第8話 超絶美少女は送られる
Side:江橋麗華
私は今薄暗くなった帰り道を歩いています。……家族以外では初めて、男性と一緒に。
といっても隣を歩いているのは彼氏などではなく、周りの人が見て見ぬふりをする中で私を悪質なナンパから助けてくれた、今話題になっているモデルの神代光生……と思われる人です。
なぜと思われるなどという言い方をしているのかというと、彼が神代光生だということを認めていないからです。
神代光生だと認めていないため呼び方に困ってしまい、今は助けてくれた時に渡された唐揚げ弁当をとって唐揚げヒーローと心の中で呼ばせていただいています。
「あの、こうせ……からあ……えっと、あの、どうして助けてくれたのですか?」
「ん? どういうことだ?」
私には疑問でした。いくら彼が最近有名なモデルだったとしても、さっきまで絡んできていた男の人たちが彼を知っている可能性のほうが低いだろうし、何より相手は3人もいたのです。
私は囲まれてしまっている状況でしかも周りから見て見ぬふりをされているという圧倒的不利な状況。
にも関わらず、彼は一人で助けてくれた。
「私を助けることは危険がある可能性もあったのに、どうして助けてくれたのですか?」
「どうしてって……困っていたから?」
「そんな理由で動けるのですね……」
「あー、確かに今考えてみると危なかったかもしれないな……。でも可愛い女の子が嫌がっているのにそれを無理やりナンパするなんて……なんというか無視はできないだろ?」
「そんな……! いえ、あなたのように考える人は居ても行動できる人はほとんどいないと思います」
そうか? なんて彼は呟いていますが、正直なところ、私はその答えを期待してしまっていたようです。
私は学校では学年問わず様々な人から告白されています。容姿に手を抜いていない私はモテているのでしょう。
しかし告白してくる彼らは、私の中身など見ずに外見でしか判断してくれないのです。だって、告白してくる人のほとんどは私が話をした事がないような人ばかりなのですから。
一目惚れなんて言葉も聞き飽きたしそれなら私より可愛い人が現れたら簡単に浮気をしそうだし、何があっても君を守るとかいうセリフは、ほとんど話したこともない相手から言われてもどうしてそれを信じることができるのでしょうか。
いやらしい視線の人の目的はあれでしょうし、私と付き合うということ自体を名誉と考えている人がいることも耳に入ってしまっています。
先ほどナンパされていた時も私と同じ学校の人を見かけましたが逃げるようにどこかへ行きましたし、本当に私を見てくれる人なんていないのではないかとすら思い始めていました。
だから私はこうして助けてくれた彼に打算が無いという答えを貰えるのではと密かに期待してしまっていたのでしょう。
あわよくばなどという考えもなくただ善意で動いてくれるような人が居ると思いたかったのでしょう。
結局彼は期待通りの答えをしてくれて、もしかしたら彼を危険に晒していたかもしれないのに嬉しい気持ちが生まれてしまい、自分の浅ましさを自覚しました。
「……巻き込んでしまって申し訳ありません……」
「ん? 謝るような事なのか?」
この謝罪はただの自己満足にしかなりません。危険に巻き込んでしまった謝罪と私の事情に関わらせてしまった謝罪。彼には二つ目の意味は伝わりません。
「うーん……。江橋さんが今何を思っているのかは分からないけれど、ナンパされたのは江橋さんの意志ではないし助けたのは俺の意志」
「あなたの……意志ですか…?」
「そう。ないとは思うけれど、これでもしあのチャラ男に逆恨みで俺が絡まれたとしても俺の自己責任だし、それを人のせいになんてしない。ま、チャラ男とまた遭遇する可能性なんて皆無だと思うけどな」
「……あなたは優しい人なのですね」
「うーん……優しいというか今だけというか……。少なくとも優しい人間ではない」
三対一で助けに来てくれる時点で今まで私が知っているような人とは違うし、優しくないのなら優しい人間ではないだなんて自分では言わないと思います。
まぁ、そんなことを彼に言ったらきっと同じようなことを言われて終わりだろうし、神代光生だと認めてくれないことも何か理由があるのかもしれません。
そんな話をしながら歩いていたら、いつの間にか家の近くまで来てしまいました。ここからは危険は無いと言い切れるのでここで彼とはお別れでしょう。
……なぜだか彼とまだ話していたいと思っている自分が居ます。これは……ファンになってしまったということなのでしょうか……?
「ここからすぐなのでここまでで大丈夫です。あの、本当にありがとうございました!」
「まぁ女の子が夜1人で出歩くのは危ないからこれからは気をつけてね。特に江橋さんみたいな美人だと危ないからね」
可愛いとか美人とか、褒められたりすることはよくありますが、嫌悪感を抱かせずにここまでナチュラルに言われたことは初めてです。
言われ慣れているはずなのに、何故か胸がドキドキします。
持ち上げようとか考えずにただ本当に思っているから出てくる言葉だと分かりました。
だからというわけではありませんが、私は最後にもう一度聞いてみます。
「……はい。ーーあのっ! 最後に……神代光生さんですよね?」
「違います。人違いです」
……ふふ。確かに私が彼を知ったのは今朝です。だからもしかしたら見間違いなのかもしれません。
でも、今感じているこの想い……もっと話していたい、彼のことを知りたいと思う気持ちは間違いではありません。
あなたが神代光生でも違うのだとしても、私はもう一度彼と会って話をしたいと思います!
湧き上がってくるこの想い……ファン魂にかけて!
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