第30話 モブ高校生はキャッシュレスする

 江橋さんたちは多分三階の100円ショップに向かっただろう。最近の100円ショップには大量の調味料が置いてあるからロシアンの素材には困らないだろう。


 俺は雅人と一緒にたこ焼き器と食材を買わなければいけないから、まずは地下一階にある料理関連道具売り場に向かった。


 江橋さんたちとは買い物が終わってからのレジの先で合流することになっている。


「じゃあまずはたこ焼き機を買っちまうか。んーと、どんなのがいいんだ?」


「いや、俺に聞くなよ。俺はほとんど料理できねぇしな。まぁ、タコ焼き器は買った静哉が保管することになるんだろうから自分で良いと思ったものを選べばいいんじゃないか?」


 実家にもたこ焼き器はあったけれど、かなり古いし一度に作れる量もかなり少なかった記憶がある。コーティングもはがれて油を毎回塗らないと張り付いてしまうような感じで大変だった。


 たこ焼きを一人で作る事なんてほとんどないのだから、どうせなら量も作れるけれど、マンションに置いておいても邪魔にならないようなものが欲しいなとか贅沢なことを考えていたら良いものを見つけた。


「お、これはホットプレートの上にたこ焼きの型をつけるタイプか! なあ雅人、これ良いんじゃないか?」


「お? なになに? なるほど、これなら型だけもう一つ買えば一気に20個くらい作れるから良いんじゃないか?」


「だよな! しかもこれ、他の料理にも使えるんだぜ……?」


 ホットプレートがあるだけでお好み焼き、ホットケーキ、焼肉など色々なものが……あれ?ホットプレートで作るものってあまり一人に向いてなくないか?


 一人で食べるのならフライパンで作った方が早い気がするし、もしかしてホットプレート自体がそういう大人数用という存在だったのか?


 実家ではいつも一緒に作ったものを食べる同年代の子がいたからそのことに気がついていなかったのかもしれない。同年代の子は二歳下の妹だが。


「とりあえずたこ焼き以外は他の日に作ってもらうとして……買うものはこれにするのか?」


「なぜ作らなければいけないのか分からないが、これなら今後も使えるし無駄にならないからな」


「ホットプレートで作ったステーキが食べたいからな。まぁ俺が決めることじゃないし、静哉がそれで良いなら良いんじゃないか?」


「材料はお前負担な。ともかく値段は……まぁ3000円なら特に問題ないしこれを買うことにするよ。雅人より安く済みそうだし」


「……なあ、たこ焼きの材料ってそんなに金がかかるもんなのか? 確かにフードコートとかで買うと八個で500円とか余裕で超えるけれど……」


 そう、雅人はタコパの食材をロシアンの素材以外は全て買わなければいけないのだ。たこ以外は単価も安いが、四人分必要な上、肝心のたこの値段が高い。4000円くらいまで行くのではないだろうか。


「まあ、大丈夫じゃね? ちなみに、フードコートのははっきり言ってぼったくりレベルの値段だが、それ以上になぜか美味い。自分で作るよりカリカリしているし、高いからこその特別感があると思っている」


「そんなもんか……って随分と他人事だな!」


「いや実際俺に関係無いし?」


「ったく、誰のせいで払うことになったんだか……」


「色々奢ったりしているんだからさ! ま、金は足りるんだろ?」


「ん? 無いぞ?」


「は? じゃあどうするんだ?」


「んなもんPayに決まってんだろ? 時代はキャッシュレス」


 あぁ、そういえば今ならキャッシュレスで支払うと5パーセント位キャッシュバックされるんだった。


 消費税が上がったけれど、キャッシュレスなら増税前よりお得になるんだったかな。それと、食材の消費税が上がらないとか。


 現金で払う気満々だったけれど、還元されるならキャッシュレスの方がいいかもしれない。どうせなら入っている札をほとんどチャージしてしまおう。


 ちなみに、仕送りとして現金を貰わない代わりにクレジットカードを俺の名義で作ってもらっている。


 クレジットカードは基本的に食料品や必需品を買うためだけに使っており、遊びに行く時やワックスなどの言ってしまえば無くても大丈夫なものを買うときは仕事で入った金をおろして使っている。


 最初は口座へ入金してもらう予定だったのだが、こっちに来てみたら地元の銀行に人権など無く、おろすことができないと判断してこのような形になった。


 仕事用の口座はネットバンクだからどこからでもおろすことができるから、仕送りのお金もここに入れて貰えば解決するのだが、わざわざ銀行というワンクッションを踏むくらいなら、もうクレジットカードで買い物をした方が早いと言われた結果こうなっている。


 まぁ、クレジットカードは電子マネーにも対応しているから、キャッシュレスだと還元もある訳だし、今日からはチャージして使おうと思う。


 100円とか200円でクレジットというのは少し気が引けるのだが、お得なら使うしかない。


 そのままホットプレートを購入して食料品売り場に向かった。チャージをして支払いをしたら犬の鳴き声を何回も聞く羽目になったとだけ言っておこう。


 無駄話をしながら食料品コーナーを回って最後にレジで会計をする。


 雅人がバーコードを読み取り、支払いを済ませる。


「うっし! 後はパーティーをするだけだな? というか、次はお前が払うって約束覚えておけよ?」


「まぁ悪いとは思っているけれど、程々にしてくれよ? 野菜は俺が切るし、卵も家に残っているやつを使うことにしたんだからさ」


 結局、たこ焼き粉とタコはそのまま買ったが、カット野菜を買わずに家で切ることにして、卵も俺の家にあるものを使うことで4000円に行かないくらいになった。


 ちなみに、揚げ玉も作ってと言われたが、油が勿体無いし逆に金がかかるから断った。


「おお! 大量だね! 日裏くんが持っているのがたこ焼き器で白木くんが持っているのが材料かな?」


 会計が終わったところで一ノ瀬さんが待っていた。しかし、江橋さんの姿が見えない。


「その通り! って……あれ? 江橋さんは?」


「麗華は一足先に帰って食器と着替えの用意をしてるよ。さすがに制服だとソースが怖いから、汚れてもいい服借りることにしたの!」


 確かに、食べるだけなら大丈夫だと思うが作るところからするのなら跳ねそうだ。油とか生地とかソースとか。


 まぁ、俺は料理を作るときはエプロンを必ず着けるようにしているし、江橋さんも料理用の服とエプロンを持っているのではないだろうか?


俺はどうすればいいんだ!と言っている雅人に俺の服を一つ貸してあげることにして、適当な雑談をしながら俺の家に向かうことにした。


 次の目標は雅人に激辛たこ焼きを食べさせることだな。


 そんなことを考えていた俺は、雅人が何かを企んでいるような顔をしていることに気がついていなかった。

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