第32話 モブ高校生はたこ焼きパーティをする
「よっと! ここら辺で良いタイミングかな?」
「おお……見事なまん丸だこと」
一回目のたこ焼きから俺はまん丸に作ることができていた。まぁ、実家ではもっと古い機械でやっていたのだから新しいもので失敗する理由はない。
俺の分ができたからと思って一ノ瀬さんのほうを見たら、中々にすごい光景が広がっていた。
「ちょっと日裏くん! これどうなってるの!?」
「いやそのセリフは俺のほうが言いたいんだが……」
一ノ瀬さんの作った、たこ焼きいや、たこ焼きらしきものは全てがくっついていて裏返すことができないという大惨事に陥っていた。
「一ノ瀬さんのたこ焼きは静哉のに比べてなんというか、冷凍食品のやつにそっくりだな……」
「ちょっと、それ褒めてるの!? いや、確かにそんな風に見えてきたけどさ!」
「ふふ、明梨ちゃんは大雑把ですからね。生地をなみなみと入れたらタコさんを入れた時に溢れてしまったのではないですか?」
片付けが終わったのか、江橋さんがキッチンからダイニングのほうにやってきた。手にはソースとマヨネーズがある。棚から出したけれど持ってくるのを忘れていた。
「なんで分かったの!? というか麗華にパス! 私にはたこ焼きを作る才能は有りませんでした!」
「任せてください! 明梨ちゃんが作った残骸をたこ焼きにしてみせます!」
「いやこれたこ焼きだから! 白木くんが冷凍食品みたいって褒めてくれたからね!? そうだよね!?」
「お、おう。まるで冷凍食品のような見事な半円だと思っているぞ……?」
褒めたつもりはなかったんだがと最後に小声で雅人が言ったが、俺の記憶違いでなければ一ノ瀬さんも褒められていないようなことを言っていた気がする。
江橋さんが残骸……じゃなかった。たこ焼きを整えるために、まずは俺が使っていた型に生地を流し込んだ。
それをじっと見守る一ノ瀬さん。少し生地が固まってきたところに半円の残が……たこ焼きを重ねた。江橋さんはすごく得意気だ。
しばらく生地が固まるのを待ち、完全に一ノ瀬さんのたこ焼きとくっついたことを確認してから取り出した。
大きさは俺が作ったたこ焼きの倍くらいあるが、見るからにカリカリしている美味しそうなたこ焼きだった。
全く焦げてもいないしーーというか、このたこ焼き器では焦げないのかもしれない。一ノ瀬さんのたこ焼きにも焦げはなかったからもしそうならカリカリにもできるしいい効果だ。
「おー! さすが麗華! すごく美味しそうだよ! 食べてもいい!?」
「はい。せっかくなので日裏さんが作ったものも含めて食べてしまいませんか? 熱いうちに一個目をということで」
「そうだな。江橋さんが作ったやつはカリカリで美味しそうだし貰うよ」
「ん! 静哉のやつも美味いぞ! 江橋さんのがカリカリ食感でお店の味だとしたら、静哉のはまさに手作りって感じだな!」
「その感想が褒められてるのかは分からんが、確かに江橋さんのやつはお店みたいな感じで美味しいな」
「でしょー!? 麗華は勉強だけでなく料理も上手なんだから!」
「なんで一ノ瀬さんが得意気なんだよ……」
実際、一ノ瀬さんが言う通り江橋さんは料理が相当得意だ。俺のような雑さが無い、よく言えば洗練された料理、悪く言えばレシピ通りのような料理を作ることができるのだろう。
今作られた江橋さんのたこ焼きはフードコートによくあるたこ焼き屋に負けないレベルの美味しさを誇っており、一ノ瀬さんの残骸から生まれたとは思えなかった。
「日裏さんのはとても形がきれいですね。……写真にとってもいいですか?」
「撮ることは構わないんだけど、たこ焼きの量が少なくて少し寂しくないか? どうせすぐに焼けるしもう少し待った方が写真的には良いんじゃないか?」
「分かってないなー日裏くんは! 写真は最初に取るからいいんだよ! まぁ後からも撮るんだけどね!」
「静哉が思ってるカメラはフィルムかよ! どうせスマホで撮るんだから満足するまで撮ればいいんだよ。江橋さんも静哉に許可をもらう必要なんてないぞ? たこ焼きに肖像権なんかないんだからな!」
