第2話 モブ高校生は平凡な学校生活を過ごす
俺こと日裏静哉は平凡を目指して生活している。
いじめられたくない、排除されたくない、避けられたくない。
この3つが俺が生活する上で常に願っていることであり、これさえ達成することができたのなら最も生きやすいと思っている基準だ。
今年で高校二年生となった俺は、目立たずに平凡に生きることこそ目指すべき目標として日々の学校生活を過ごしている。
現時点での学校生活では世間的に上位と言われている高校に通い、悪目立ちなどもすることもなく日々が過ぎ去っており、俺にとって理想の学校生活と言っていいだろう。
俺が常に目指すべき目標はモブ OF THE モブ。
誰にも気付かれず、誰にも悟られずにいつの間にか背景に存在し気付かぬうちに消えてゆく。これだけ聞くとまるで暗殺者のようだが、暗殺者はどちらかというとモブではなく主役だから却下だ。
注意してほしいことが一つだけあるが、それはぼっちはモブと思われがちだが、モブ=ぼっちと言う方程式は成り立たない。
それどころか、適度に目立ってしまう存在であるぼっちは人気者の取り巻きより避けなければならない職業である。
例えるのならば、クラスで最もイケメンのやつや学校が誇る美少女のようなトップカーストがレベル100で既にカンストしている有名冒険者なのだとしたら、ぼっちは始めたて初心者。
ステータスもスキルも称号もなにも知られていない新人冒険者。つまり無限の可能性を秘めている。
精霊と出会う。
誰にも知られていなかった何かを発見する。
どんな些細なことでもいいから何か偉業を為してしまった瞬間に簡単に話題を集めてしまい、ボッチから話題の人にクラスアップしてしまう。
ぼっちがクラスアップ可能な職業なのに対して、モブというのはボッチがクラスアップを果たした時に「あいつならできると信じてた!」とか言う、お前は一体誰なんだ? みたいな人間だ。
もうお分りだろう。俺が目指すモブとはレベル100になっている者と同じくらいから所属しているのに中堅止まりの……例えるならファンタジーでギルド内に入った主人公に最初に絡む当て馬おじさん的ポジションなのだ。
どの物語のどこにでも存在する! 5作品見れば5人出てくるモブおじさん。だけど当て馬おじさんの出てきた作品名と出てきた当て馬おじさんの名前を一致させられる人など居るだろうか? 彼は一回しか登場しないのに。
レジェ〇ドで最初に絡んできたやつのパーティ名? 〇の爪! なんて答えられる人間は……いや、あの作品なら数回名前が出てきたから分かるかもしれないけれど、メンバー全員の名前まで覚えているやつはいないはず!
The平凡、Viva平凡!
適度な量の友達、適切な他人との距離感。
「今回のテスト、〇〇さんがまた2位だったんだって!」
「そうなの!? え、でも〇〇さんを越えて一位だった人って一体誰なの?」
「えっと、誰これ? 知らないし気にしなくていいんじゃない?」
「そうだね」
と、こんな感じでいくらテストで1位を取り続けてもその下にいる2位の美少女しか注目されないような存在を目指しているのだ。
まぁ俺はすでにその為の方法は確立していると言っていいだろう。
まず、普通に登校するなら余裕すぎると言えるほどの時間に起床し、寝癖を直して顔を洗ってからいかにもパッとしない雰囲気の伊達眼鏡をかける。
朝食を食べてから忘れ物が無いかを確認し、8時半に登校を完了すれば充分間に合う学校に、まだ教室に誰も来ていない時間に登校するために7時過ぎに家をでる。
教室に着いたら俺の席である、左奥の前から二番目の通称モブ席で本を読み始める。話しかけられないことが前提として顔を一切上げないことがポイントだ。
これこそがモブとして押さえるべき基本であり誰にも気にかけられないただの空気になる方法、俺はこれを入学してから今までずっと保ってきた。
そもそも、割と長髪でずっと本を読んでいるような人に話しかけること自体ほとんどの人はしないだろう。俺と会話する人自体ほぼ固定で1人、居ても2,3人だ。
俺が一番乗りに登校した教室は、俺が登校してから20分もすると徐々に教室に人が現れ、話し声が響き始める。そして、30分ほど経った頃騒がしさは一気に最高潮を迎える。
「おはよう麗華ちゃん! 昨日のドラマ見た?」
「おはようございます凛ちゃん。見ましたよ、面白かったです!」
「おはよう江橋さん、土曜日に発売したあれはもう見た?」
「ごめんなさい、土日は少し忙しくて……まだ見ることができていません……」
今現在登校してきた彼女がこのクラスどころか学年のトップカースト、江橋麗華だ。艶やかな黒髪のロングヘアーを
女子は取り巻き、男子は近づく事すらできないほどの存在感。噂では新年度に入って間もないのに告白された回数は2桁を越えているらしい。
俺たちのようなモブにとってはまさに高嶺の花だろう。
「いや~あそこのグループはいつも通りすごい人だよなあ? 静哉」
「もう見慣れた光景だろ、雅人も混ざってくればいいじゃねえか」
「いや、俺には難易度が高すぎるし正直に言って遠巻きに眺める程度で満足だな!」
「うるせぇ、少しくらい希望を持ってみろよ。もしかしたら実は気になってる相手でしたって言われるかもしれないぞ?」
「はいはい……見てるだけで充分ですから……」
今俺に話しかけてきたのは白木雅人、同じ中学校だったが、高校で同じクラスになった時に初めて話しそこから友人となった。
ちなみに最初の一言は「お前居た?」だった。お前こそ居たのかよと言いたくなったが、俺は雅人の言葉で中学校生活をモブで過ごすことができたことを確信することができたから、自己紹介で聞いた名前を全力で思い出して挨拶をしたことによって友達になったのだ。
そう。雅人こそが俺が学校で唯一と言っていいほど会話する人物だ。ちなみに昼飯も一緒に食べている。
俺がぼっちではなくモブとして存在できている要因の中には、雅人という友人の存在がかなり大きいだろう。
会話する人物が1人存在しているだけで、人はぼっちからモブに変わる事ができるのだ。
「——ですので、今回は見送ろうかと……」
「え、そうなの!? 確かにすぐ売り切れちゃうけれど実は今日持ってきているんだー、一緒に見ない?」
「いいのですか? それでは是非見させてください!」
「いいよいいよ! せっかくだからみんなで見ようよ! 今回はなんと神代光生特集なんだから!」
ガタッ!
「え? ……あ、そうなのですか? その人気の方の特集だったからすぐに売り切れになっていたのですね……」
「そうそう! って、神代光生様をしらないの!? 私が買った時もすでに残り数冊だったんだから!」
……聞こえてきた話の内容を聞いて椅子から滑り落ちそうになってしまった。
雑誌の話をしているなぁと軽く聞いていたらまさかその名前が出るとは思っていなかったし、言った相手も100パーセント意図して言ったわけではないのは分かっているが、驚くものは驚くのだ。
江橋さんが音に気がつきこちらをちらりと見たが、ただ音を鳴らした変な人程度にしか思われていないだろう。
俺はモブなのだから気にされる方が調子が狂ってしまうというものだ。
気を取り直して小説を読むことを再開し、先生がやってきてホームルームの時間がやってくるのを待った。
その日の授業も何事もなく平穏に終了し、帰宅の時間になると俺は誰よりも早くに教室を出て、帰宅する。
用事がない日の方が多いのだが、今日は今から仕事が入っている。……まぁ、用事があろうと無かろうとすぐに帰ることは変わらないのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます