第23話 モブ高校生は約束する

 これで俺は江橋さんと二人っきりに……二人っきり?これってまずくないか?


「日裏さんもこちらだったのですね。……この前モールから帰る時に聞いたので、大通りの近くを通ることは知っていましたが……」


「そう……だな。まぁ俺は一人暮らしだから、学校から歩いて30分以内の場所で良いところを探したからなぁ」


「そうだったのですか? でも、考えてみれば私も同じような条件でマンションを探しました。セキュリティもしっかりした分少しだけ高くなりましたが」


「あぁ……俺はセキュリティはそこそこって感じで選んだかな。まぁ、最低限安全なように考えたから、学校から30分くらいの場所になった訳だけど」


 俺は男だから最低限の安全性しか求めなかったけれど、江橋さんは女の子だし容姿的に考えてもかなり厳重なセキュリティじゃないと安心できないだろう。


 今俺が住んでいるマンションでは、そもそもマンションの中に入るためにパスコードが必要だから安全性はかなり高い。


 ここより学校に近いところだと、学校が駅の近くにあるせいでお値段が高くなっていたから断念した。


 ちなみに、自転車では十分くらいの距離だから良い物件を見つけたと思っていたけれど、せっかく買うならスポーツバイクを思っていたが、買おうという決心がつかないまま一年が過ぎてしまい、結局まだ自転車を買っていないから歩いて通学している。


「ここはまっすぐなのですが、日裏さんはどちらですか?」


「俺もまっすぐだな」


「そういえば、一週間も経ったのにまだ借りた本を読めていなくてごめんなさい……。あの、私が頼んで貸してもらっているくせにって感じなのですが、少しでも読みたいと思うように貸してくださった本のあらすじを教えてくれませんか?」


 江橋さんに貸した本は青牛だ。個人的には好きなライトノベルのトップ10に入る作品だが、一巻を読んだのはかなり昔だ。


 主人公の秘密などがどこまで言っていいものか判断しにくいのだが……。


「もしかしたら少しネタバレも含んでしまう可能性があるけれど良いか?」


「はい。ぜひ、少しくらいネタバレが入っても楽しめますし。あ、でも私がすぐにでも読みたいと思わせるような説明をお願いします」


 ふふっと笑いながら江橋さんが言う。


「それは責任重大だなぁ…」


 キーワードは異能、現代だと思うが一体どう説明すれば良いか…。


「そうだなぁ……まず、大雑把に言えば男主人公がヒロインを助け出す物語になるのだが、舞台は学園だな」


「学園ですか? それは、私たちの通っている学校のようなものでしょうか?」


「ああ。一応現代が舞台だから、設定では主人公は高校二年生となっている。そして、この物語でキーワードになるのは異能だ」


「異能ですか? それは公的になっているのですか? それとも、限られた人が秘密にしているようなものですか? ……あ、私はここもまっすぐですが日裏さんは?」


「俺もまっすぐだな。それにしても良いところに気がついたな! 異能が発現する年齢は中学二年生から高校三年生までとされていて、限られた人に発生する。そして、発現していたとしても高校三年生を超えると能力は消える。つまり、大人たちは異能を信じていない」


「中学二年生から高校三年生までというと……なるほど! 分かりました! 思春期のキャラクターたちが異能を持ってしまい、その危険性も理解せずに乱用して、主人公が助けるような話ですね! あ、私はここのT字路を右です」


 思っていたよりも江橋さんはこういうファンタジー系の話が分かるようだ。


 この物語では大人のキャラクターが警察官と記者の二人しか出てこない。その二人も異能を発現させていた人物で、物語自体は思春期のキャラクターが主体だ。


 だが、残念だけど少しだけ江橋さんの予想は外れている。


 というか、良い線まで行っている時点で江橋さんの理解力は凄まじいレベルだと思う。


「惜しいけど違う! これは裏表紙に書いてあったはずだから言うんだけど、異能は発現させた人物の願いを具現化したようなものなんだ。だけど、その異能を自分の意思で操れる人物は一握りしかいないんだよ。だから、内容としては異能に囚われたヒロインを救い出すって感じかな?……大丈夫、俺も右だから」


「なるほど、日裏さんは説明が上手ですね。本当にすぐに読みたくなってきてしまいました。……ちなみに、私はここを真っ直ぐに行くのですが……」


「……俺もまっすぐなんだけど…」


 俺の家まであと5分くらいで着くんだけど、いくらなんでも道が被りすぎだろ……。


 何故かわからないが気まずくなって無言で次の分かれ道までやってきた。


「俺はここのT字路で左に行くんだが江橋さんはどっちだ!?」


「……私は右です。あの、もう私の住んでいる場所まで五分ほどで着くのですが、近くないですか?」


「俺も家まで五分くらいだな…。……近いな」


 そういえば、ナンパから助けた時は疲れていたせいで特に気にしていなかったけれど、あの時も江橋さんと別れてから家に着くまで十分もかからなかった記憶がある。


 というか、左に曲がって次の十字路を右に曲がると今住んでいる家、そこを通り過ぎて右に曲がるとこの前江橋さんと別れたところがある。


 ……もしかして裏?江橋さんが住んでいるところは俺の住んでいるところの裏ですか?


 いや、これは考えついたとしても言ってはいけない。世の中にはフラグというものが存在してだな……。


「もしかして日裏さんが住んでいる場所って私の住んでいるところの裏ですか?」


「そう思ったけれど言っちゃったよ!」


「え、私今言ってはいけないことを言いましたか……?」


 突然大きな声を出してしまったせいで、江橋さんが少しびっくりしたあとに眉を下げながら不安そうに聞いてきた。


「いや、俺もそうかもしれないって思っていたからびっくりしただけだ…」


 ……今のは俺が完全に悪い。江橋さんは全く悪くないと謝りながら、心の中思ったこともフラグになるということを知った。


「それなら良かったのですが……そういえば、ここは裏道のようなものですが、ここから左にまっすぐ進むと大通りに出ますよね?」


「ん? 大通りに出るけど、どうかしたのか?」


 確かにこの先にはモールから帰るときにいつも通っている大通りがあるのだが、どうかしたのだろうか。


「あなたは……いえ、なんでもありません」


 江橋さんは何かを言いかけてから何かを聞くことをやめてしまった。


「それならいいんだが……」


 江橋さんは一体何を言いたかったのだろうか。それは分からないけれど、まずは勉強会に対して何か対策を考えなければ……。

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