「そう……なのでしょうか? でも、せっかくなのでいっぱい撮らせていただきますね」
そういうものなのか? そういえば、俺は撮られることは多々あるが、撮ることはほとんどなかった気がする。
俺の写真フォルダには何が入っているんだ? うん、多分ほとんどがスクリーンショットで埋まっているな。
確か、涼風がSNSで何かをするたびに知名度も上がっていくから神代光生として始めてみろと誘われたことがあったはずだ。
時々自撮りとか食べたものを上げるだけですごい勢いで拡散されていき、すごい数の返信? が来ると言っていた。
ちなみに、今まで一番伸びたのは俺と撮った写真だったらしく、嬉しいけど微妙と言っていた。そこらへんは俺にはよくわからない感覚だ。
俺も今度からSNSを始めてみようかな……。
「ま、撮るなら撮るでいいけど、次を作るか! 江橋さんは一ノ瀬さんにコツとかを教えてあげてくれるか? 俺が雅人に教えるからさ」
せっかくみんなでたこ焼きパーティなのだから食べるだけじゃなくて作った方が楽しいだろう。たこ焼きなら練習すればできるようになると思うし。多分。
「分かりました。私が責任をもって明梨ちゃんを一流のたこ焼き職人にしてみせます!」
「二流程度でもいいが……そういうなら俺は雅人を三ツ星グルメのプロにしてやろう!」
互いに謎の宣言をしてから教え始める。雅人はまだ一回も作っていないから不利かもしれないが、雅人はやるときはやる男だと信じている。
「さあ明梨ちゃん! まずは生地は八分目くらいまで入れてください!」
「これくらいね! 次はタコかしら!?」
「次は揚げ玉を入れてください! これは一掬い程度で大丈夫です!」
「これくらいね! そして今度こそタコね!」
おお……先ほどとは別人のように一ノ瀬さんがたこ焼きを作り上げていく。こうしちゃいられない。
「雅人! こっちはまずは生地は六割だ! そして固まらないうちに揚げ玉! タコ! 揚げ玉! 揚げ玉でタコを挟み込め!」
「おう! 次はどうすればいい!?」
「揚げ玉が隠れる程度に生地を追加! そして順番に裏返せ!」
「おっけい! 裏返すのはって全然固まってないぞ!?」
「おい馬鹿! 裏返すのは生地を注いだ順番にだぞ!」
雅人が生地が追加されたばかりの物を裏返そうとしたことでこぼれてしまい、完全な丸にすることが難しくなってしまった。
「あちらは急いだことによって形が崩れました! 明梨ちゃん、チャンスですが焦らずに生地を注いだ順番に裏返してください!」
「すごいきれいにできてるよ! もう完成かな!?」
「もう少し待ってください! 色が薄いです。もう少し、きつね色を越えたあたりで……今です! 取り出してください!」
一ノ瀬さんが江橋さんの的確な判断に従ってたこ焼きを次々と皿に取り出していく。皿の上でも見事に形を保っている見事なカリカリだ。
「こっちも取り出していいぞ! こっちは柔らかいから皿に置くときに注意してくれよ!」
「よし来た! 多少不格好だけどこれぞ手作りって感じだな!」
「後はソースをかけてからマヨネーズを寄せて……」
「ソースは縦から、マヨネーズは横からかけることで網目状にして……」
「鰹節をかけて完成だ!」
「青のりをかけて完成です!」
完成は俺雅人ペアと江橋さん一ノ瀬さんペアの同時だったみたいだ。差があるとすればカリカリなのかふわふわなのか、あとはトッピングくらいだろう。
「どっちも美味しそうだね!」
「同じたこ焼きなのに完成を見るだけでどっちが作ったのかが分かるのが面白いな」
「まぁ、まずは食べるか」
「そうですね。よく考えてみれば料理に勝ち負けはありませんでした」
そう言ってからたこ焼きを食べ始める。ベースが一緒なのだから美味しくないはずもなく、次々とたこ焼きは胃の中に消えていった。
むしろ、二種類あることで全く飽きることなく食べられたためこれで良かったのかもしれない。
こうして平和的にたこ焼きパーティー前半戦は幕を閉じた。
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