第3話 モブ高校生は仕事をする
俺は現在一人暮らしをしている。
今通っている高校は、特に深い理由はないのだが、同じ学校の顔見知りが多く行く地元の高校ではなく、地元から離れた少し偏差値が高い高校に進学をしていて実家は県を二つほど跨いだところにある。
家族は父と母と二つほど年が離れた妹が居るが、妹は俺の仕事も知っているしそれで言いふらしたりしないいい子だ。まぁ子ども扱いすると怒られるのだが……。
それに、この前も一緒に買い物に付き合ったくらいには懐いてくれているし、理想的な兄妹関係なのではないだろうか。
妹の話はいつかするとして、家に着いた俺はまずシャワーを浴びて服を着替える。そして普段なら印象を悪くする長髪をワックスで軽く整えて家を出る。
ここは割とセキュリティが高いし、多分同じ学校の人も住んでいないから特に周りを警戒する必要もない。
心なしか視界が明るくなったように感じながら家の外に出た俺は、連絡にあった場所へと歩いて向かう。
今向かっている場所は今日の仕事場であるスタジオ、日裏静哉が
ー—ー—ー—ー—ー—ー—ー—ー—
「おはようございます、みなさんお疲れ様です」
いつものように挨拶をしてからスタジオに入る。ここの空気は学校とは違った明るさがあるけれど、不思議と息苦しいと感じたことはない。
きっとここでは敵のようなものが存在しないということが大きいのだと思う。
「おはよう光生くん、今日の
「はい、わかりました」
「あら静哉くんお疲れ様。今日はよろしくね~?」
「おはよう
「君と一緒なら次も売れること間違いなしね!」
「涼風単体でも充分売れると思うけど……」
スタジオに入ると、俺は所属している事務所のプロデューサーと同年代のモデルである
プロデューサーは仕事時は、本名ではなく芸名で呼ぶことにこだわりを持つなど特徴のある人だが、一番の特徴はその見た目だろう。
性別は実は男なのだが服装は誰がどう見ても女にしか見えないけれど、中々にガタイが良く、声は俳優並の渋いボイスを持っている。
可愛いものが好きとは聞いたことがあるけれど、だからといって心が女なのかただ可愛いものが好きなのかは聞いた事がない。
どっちにしても男と女のどちらの目線でも見ることができるという、とても仕事ができる人だ。
「っていうか私単体でもっていうけれど、静哉くんの特集が載った雑誌がもう売り切れ多発って聞いたよ?」
「じゃあ今回はあのプロデューサーと涼風もいるんだから売り切れ待ったなしかな?」
「なっ……それってどういう……」
「じゃあそろそろ準備してくるから」
涼風は、芸名は
男性モデルで俺と言われているが、俺はどちらかというと被写体よりもカメラマンの腕がいいと思っている。
なぜなら仕事が終わってからはそのままの格好で帰っているけれど話しかけられることなんてほとんどないし、逆に隣を歩いている涼風は「握手してください!」なんて言われていることがあるからだ。
視線は感じることはあるけれど、その視線の意味は多分どこかで見たことがあるなぁ……程度だと思うんだよな。
今日撮影する写真はファッション雑誌に掲載されるものであり、時折俺も涼風もそこで特集を組まれることもあるものだ。
特集を組まれた月の雑誌は基本的に2人ともすぐに売り切れになるほどの人気だが、その2人が一緒に写るのだから個人的にその期待値はかなり高いと思っている。
とりあえず、涼風は準備を終わらせて待っているのだし、撮影をしなければいけないからメイクアップアーティストのもとに向かう。
「今日の髪はこうで大丈夫ですか?」
「んー、今日はデートコーデだからもう少し遊ばせようかな? といっても光生くんはこれで似合っているからね。正直短髪でもいいと思うけれど……切らないんでしょ?」
「そうですね。やっぱり短髪にしたらバレる危険性が高まってしまいますし……今日なんかクラスで神代光生特集買った! みたいな話をしていて椅子から転びかけましたよ」
「あはははっ! それはそれは……まぁ、確かに今月のやつはすぐに売り切れになったらしいよ? いや~、最初に社長に連れてこられたときは平凡にしか見えなかったのに整えてみればびっくりだったよ。よく社長も見つけてきたもんだと思ったね」
「まぁ、声をかけられたときは驚きましたけど、自分を変えようと行動する良いチャンスなのかな? って考えて乗っちゃいましたね」
「乗っちゃったか! よくまぁたった1年間で一気に人気になったもんだね~っと、よし! 行って大丈夫だぞ」
「ありがとうございます、撮影してきますね」
俺もこの仕事を始めてから1年間、髪をワックスで整えてはいるがメイクアップアーティストはその道のプロだ。
俺が自分でした整え方よりも見栄えが良くなっており、軽く化粧も施された事によってモデルにふさわしい容姿となっていた。
学校に行っているときとは180度違う姿だから、もしこの撮影風景を見たとしてもばれない自信がある。まぁ、そんな賭けみたいなことをするわけはないのだが。
「光生くんこっちよ! ……いや、これは売れるわ」
「静哉くんいつもはワックス付けないで髪下ろしているんでしょ? もったいないなぁ」
「学校では良いんだよ、俺は平凡に生きたいんだ」
「モデルをしながら平凡……ねぇ?」
「じゃああれだ。知らないうちに俺の魔の手が学校中に伸びている」
「内部工作かな?」
「はい、仲が良いのは良いことだけど、そろそろ撮影始めるわよ!」
「「はーい」」
こんな風におしゃれな服を着て髪も含めた格好をしっかりした状態で会うのは、家族以外では一緒に撮影したりよくスタジオが被る涼風くらいだ。
お互い学校は知っているけれど、実際の関わりが仕事程度しかない事と、涼風が裏表なく思ったことを言う性格なため、俺はほとんど素でかなり自然に話をすることができているし唯一の女友達のようなものだ。
涼風も色目で見てこない貴重な男だなんて言っていたから、同じように思っていてくれたのならうれしいと思っている。
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