第7話 超絶美少女は助けられる
Side:江橋麗華
「やめてください! 警察を呼びますよ!」
「いいじゃねえか、ちょっとくらいよ?」
あぁ、どうしてこんなことになっているのでしょうか。
私は、ただ切れてしまったインクを買うために買い物に行っただけだったのに、帰り道にチャラそうな三人組がいきなり絡んできてしまったのです。
一度家に帰ってしまったので辺りは暗くなってしまっていることと、大通りではない道を通っているせいなのかもしれません。
いつも絡まれたときは断ってしまえばすぐに退く人ばかりだったのですが、今日は警察を呼ぶと言っても引き下がってくれないのには困りました。
為す術が無くなってしまい周りを見渡してみても皆見て見ぬふりをするだけで通り過ぎて行ってしまいます。
誰でもいいので友達のフリでもしてくだされば助かるのですが、三人組が相手ということが良くなかったのでしょうか……?
「やめてください! これ以上近づいたら本当に警察を呼びますよ!」
「いいじゃねえか、少しくらい遊ぼうぜ?」
「そうだ。どうせ1人だろ? ほら、周りもみんな見て見ぬ振りじゃねえか」
確かにこの人たちが言う通り見て見ぬふりをされていますが、付いていく理由にはなりません。
触れようとしてきたため大きな声を上げてしまった時横から誰かが会話に入り込んできました。
「あ! やっと追いついたよ、お待たせ麗華さん。はい、これ頼まれていたもの」
まるでチャラ男達など眼中にないかのように乱入してきた男に驚き、新手のナンパが増えたのかと一瞬思いましたが、渡された袋の中身を見て考えを改めました。
頼まれていたものと称して渡された袋の中身は唐揚げ弁当だったのです。
明らかに持っていた手持ちを急ごしらえに利用した小道具と話しかけられた言葉からこの人は助けてくれるのだと判断しました。
私が唐揚げ弁当を頼んでいたという意味になると気がついて一瞬気が抜けてしまいましたが、彼は私を助けてくれるためにこのような行動をとっているのです。
彼は私に追いついたと言っていたし頼まれごとをされていた設定だったみたいだから話を合わせました。
「先に行ってしまったかと思っていました。探してもらってごめんなさい」
「こっちこそ、俺も紛らわしいメッセージを送っちゃったって思っててね。中々既読が付かなくて心配したけれど追いつけて良かったよ。で、君たちは何か用あったのかな?」
「なっ……てめぇ……! ……ちっ! なんでもねぇ」
助けに来てくれた男性に何かを言おうとしたようでしたが、絡んできていた人たちの中で一番偉そうな人が止めてくれました。
なぜなのかと疑問に思って周りを見渡してみるとなぜか見て見ぬふりをしていた人たちがカメラを取り出していたのです。
よく状況が把握できませんでしたが、助けてくれた男性に引かれるままその場から離れると、そのまま男たちも引き下がっていきました。
「……ふぅ、全く……。危ないことには見て見ぬ振りが今のこの世の中だからな……。おっと、大丈夫だった?」
しばらく手を引かれてからこちらに注目している人がほとんどいなくなった頃、彼は立ち止まってこちらを振り向きながら話しかけてくれました。
そこで私は彼が今朝見た雑誌に特集されていた神代光生だということに気がつきました。
「えっと、はい大丈夫でした。あの……助けて下さりありがとうございました! その……神代光生さんですか?」
「違います。人違いです」
でも、帰ってきた返答は予想とは反して否定でした。彼はどうみても今朝見た通りの見た目ですし、なにより周りの人がカメラを取り出した理由は彼に気がついたからでしょう。
「え? あれ、でもその……」
「まぁ! とりあえず離れようか」
否定されるとは思っていなかったせいで詰まってしまった私はそのまま歩くことを促されて自然と誤魔化されてしまいました。
「昼ならまだしも、もう8時近いんだから1人で出歩くのは危険だと思うよ?」
それを言われてしまうと痛いところです……。普段の私は夜になったら一人では出歩かないのですが、買わなければいけないものがあったのです。
だから、その事を彼に正直に答えます。
「あ、どうしても買わなければいけないものがありまして……」
「あー……それならしょうがないのか……? それで、買う必要だったものはもう買ったのか?」
「はい、買い物を終えた帰り道に声をかけられてしまった感じで……その後は今の通りです……」
言い訳するつもりはありませんが、彼に助けてもらわなければ今頃はどうなっていたかはわかりません。
これ以上は迷惑をかけることはできないと思って帰ろうとしたのに彼の次の言葉は思ってもいないものでした。
「そうか……帰り道はどっち?」
「え?」
「迷惑でないなら、また絡まれでもしたら大変だから送っていくよ」
確かにここから少しだけしか距離はないとはいえ、先ほど絡まれた場所もそんなに人通りが多くない場所だったのです。
送ってもらえるのなら安心ですが、ただ助けてもらっただけの私がここまでしていただいてもいいのでしょうか……。
「えっと、この通りをまっすぐです。あの、本当によろしいのですか?」
「うん、そんな距離は変わらないからね」
「っっ! ありがとうございます!」
逆方向だったらどうしようなどと考えてしまいましたが、結局彼は嫌な顔一つせずに「うん」と頷いてくれました。
私はつい嬉しくなってしまい、大きな声でお礼を言ってしまいました。
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