第9話 超絶美少女は気がつく

Side:江橋麗華


「ただいま……」


 いろいろあって疲れてしまいましたが、無事に家へと帰ることができました。


 危なくないように秘密にしているため、本当に親しい人以外にはあまり知られてはいませんが、私は現在一人暮らしです。


 だけど、誰もいない家の中にただいまと言ってしまうのは言うことが癖になっているのでしょう。


 それは置いておいて、安全性を考えてセキュリティはかなり高いところに住んでいますが、掃除も家事も1人でやらなければなりません。


 いつもなら家に帰ってから取り掛かるのですが、今日はそのような気分にはなってくれないしやりたいこともあるためサボってしまいましょう。


「それにしても……あの様子はやっぱり本人で間違いありませんよね」


 彼は終始人違いですと言っていましたが、今検索した画像に載っている人物と彼は完全に一致します。


 もしかして、仕事にこだわりを持っていて、オフだったから本名でないと反応しないというプロ意識だったのかもしれません。


 今日雑誌を見せてくれたのは誰だったでしょうか……。あぁ、明梨ちゃんでした。よし、今すぐ連絡をしましょう……。


 いやでも彼女も神代光生のかなりのファンです。……もし会って助けられただなんて話をしてしまったらどうなるか予想もつきません。


 まずはインターネットで彼のことを調べてみましょう……。今朝知ったばかりで、ファンになりたての私は彼のことを全く知らないのです。


 仮にもファンを名乗るのならば、生年月日程度は知っていなければいけないでしょう。


「誕生日は……12月ですか。出身は2つほど隣の県ですか……驚くほどに情報が少ないですね……」


 私は彼との会話を思い出してみます。颯爽と現れて自然な流れで唐揚げ弁当を渡して助けてくれた唐揚げヒーロー。


 ……いえ、唐揚げはただの小道具だっただけでトレードマークのように言ってしまうのは良くありませんね。


 その後は彼の影響力に助けられた形になりましたが、ああいった人望すら彼の力の一つと考えてもいいのではないでしょうか。


「……そういえば彼は仕事帰りだったのでしょうか? それとも買い物に行った帰りだったのでしょうか……。もし買い物なのだとしたら……はっ! いけません。ストーカーのような思考をしてしまいました……」


 そうです! 私はファンになっただけで彼の私生活に介入したいのではないのです!


 ……確かにもう少し話をしてみたいとか彼のことを知りたいとは思いましたが、本名も学校も私生活に関わることがことごとく不明なのに接触できるだなんて考えていません。


 それに、私が彼に助けられたことは特別なことのように思っていたとしても彼にとっては当たり前のことかもしれません。


「外見だけでなく、内面が優しい人だということがもしも演技でないとしたら……それはますます憧れてしまいそうです」


 ……でも、正直彼はずるいと思います。


 危険を承知で私のことをさらっと救っておいて恩を着せようともせずにいますし……自然な流れで私を送ってくれました。


 それに、口には出していなかったけれど、もしもまだ私がインクを買えていなかったら多分買い物に付いてきてくれる様子でしたし、別れ際に江橋さんは美人なのだからなんてサラッと言ってしまえるのです。


 持ち上げようとするのではなく多分本当に思って……あれ……?


「……ちょっと待ってください、おかしくないですか? 最初から思い出してみましょう……」


 一番最初に彼が来た時に彼はどうやって助けてくれましたっけ……。確か……。


「あ! やっと追いついたよ、お待たせ麗華さん。はい、これ頼まれていたもの」


 やっぱりおかしいです! あの時は気がつきませんでしたが、私は彼とは初対面なはずです!


 そして、別れる時も私は適当な名前ではなく江橋さんと呼ばれました。


「……彼は私のことを知っていた……? そんなことが……?」


 少なくとも私の容姿とフルネームを彼は知っていたということでしょう。しかし私は神代光生を見たことがありません。


「……彼はなぜ私のことを知っていたのでしょうか……。情報を整理してみましょう……」


 ……先ほどまで調べたことによると、同じ事務所の麻倉朝華は通っている高校が公然の秘密となっているのに対して神代光生さんは学校などの情報がほぼゼロだけど、私と同い年。


 私が学年問わず告白されていたとしても、それは学校内に留まっていて他校の生徒にも有名だなんて話を聞いたことはありません。


「彼は意外と近くにいる……?」


 私生活の情報が無いのは居ることに気がつかれていないからなのではないでしょうか?つまり、私を知ることができる範囲つまりーー同じ学校にいるかもしれない?


「もしそうなら知りたいです。一体どのような人なのか、どういう性格なのか」


 彼ほどの容姿を持つからだったからこそなのかもしれませんが、下心や取り入ろうという気持ちを感じさせない会話は初めてだったのです。


 まるで初めて対等に話してくれる人が現れた気がして……もし近くに彼が居たのなら私は友達になりたいのかもしれません。


 神代光生につながるヒントは、声や持っていたバッグくらいしかありませんが、卒業までにはきっと見つけ出してみせます!


 そして彼と友達になってみせます!





 ええ、昨日卒業までにだなんて張り切っていた私ですが、1日目にして見つけたかもしれません。いえ、99パーセント確定です。


 まさかこんなに近くにいただなんて予想だにしていませんでした。


 彼を脳内であんな呼び方をしたことを反省していましたが、訂正します。……というか溶け込みすぎではありませんか!?


 モデルとしての存在感はどこに行ったのですか!?


 神代光生いや、日裏静哉さん。いいえ……唐揚げヒーローさん!


……ともかく、見つかったならいいのです。私は彼を知りたい。彼と話をします!

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