第33話 モブ高校生はロシアンたこ焼きをする
「さあ皆さんお待ちかね! ロシアンたこ焼きの時間だ!」
「さて、このたこ焼き器は1つの型で二十個、つまり型が二つあるから四十個作れるわけだが、この中の何個をハズレにするんだ?」
「うーん、ロシアンの素材はいっぱいあるし……そうだ! 十個作って毎回一つ誰かに当たるようにしようよ!」
そう言いながら一ノ瀬さんが袋を掲げたが、確かに大量の調味料が入っている。見えているものだけでもワサビに辛子に生姜が見えている。……生姜はハズレになるのか?
まぁ、俺もピザ用にタバスコを常備しているし、罰ゲームの代名詞のようなデスソースはないけれど充分刺激になるだろう。
「せっかくだし、交代で作りませんか? 辛いのもツーンと来るのもありますが、内容が分かっていたらある程度覚悟ができてしまいますし……」
「おっ! 麗華がドSなんて珍しい! でも日裏くんペアが作った時に私たちも不意打ちを食らっちゃうよ?」
「ド、ドSじゃないです! 私はその方が楽しいかなって思っただけですから!」
ドSと言われて江橋さんがワタワタし始めてしまった。ちらっと雅人のほうを見ると、とても珍しいものを見たかのように目を見開いていた。
確かに、こんな風に焦ったりする光景は学校での江橋さんしか見ていない人にはひどく新鮮に見えるのだろう。
高嶺の花には弱点が無いと思っているのか、怒らないし誰にでも優しいし成績もいいというイメージを皆持っているのだ。
充分凄いことだが、江橋さんは今まで二位だったし、こうして感情を露わにする普通の女の子なのにどうしてそんなイメージが固まっているのだろうか。
「よし! とりあえず江橋さんの案を採用して、俺たちが作るから少し離れて待っていてくれ」
「おっけー! 麗華、ひとまず少し離れようか!」
「え? は、はい。分かりました」
大きな声でなければぎりぎり聞こえない位江橋さんたちが離れたのを確認してから雅人に聞いてみる。
「随分驚いていたが、今のを見てお前はどう思ったんだ?」
「ん? あー……なんというか、今更ながら普通なんだなと思った」
「そうなんだよなぁ……高嶺の花とか言われても江橋さんはただの女の子だし、関わってみると聞いていたイメージとは全く違うだろ? まぁ、俺も話しかけられるまではお前と同じようなイメージを持っていたけどな」
「そうだよなー……世間で言われているイメージと実際の生活が全然違うやつのことを知っていたのになぁ……」
「ん? そんな知り合いが居たのか。だからすぐに受け入れることができたのか。ま、そろそろ調味料を仕込もうぜ」
話しているうちに注いだ生地も固まり始め、何かしらを仕込まなければいけない頃合いになった。とりあえず俺はワサビを入れることにした。
「よし、俺は生姜を入れようかな。中々いい感じの刺激になりそうだけど……お前はワサビか。引かなければ良いだけだな」
「よし、これが雅人に当たることを願って二倍いや、三倍くらい入れてやろう」
「ふっ、そんな都合のいいことが起きるはずがないだろ? でも俺も生姜を三倍入れたやつを一つ作っておこう」
今回のたこ焼きには紅生姜を入れていないから生姜は逆に美味しくなるだけなのではないだろうか。でも、一ノ瀬さんと江橋さんはハズレとして生姜を買ってきたのだからただ俺に有利なだけと思っておこう。
そして俺は誰に当たっても覚悟をさせないように嘘の情報を言う。俺は男女差別をしない主義なのだ。
「よし。二人ともできたぞ! さあ食おう! そして願わくば、雅人にハズレが行く事を!」
「やっとできたのね! 作るとあっという間だけど、待ってみると意外と長いわね。早く食べよっ!」
「そうですね。待ちわびました。食べましょう!」
そう言って一人一つずつたこ焼きを持つ。
「せーので食うぞ? せーのっ! よっしゃ当たり!」
「美味しい!」
「当たりです!」
「ん? 俺も別に……っ!? ツーンときた! あ、やべ、ちょっ……タンマ……!」
俺の願いが通じて、雅人にワサビ入りのたこ焼きが当たったらしい。多分あの反応は三倍ワサビだろう。とことん運が良いやつめ。
次の結果的を言ってしまうと、生姜はとても美味しかった。三倍に当たったのは俺だったけれどとても美味しかった。
俺と雅人が作ったロシアンたこ焼きは、雅人4、俺2、江橋さん1、一ノ瀬さん3でハズレを引いた。俺と江橋さんが引いたハズレは生姜だったからハズレ感は全くなかったが。
「次は私たちの番ですね! 明梨ちゃん、生姜はただ美味しいだけだったので違うものを選びましょう!」
「そうね! ワサビは強烈だったわ……」
「静哉特製三倍ワサビを最初に引いたしワサビを三回も引いたし、俺の運は一体どうなっているんだ……?」
「俺は生姜二回だったから実質ハズレなしだったな。ま、とりあえず少し離れて待とうぜ」
先ほどの二人のように少し離れた位置で待機する。といっても特にやることもないし、結局無駄話が始まるのだが。
「静哉、俺は次のハズレとしてタバスコを入れようと思うんだが良いか?」
「なんだ急に? いや、別に俺に言わなくても入れていいんじゃないのか? どうせロシアンの素材の中に入ってるんだからさ」
「いや、入れたいっていう動機が不純かなぁ……てさ」
タバスコを入れる理由が不純ってどういう意味だ?タバスコが不純に繋がるか?繋がらないよなぁ……?
