第5話 モブ高校生は家庭的
「今日は久しぶりに弁当を買うから……よし、1人だと中々作るチャンスがないし贅沢に唐揚げ弁当にしよう!」
俺は基本的に自分で弁当を作っている。
その理由は一人暮らしを始めて自炊をするようになったこともあるのだが、一番の理由は弁当を作ると言う行為が平凡に繋がっていると考えたからだ。
ちなみに、カップラーメンが合わない体質なため、楽をしようとすると弁当を買うしかないため金がかかってしまうから、やむを得ず自炊をするようになったという裏事情もあったりする。
弁当を作り始めて最初に考えたことは「あれ? これってモブ要素じゃね?」だ。
ここでの注意はイケメンの手作り、美少女の手作りならモブの盾ではなく人気の矛に早変わりすることだ。
イケメンや美少女のような強者には無いが、弱者であるモブにはクラスチェンジ先が数個ある。
1つ目は友達消失ぼっち野郎だ。
これは俺としてはバッドエンドに繋がるクラスチェンジ先になる。
考えてみよう。ぼっちが活躍する場面はどんなところか。それは会話と会話が途切れた瞬間だ。いやそれ以外に活躍するわけがない。
しかもぼっちを活躍させるのはトップカーストである圧倒的強者ではなく、陽キャにクラスチェンジしかけているウェイ! って感じのやつになる。
彼らはトップカーストという上を目指すために命をかけていると言ってもいい。
話題を欠かさない。
欠かしてはいけない。
話を途切れさせるわけにはいかない。
トップカーストのようにそこに君臨するだけでは生き残れない。話題という名の報告を聞く王は一人で充分なのだ。
しかし、彼らの話題貯蔵庫は無限ではないし綺麗に整理されているわけではない。あれ? 会話が終わった? という考えが浮かんだその時! そこで突然! 自分の意思でもなく! 登場するのがぼっち。
「あれ? ぼっちくん今日もぼっちでまじぼっちじゃね?」
「それな~? きゃははは!」
「ぼっちくんがぼっちなの可哀想だから誘ってやれよ~」
「いやお前がな~?」
この猿のような会話をしている間、ウェイ! の脳内回転速度はスーパーコンピュータだ。
(まずい、どうする?! 昨日のテレビは……もう話した! ならばアニメ……は過去の俺だ! そのような脆弱な俺はもういない! どうする? 落ち着け俺。俺は陽キャ、俺は茶髪! そう! 俺が会話を作る! そうだ、俺が中心だ……そうだ! 朝聞いてたじゃねぇか! それらしい話題をよ! さすが俺、中心人物!)
「朝、神代光正の話をしてたけどさ~、麻倉明華もまぢやばくね?」
この場合、ぼっちはただただ利用されただけで終わる。
2つ目は注目マシマシエリートモブだ。これも俺が目指す平穏とは違う道となるクラスチェンジ先になるためバッドエンドだ。
さて、エリートモブとは何か。それは、物語として語られないだけで活躍している存在であり、名前だけしか出てこない存在だ。
彼らはエリートではあるがエリートである前にモブであるためその存在は定かではない。名前は出るのに挿絵が出てこないやつのような存在だ。
「今回も田中が1位らしいぞ?」
「え? 中田じゃないのか?」
「うーん……でもそんな訳わからないやつじゃなく、2位の二階堂の方が運動もできるし凄いと思うわ」
「確かに! 中山ってどこのクラスなのかもわからないしな!」
そう。彼らエリートモブもいわば引き立て役。
主人公が黒幕を倒すために戦闘している最中に街へ侵入しようとしたモンスターを駆除しているような存在。
その場合街を救ったのは実際に街を破壊していたモンスターを駆除してくれたエリートモブのおかげではなく、黒幕を倒した主人公のおかげとなって名声を総取りされるのだ。
「黒幕は倒したぞ! 街は大丈夫だったのか!?」
「はい! 街のほうはエリモブさんが倒してくださいました! 街が救われたのは主人公さんのおかげです! さすしゅじ!」
「「「うおおおおお! さすしゅじ! さすしゅじ!」」」
エリモブの登場シーンは1行のみ、しかしどこかで注目を集めているそんな存在。
つまり、こちらは積極的な脇役という感じなため目立つ行動を学校でする気は無い俺には当てはまらないクラスだ。
まぁ長々と話が続いたが、弁当を作ることはどう繋がるのかって? それは友達消失ぼっちエンドに似た絡まれモブエンドを避けるために他ならない。
いくらモブを心がけていても学業については手を抜いていない俺の中では、午後からの授業に集中するためにも弁当を作らずに学校に行ったとしても昼を抜くという選択肢はありえない。
そうなると弁当を持って行っていなかった俺に取れる行動は購買でパンを買う事のみになる。
しかし、買いに行く時にはドアを開けるなどするときに一瞬は多数の注目を集めてしまうだろう。それが何度も続いてしまうと……。
「あいつまたパンを買いに行ってるぞ!」
「俺のも今度一緒に買ってもらおうかな!」
「いいんじゃね! ついでだしな!」
しかし、弁当を作っていくとどうなるか。少し考えてみると分かってくると思う。
「弁当とか女々しいなぁ!」
「え? ウェイくん料理できないの?」
「弁当じゃなく食堂いけよ!」
「私も自分の手作り弁当なんだけど……」
なんという事でしょう。ウェイの何気ない一言が家庭的な女子批判へと繋がってしまうのです。
陽キャへのクラスチェンジを目論むウェイ! にそんな選択が取れるはずもなく、弁当1つで昼における絡まれる要因のほとんどを潰すことができるのだ。
「よし、あと買うものは無いよな……ないよな?」
とまぁ色々と考えながらノートや予備のルーズリーフも忘れずにかごに入れて、今日の夕飯用の唐揚げ弁当と卵や冷凍食品などの弁当用の食材をまとめて買うと今度こそ帰路につく。
神代光生ということに気が付いているのかは分からないがちらちらと顔を見ながらレジをされるとセルフレジのほうが良かったのかもしれないとも思ってしまう。
1年も繰り返していればもう慣れたが、静哉と光正の時では180度違う周りの態度に苦笑いを浮かべながら帰路を歩く。
今日はプロによって完璧な化粧を施されてしまっていたから神代光生だとばれているようだ。いつもより視線を集めてしまっていた俺は仕方が無いから違う道を通ることにした。
荷物が重くは無いが大きかったけど目立つよりはましだと考えて、いつも通る大通りではなく少し遠回りになるが細い道を通ることにする。
この時、いつもと同じ道を通っていれば、いやそもそも買い物に寄らなければ俺の日常は変わらなかったのかもしれない。
「…………てく……い!」
「……ん? なんだ?」
少し離れたところから微かに女性の声が聞こえてきた。
「やめてください! 警察を呼びますよ!」
今度ははっきりと聞こえた。確かに奥の方から声がした。
「あぁくそ! 面倒事かよ……!」
モブ的にはこの声に聞こえないふりをすることが正解なのだろうが、今の俺は神代光生つまりモブとはかけ離れている。
行かない理由が無い俺は、声がした方向に急いで走った。
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