第25話 モブ高校生は集合する

「んーと、時間は……ありゃ?少し早かったかな?」


 勉強会の日、俺は一足先に図書館にやってきて、入口の前で皆が揃うのを待っていた。


 いや、正確には違う。実際には、いつも学校に一時間早く着いているせいで、良い感じの時間が分からなくて今日の待ち合わせも早く着きすぎてしまったようだ。


 ちなみに、今日は休日に出かけるのだとしても学校の知り合いと会うため、髪は整えていない。


 私服は基本的にモデルの撮影に使ったものしか持っていないから、そのせいで服と髪型がミスマッチになってしまっているが気にしたら負けだ。


 うちの事務所では、撮影に使用した服はモデルがそのまま貰えることになっている。


 私服として使用してもらうことで広告効果を期待していると言っていた気がするが、今の俺では宣伝効果どころか、逆宣伝効果になるレベルで似合っていないかもしれない。


「このまま突っ立ってても目立つし……ってお?」


「よお静哉!お前来るの早いな!俺が一番だと思っていたぞ」


「よう雅人。早いのはお前も一緒だろ?」


 開館待ちでもないのに入口で待っているのは目立つと考え、どこかで座って待とうかと辺りを見渡したら門のところから雅人がやって来るのが見えた。


 まだ約束の時間には早い。雅人の服装は……なんだか、言ってしまうと若者っぽくなくて一昔の人みたいで不自然だ。……人のことを言える格好ではないが。


「そう言われるとそうなんだけどな。ちょっとばあちゃん家に寄ろうと思って早く家を出たら結構時間が余ったんだよ。まぁ、ばあちゃんの家を出る時に今日は暑いからもっと涼しい服をってこの服を渡されて着替えたら、色々話始めちゃってそのままいたら今度は遅れそうだったから切り上げてきた。……そういうお前はどうしてこんなに早いんだよ」


 なるほど、まだ夏になったばかりだからか朝は少し寒かった。だから家を出るときはまだ気温が上がっていなかったから春用の服を着て行ったのだろう。


 現在の時刻は約十一時半だから、午後にもなっていない今の時点で既にかなり暑くなってきているため、着替えてきたのは正解だと思う。


 雅人は気軽にばあちゃんの家に行ってから来たと言ったが、雅人の実家は俺と同じ県にあるが、祖父母の家がこの近くにある。


 念のため言っておくと、雅人は一人暮らしをしているが、休みの日にはおばあちゃんに会いによく家へ行っているらしい。


「いつも学校に早く行ってるせいで上手く時間感覚が掴めなくてな。……本当は十分前に着くつもりだったんだが、早くなったんだよ」


「なんつーか、静哉って色々考えて動いているくせにどこか抜けてるよな。……アホというか、天然というか?」


「うぐっ……否定できないかもしれない」


 否定したいところだが、最近色々とやらかした記憶しかないから否定することができない……。主に江橋さんとの出来事とか……。


 ……もしかして、俺が気がついていないだけで実は何かやらかしていることがあるのでは?


 というか、この勉強会だって元々は俺が光生の時に江橋さんの名前を呼んだことが原因だと思うし……うん、考えても無駄な気がしてきたから気にしないようにしよう。


 まぁ最近は一ノ瀬さんのおかげなのか、関わり合いが増えた代わりに疑われることはほとんどなくなったからな。


「ありゃ? みんなもう来てたんだ。早いね!」


 雅人と話をしていたら意外と時間が経っていたようで一ノ瀬さんがやってきた。


 一ノ瀬さんの服装は……可愛いとだけ言っておこう。


「こんにちは、一ノ瀬さん。この隣にいるやつが今日参加することになった白木雅人だ」


「麗華から白木くんも参加することになったって聞いた時は誰かと思ったけれど、日裏くんといつも一緒にいる人ね!」


「分かってはいたけど俺の認識薄! そしてそういう事本人の前で言う事じゃないから! 嘘でも知ってた感出して欲しかったかな!」


 ふむ、江橋さんは昨日雅人も参加していいかと言っただけで白木さんと反応を返していた記憶がある。


 もしかして江橋さんはクラス全員の名前を覚えてるんじゃ……とか思ったけれどよく思い出してみたら俺でもほとんどの人の名前を覚えていた。


 大学だとしたら教室も席も毎回変わるし、人数が多すぎて無理だと思うけれど、高校までならクラス程度なら覚えられるよな。


「……日裏くんもそうだったけれど、普段ほとんど話さない人って意外と面白いのかしら?」


「……俺に聞かれても困るが、最低でも俺も雅人も自分が面白いとは思っていないからな?」


 自分が面白いだなんて思っているやつは陽キャにクラスチェンジを目指しているウェーイくらいだろう。


 でも雅人が面白いと言うのは一ノ瀬さんと同意見だ。マイペースなくせに意外と鋭いときがあるというか、多分頭の回転が速いのだと思う。


「まぁ、俺はともかく雅人はボケた時のツッコミが的確だから面白いのは当たっているぞ」


「いやいや、それこそ俺はともかく静哉はこう見えてかなりノリがいいし、ボケも面白いぞ?……時々天然も混ざっている気がするけど」


「いや最後の一言要らないだろ! 聞こえたからな!? 俺は難聴系主人公じゃないんだから小声も聞こえてんだぞ!」


「ふふふ、あはははは! 二人とも面白いわよ」


 それこそ一ノ瀬さんが面白いと言ったような会話をいつのまにか繰り広げていたら、一ノ瀬さんが堪え切れなくなったように笑い出した。


「まぁ面白いって言われても他の人がどんな感じなのか知らないから……な?」


「な? って言われても俺はお前と違って部活に入ってるから他の人と関わっているからな?」


「あはははは! 最低でも麗華の周りで取り巻いて面白いことをしようとしている奴らよりは面白いわよ」


「それは喜んでいい……のか?」


 正直に言って江橋さんに取り巻いて面白いことをしようとする奴らというものが分からないから喜んでいいのかわからない。


 まぁ俺たちは自然体でこれなんだから、面白いことをしようとして激寒展開になるような人たちよりはマシだろう。


 そんなことを思っていたら後ろから最後の人物がやってきた。


「あれ? まだ時間ではないと思うのですが、私が最後でしたか?」


「こんにちは、江橋さん。俺たちが早く来すぎただけだな」


「おっと勘違いしちゃいけないぜ江橋さん? 俺はおばあちゃん家に寄ったら早くなったっていう理由だけど静哉はただただ早く来すぎただけだからな?」


「おっはよー麗華! 私は今さっき来たところだよ!」


 確かに早く来すぎた自覚はあったが、友達と集合だなんてほとんどしないのだからしょうがない。


 あれ、前回集合して出かけたのっていつだったっけ?……いや大丈夫だ。ゴールデンウィークにそういう記憶がある。妹とだが。


「まぁみんな集まったしそろそろ入ろうか」


「そうだね! 中はエアコンが効いてるからね!」


「ええ、今日は今からさらに暑くなるらしいのでエアコンが効いている場所に来たのは正解でしたね」


 そんなことを言いながらみんなで図書館の中へ入っていく。


 俺は勉強だけは手を抜いていないから、この勉強会が助かるのは確かだ。この機会を大いに活用させてもらおう。

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