「なぜタバスコが不純なのか俺には一切分からんぞ」
「いやさ、江橋さんもただの女の子なんだなぁ……って思い始めたらさ。タバスコ入りのたこ焼きを食べて”かりゃい”ってするのを見たい! しかし未だ抜けぬ高嶺の花感。すごい罪悪感を感じないか?」
「すまん。俺にはお前が何を言っているのか一切理解できない」
「分かってないなぁ。静哉は。普段の江橋さんだったら辛い物を食べても”辛いです”って感じだろ? だけど、タバスコの辛さでいつものような敬語を使うことができずに出てくる”辛い”があるわけよ! そして、タバスコの辛さはたこ焼きの熱さで増幅する。そこで出てくる涙目の”かりゃい”が見たいんだ。……分かるだろ?」
やばいやつが居る。なんだこの、ただ辛いと言っているところを見たいだけで変態感を溢れさせることができるとは……。
辛いという言葉を聞く計画なはずなのにまるで犯罪計画のように聞こえるのは錯覚だよな?その結論を出す前にたこ焼きが完成したという声が聞こえてきた。
「あー、とにかく俺はタバスコを次に入れるからな!」
「まぁいいんじゃね……? だが、俺にはそのハズレを雅人が引く未来しか見えない」
「ふっ、言ってろ。よし食うぞ! 先手必勝! 俺はこれを貰う! あっつ!……かりゃい……」
「ぶふっ!……雅人おまっ! お前、そりゃないだろ……」
「ははは! やったね麗華! かりゃいだって!」
「ハバネロソースを持ってきた甲斐がありましたね!」
まるでコントのような一連の流れにたこ焼きを噴き出しかけた。雅人のように一口で食べずに熱いから少しずつ食べていてよかった。
ハバネロソース……確か、唐辛子の何十倍もカプサイシンが含まれているんじゃなかったか?というか持ってきていたのか。やろうとしていることを事前にやられるとかただのアホじゃないか……。
というか、熱いし辛いしで未だに雅人はあふあふ言いながら食べている。
「ふふふ、今回は少しだます形になりましたが、ハズレを最後に作ったから熱々なのがハズレになっていたんです」
「あ、ちょっと待って麗華! それは一番最初に作ったやつ!」
「え? っ!?……か、かりゃいれす……」
「あちゃー、それは普通に作ったタバスコたこ焼きだよ……」
「わしゅれてました……日裏しゃん、みじゅくだしゃい……」
「え? あ、あぁ。すぐに持ってくる」
「お、俺にも頼む!」
非常に、非常に!不本意ながら雅人の言っていたことが分かってしまった。確かにあれは破壊力が高かった。
ただ辛いと言っていただけなのに、なんというか萌える?感じがした。それくらいやばかったと言える。
そのせいで一瞬だけ江橋さんから頼まれごとへの反応が遅れてしまったが、ばれていないと信じたい。
このターンで誰かひとりが氷水を必ず飲まなければいけないみたいな事態になったためタバスコとハバネロソースは封印した。
基本的には辛子とワサビでハズレを作って食べていき、約一時間後生地が無くなったことによってタコパは終了を迎えた。
「ふぅ……食った食った。いやー、こうやって騒ぐのも楽しいな!」
「そうだな。楽しかったことは認めよう」
「何その変な言い方。日裏くんもわいわい騒いでたんだから楽しかった! でいいんだよ!」
「ふふ、そうですね。私もここまではしゃいだのは初めてです」
時計を見ると、すでに二十時を過ぎており、外は真っ暗だった。
「時間も遅いし、このまま解散と行きたいところだが、こんな時間に女の子を一人で歩かせたら何があるか分からないな」
「なら私は白木くんに送ってもらおうかな! 麗華は裏なんだし日裏くんに送ってもらいなよ! いいよね白木くん?」
「え? あぁ。俺はそれで構わないぞ。静哉もそれでいいか?」
「みんながそういうならそれでもいいけどな。江橋さんは裏ですごい近いけど送ったほうが良いよな?」
「そ、そうですね。裏ですが、絡まれたりしたら嫌なのでお願いできるならお願いしたいです」
まぁ、近い距離と言っても歩いて十分はかかるから絡まれる可能性もあるだろう。
一度は絡まれているところを見ているわけだし、この後何かがあってもただ気分が悪くなるだけだろうから送っていくに越したことはない。
「じゃあ、片付けは適当に俺がやるから親に心配される前に解散!」
「私は遅くなるって連絡したから大丈夫!」
「俺は一人暮らしだからノープロブレム」
「私もです」
「そういやほとんどが一人暮らしだったわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます