第28話 モブ高校生は負ける

「よしっ! 静哉! 見てくれよ! 順位が二桁になったぞ!」


 テストが終わり、昨日で全教科の点数が確定したことによって今日の帰りのホームルーム、まさに今暫定順位が判明する。


 そして今、先生が出席番号順に渡されたのだが、俺より先に渡された雅人が興奮しながらこちらにやってきた。


「へぇ、なになに? 90位か……って国語と数学と英語以外点数ひどすぎるだろ! なんでだよ!」


「おいバカ、言うなよ! 二桁だったら10位から99位まで分からないのに、今ので細かい順位がバレたじゃねぇか!」


「……ったく安心しろ、二桁になったって喜んでいるやつがそんなに高い順位な訳ないだろ? ……じゃなくて、国語と数学以外何があったんだよ……」


 国語は平均点56点で雅人はなんと84点、数学は平均点50点で雅人は79点。


 点数分布を見るに、数学は問題数がとても少なかったせいで成績が高得点と赤点の両極端に別れたようだ。


 国語はいつも通りという感じだが、古文と漢文で点数を落としている生徒が多くいるようだった。


 まぁ、この二教科はみんなで一緒に勉強したのだから高くても納得だ。いやむしろ、勉強会をした意味があったと思える成果だと言えるだろう。


 しかし、その他の教科の、例えば物理は平均点41点で雅人は20点、現代社会は平均点75点で雅人は52点。


 物理は平均点からも分かる通り難しかったが、現代社会は選択問題も多かったし、少し目を通していれば平均点は取れるようなテストだったはずだ。


 ちなみに、赤点は全教科一律40点以下だ。以下だから40もアウト。雅人は二教科で赤点を出してしまったということだ。


「いやー、みんなで勉強したらさ? なんか無駄な安心感が出てきちゃってさ。あの日以来ほとんど他の教科を勉強しなかったんだよな! いやはや、まさか赤点が二教科出るとは思っていなかったけどな?」


「じゃあ残りの時間はこの英語94点に全力を注いだのか? 俺よりも高い気がするんだが……というか、最高得点じゃないか?」


「いや、英語だけは得意だからそれもノー勉だぞ?」


「はっ? ……とりあえず呼ばれたから俺も取ってくるわ」


 先生から紙を受け取って俺も点数と順位を確認してみる。点数、分布、順位の順番で乗っているから、一つずつ確認をしていく。


「嘘だろ……。英語が負けている……?」


 そこに書かれていた英語の点数は84点。すでにテスト返却されていたから点数は知ってはいたが、それでも10点差で負けているとは思わなかった。


 いや、正直どちらかというと苦手な英語でかなり良い点を取れたと思っていたから信じたくなかったと言うのが正解か。


「えっと……順位は、おお! 18位か!」


 素点のみでの順位だが、なんと前回よりも10位アップしている。


 順位が上がった要因は、文系と数学の点数が上がっていることから見ても間違いなく勉強会のおかげだろう。


 数学と国語を最初に終わらせることができたため、暗記教科の勉強の時間も早くなり、英語などのどちらかといえば苦手な教科に力を入れることができたのが大きい。


 順位が上がったことは嬉しいし、今まで取れていなかった教科も点数を取れたことも嬉しいのだが、なんだこのなんとも言えない感じは……。


 俺は今、勝負に勝って試合に負けた的な感覚に陥っている。いやだってノー勉は……ねぇ?


「静哉は順位上がったかー?」


「18位まで上がったけど、英語だけお前に負けてるわ……。なんでそんなに英語だけ高いんだよ……」


「おお、良かったじゃねぇか! あとそんなに褒めんなよ!」


「褒めてないからな? 英語だけしかできないって貶してるからな!?」


 前回も補習に行っていたから何かしらの教科で赤点を取っていたはずだ。しかし、その割に順位が高いと思っていたが、これはどう考えても英語で引っ張っていたのだろう。


 一応言うが、前回の雅人は103位だ。前回も赤点があったくせに全体の人数の半分より上の順位なのだ。


「まぁ英語はあれだぜ? 好きなバンドが英語の歌詞しか歌わないから、その意味を訳したりしていたらいつの間にか……って感じだな」


「まじか……英語の歌詞はうろ覚えで口ずさむわ……」


「ちなみに、今回の英語の点数はどうだったんだ?」


「83点。普通に平均以上だし、80点以上超えているから充分だと言うことはわかってるんだ。だが、わかっているからこそノー勉に負けたというこの事実がなんとも言えない……!」


