はすごい薄いんですけど、なぜか足の毛は濃いんですよ」
「うん。……言っちゃ悪いけど少し意外だわ……」
なぜあるのか分からない脱毛クリームを塗ってつるつるになったところで髪もセットしてもらう。いつもはクリームなんか使っていないから綺麗さっぱり抜けていたところを見て感動してしまった。
次に買い物に行ったときにこのクリームを買うことに決めた。
「静哉くん今日はやけに準備に時間がかかったのね」
「いやぁ、半ズボンだって知らなかったからすね毛剃ってなかったんだよ」
「私はすね毛どうとかは気にしないけど……確かに、すね毛があったら中年のおっさんが海に行くような雰囲気に変わりそうね」
「今の時代はさわやか系らしいぞ? 毛があるだけで清潔感を感じないとかなんとか聞いたな」
有名動画サイトの広告でもウザいくらい脱毛を薦めてくるし、モテ男に変貌したとか会社の可愛い女の子に話しかけられるようになったとか飽きるほど見た。
あとはやせて見返してやったとかいう5分も10分も続くようなクソみたいなクソみたいな広告が……ってそれはどうでもいいんだよ。
「まぁ、とりあえず撮影を終わらせようぜ? 何か言いたいことあったんだろ?」
「そ、そうだった……。じゃあ一緒に向かいましょう」
極短距離だが一緒に移動をしてスタジオに入る。今回は夏をイメージした背景作りがされている。
「じゃあ撮るから並んでね! 光生くんは明華ちゃんをエスコートしている感じでお願いするわね!」
「こうですか?」
「分かりました!」
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