第4話 モブ高校生は鈍感なのかもしれない

「お疲れ様! 気をつけて帰ってね!」


「お疲れさまでした~」


「わかりました」


 もうすぐ夏に入りそうだというこの季節は撮影が終了して帰る頃にはどうしても辺りは薄暗くなってしまう。


 もう少し夏に近づけば明るい時間なのだが、今はすでに暗くなってしまっていた。


 そのため、大通りの別れ道までは涼風に危険がないように一緒に帰ることにしている。


「静哉は撮影の日の行き帰りだけイケメンだよね~」


「今だけだからこそ大丈夫なんだよ。学校とか魔の巣窟だぞ? 目立った瞬間排除だ。そんなところでこの格好をしてみろ。サーチアンドデストロイに決まっている」


「いや~もし目立っても神代光生ってだけで既に不変の地位まで上り詰めると思うんだけどね~」


 甘いな。学校という巣窟をなめすぎだ。このままだと涼風がいつ蹴落とされてしまうのか分からない。


 一つ忠告をしておいてやろう。


「いいか? 学校というのは権力の効かない陰謀渦巻く無法地帯なんだ。弱者の訴えは消され、強者は人脈と噂話を駆使して蔓延はびこるまるで異世界ものの王朝だ!」


 そう、学校とはうまく立ち回ったものが勝つ世界なのだ。先生は証拠がなければ動けない。


 スクールカーストという序列順に、影響力という武器を携えて度々起きる抗争。


 生活するには、生き残るには強者に従わなければならない。従順になり流れに身を任せなければいけないのだ。


 しかも従順になったとしても群のリーダーが求めている話題を勉強する必要も出てきてしまう。先週の雑誌、昨日のテレビなどさまざまなものが渦巻いている。


 そして一番は不可抗力による排除。もしもリーダーの好きな人から告られでもしたら自分が原因ではないのにその時点でおしまい。


 一度言葉を、選択肢を間違えると空気が読めない奴としてはぶられ、グループの輪から外されることとなる。


 一度外れたものはそのグループには戻ることはできないし、ほかのグループに属することもできない。


「だから俺は無所属。目立たず騒がず居ても居なくても価値が変わらない者としてモブ生活しているのだ。例えるならば辺境伯だ」


「辺境伯ね~。辺境には他国だったり魔境だったり敵も多いから総じて強い武力を持っているものだよね?」


「その通り、って言っても俺の場合は迂闊に手を出せない辺境伯と違って、ただ手を出す意味がない弱小貴族のようなものだけどな……」


 適当に例えてみたけれどよく考えてみると学校という内政では無力だけれど、モデルという自領では無類の強さを誇ると考えてみると辺境伯というのは言い得て妙だったかもしれない。


「ま、静哉くんが辺境伯なら私はさしずめ公爵だね。私は取り巻かれる側だもん」


 涼風は学校でトップカーストとして降臨しているのだ。俺と違って隠すこともせずにモデルだということも言っているからその人気はすさまじいものだ。


 一回自慢用に一緒に写真を撮ってほしいって言われて2人で撮った時はすごく喜ばれた記憶がある。1人で映ろうかといったら2ショットだから意味があるとか言われたけれどその意味はよく分からなかった。


「お前はどちらかというと王より権力を持ちすぎた公爵だな」


「うーん……せめて王と同程度だと思うよ?」


「同程度あるのかよ……まぁ大丈夫だとは思うが男関係には気をつけろよ?」


「あ、心配してくれるの? でも大丈夫だよ。下心があるやつなんかと付き合う気は無いから!」


 涼風は、今まで近寄ってくるやつみんなが一目ぼれとか簡単な理由でしかないから心が動くはずもなくすべて断ってきているらしい。


 まぁ、だからこそただ対等な友達としか見ていない俺が仲良くなることができているんだと思うんだが……。


「あぁ、涼風はそういうやつだったな。ま、下心なく素で接してくれる人が見つかるといいな!」


「そうだね~。接してくれる人は1人居るけれど多分なびかないから他に探さないといけないかもしれないね」


「へぇ。涼風が諦めるような相手がいるのか。意外だな」


 下心が無くても話しているだけで可愛いって思うしなびく可能性が無いって……そいつ仙人か? 悟りを開いちゃった系男子か?


 もしかして下心があると関わることができないことに気が付いて下心を消したら絶食系男子になったみたいなやつか? そいつあほだろ。


「結構会話はするんだけど下心が無いからこそ進まないみたいな……?」


「うーん、もしかして彼女持ちか? それなら涼風に靡かないっていうのも理解できるけれど……」


「いや、彼女が居たっていうことは今まで聞いた事がないかな?」


 言っていて思ったが彼女が居ても少しは反応してしまいそうな気がする。やっぱり相手は仙人か? それとも学校の先生なのか?


 あ、分かった。プロデューサーさんだ。あれは涼風になびかないわ、しょうがないなあれは……。


「まぁ、あれならしょうがないんじゃないか? 誰一人眼中に入っていないって感じがするし……」


「え? ……なんか変な勘違いをしている気がするけれど眼中にはないのかもね……」


 涼風は少し憂鬱そうな顔をするが、残念ながらその理由は分からなかった。

 そんな話をしていると、いつの間にか分かれ道までたどり着いていた。


「じゃあここで、今日もありがとね!」


「いや、涼風は可愛いからな。仕事場が被った時くらいは送っていくのは当然だ」


「……はぁ、そういうとこ……。じゃあね?」


「ここから近いって言っても気を付けろよー!」


 ここからは俺の家まで10分ほどの距離だ。夕飯をまだ食べていなかったことを思い出し、だが何か作るという気分でもなかったため買い物に行く事にした。


 ここからスーパーまではすぐだし、ノートの残りも少なかった気がする。一通り見ることにしよう。

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