「ひどい言われようだなあおい!」


 この気持ちは、雅人がノー勉だと言うことが本当だということが赤点を取っているという確固たる証拠から分かってしまうからこそなのだ。


 これがノー勉誇張堅牢対策勉強ガチ勢に負けたのだったらなんの感情も抱かなかったはずだ。


 あいつらは、午前3時で徹夜と宣いテスト勉強はいつ聞いてもしていないと答えやがる。


 そのくせ、赤点は取らないしそれどころか平気な顔をして平均点を超えやがる。


「なぁ、今回のテスト勉強したー?」


「そう! やばいんだよ! やろうやろうって思っていたら昨日まできちゃってお陰で徹夜で来たよ……」


「お前もかよ! 俺もほぼノー勉なんだよなぁ……課題くらいしかやってねぇし」


 テスト勉強をしたかと聞かれて、答えは昨日までほとんど勉強をしていなくて、焦って徹夜でした。


 しかし実際は違う。


 テスト勉強をしたかと聞かれて、心の中でその質問を待ってました! とほくそ笑み、昨日までは生活リズムを崩さない程度に勉強を続け、ラストスパートとして今日ある苦手教科を少し遅くまで集中して勉強した。午前3時は俺にとってては徹夜! もし本当に徹夜をしたとしても問題はない! だってテストの日は帰りが早いもの! 昼寝の時間があるんだもん!


 相対するは"ほぼ"という言葉に全てを込めた謙遜戦士。


 ほぼノー勉、風呂入ってから寝るまでの3時間は勉強時間に入らないよねっ!


 課題くらいしか、課題として出されたものを繰り返し重点的に解いたけれど、これだけじゃあ応用問題解けるかわからないよう……。


 だがしかし、一定層そうでないやつもいる。ガチなのだ。勉強がガチなのではなく、ノー勉ということがガチなのだ。


「お前今回勉強した?」


「やべぇ! 今日テストだっけ!? 来週だと思っていたわ!」


「いやテスト期間に部活停止なんだから気がつくだろ! ……まぁ俺もノー勉だからやばいんだけどな!」


 お前今回勉強した? と軽く聞いているが、心の内は必死の形相だ。


 勉強した? の後には、俺は課題やってないんだけどお前はしたのか? したなら見せてくれ! と続いている。


 しかし相手の返事は無情。


 まさかのテストだったことすら気がつかずに通常授業通りの荷物を持ってきていた。


 絶体絶命と能天気が組み合わさり、生み出される積み積みワンダーランド。しかし仲間がいたから生まれる安心感。


 赤信号もみんなで渡れば怖くないよねっ!


 雅人はまさにここの住人、俺たちとの勉強で安心感を抱いたことによってノー勉戦士となったのだ。


 いや、いつもノー勉だったのかもしれないが、最低でも今回は積み積みワンダーランドのフリーパスチケットを持っている。


「とりあえずはい」


「ん? なんだこの紙……」


 話が一区切りしたところで、雅人に折りたたまれた紙を突然渡されたから開いてみることにした。


『私は40位、麗華は1位! ってことでタコパはよろしくね!』


「……は?」


 急いで一ノ瀬さんと江橋さんの方を見る。


 一ノ瀬さんはピースをしてきて、江橋さんは小さく手を振ってきた。


 そうだよな……出席番号って五十音順なんだから俺より先に配られているよな……。


 って1位!? 俺が出した条件がクリアされているじゃねぇか!


 なんだっけ……。家でタコパだっけ?たこ焼き器実家にあるぞ。たこ焼き機って何円で売っているんだろうか。


 そんなことを考えていたら教室に「嘘だろ!?」という声が響いた。


 あれは確か……三須無みすなしだったか?あぁ、なるほど、お前が今まで1位だったんだな?


 お前は実は秀才モブではなくなってしまったんだ。そして俺ももしかしたらそろそろモブではいられなくなってしまうような予感がした。


 諦めろ、負けたんだよ。お前も俺もな!


「……よし、知らないふりして帰るか」


 今日は気がつかなかった。そしてたこ焼き器を適当に買っておいて土日に連絡しよう。それがいい、それなら目立たないはずだ。

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