第43話
とりあえずということで応接間にあつまる。
隊長、あとから馬を走らせ飛んできたA国の役人、帝国側は団長とこの騎士団の幹部級が数人。
「どう話すべきかわからないので1から話させてもらいます」
A国の役人はそう口を開く。
「本日の朝、我が国の軍付属病院より速達で出張所の方に文が来ました。内容は帝国の冒険者たちについてです」
なにか重大で言いにくいこと。言葉を選んでいる様子から帝国側の人間はそれを察する。
「病院に入院しておりました貴国の冒険者のうち一名が自殺を図り死亡しました」
「男性2名女性2名で4名ですが、自殺を図ったのは女性、装備や服装からして魔法使いと思われます」
「自殺、自殺!?」
幹部の一人はもう驚きを隠さない。
なぜそこで死ぬのか。
「話はここからです。この件について警察が捜査したところ、ほかの3名が、これから我々が探す予定だった冒険者は死んだ、仲間割れでその魔法使いが殺してしまったという旨の発言をしているとのことです」
その言葉を聞いた団長は頭を抱えた。
「こうなってくると、昨日の協定とはまったく違う話になってきます。この点についてはご了承いただけますか」
「当然ですね。二か国の政治事情に巻き込まれた被害者なら簡単に渡してくれるでしょうが」
殺人の容疑者なら話は別だ。
それに
「あの土地がどちらの国の領土か、という話になりますね。こうなると」
密猟者がいる、泥棒が逃げ込んだ、逃亡犯があの土地にいる、人が迷い込んだかもしれない。
そういう話なら騎士団と向こうの国境沿いの町や役場、警察や軍隊との交渉や協定で解決できる。
極端な話「あの島のような土地から出てくるまで待つ」でいいのだ。
密猟者がでてきた方の国の法律を適用するだけでいい。人食いサルに食われる前にあの土地から逃げられれば、の話だが。
しかしあの土地で殺人のような重大犯罪が起きたとなると話は別だ。
どちらの法が適用されるか、つまりどちらの国の土地か。
「こうなるとこちらも首都の人間を呼び寄せて対応せざるえません。引き渡しについては上層部同士の話し合いが解決するまで一旦延期ということで決着の形にしましょう。そういうことですね」
「表向きはそういうことだ」
それを聞いた団長は隣の幹部に命令。首都への連絡、外の捜索隊に待機の命令、そういった事を行うために部屋の外に出ていく幹部。
それを見てつづける隊長。
「表向きではお互い待機ということにしたいが、今日は、また別の話がある」
「これは公式ではないルートで情報なんで他所には漏らしてほしくないんだが、警察の連中は身柄を抑えてているA公国で対応すべきだと息巻いているらしい。軍の連中も似たようなもんだ。妥協する気なし。というより領土問題になっているか認識しているかもあやしい。一方で議会はそこまで大事にしたくない派と妥協すべきでない派で分かれているという話も流れてきてる。どいつもこいつも、今まで興味すら持たなかったのに」
隣に役人がいるのに正直な感想を述べる。
手の内を明かすことで何かしらの同意を得ようということか。こういう人は出世するだろう、うちの団長と違って、と同席した騎士団幹部は考える。
「こちらは今聞いたところですから、わかりませんね。話が伝わるのはどこかでドラゴンを調達しても3日後だ」
国の広さはこういう問題も引き起こす。だから帝国は現地の権限が大きいが、それもよし悪し。
「ただ、我が国も似たような物でしょう。それに官僚主義って悪癖があるし、冒険者組合との話も出てくる。相当荒れると思います。ただこの騎士団責任者としては、平和的な結果を望みます。争いなく、話し合いで双方が納得する決着にしたい」
A国との関係を良好に保つことは当然として、A国と関係がこじれればその向こうの共和国との関係も変わってくる。それは不味いのだ。
「それはこちらも同じです。我が国と帝国は現状の関係を続けていてほしい。というよりも、争いになって一番迷惑をこうむるのは今最前線の我々です。責任おっかぶせられることになりかねません」
二人の会話を聞いていたA国の役人が口を開く。
これはこの部屋にいるほとんどの人間が思っていることだ。
どっちが勝っても何が手に入るわけでもない。あるのは使い道がない土地だけ。その一方で責任は取らされたらどうなるか。
さすがに紐を使った自分の首の強度実験をやらされることはないだろうが、それにしてもいい結果はないはずだ。
「ですから、首都の連中が出てくる前に多少、我々で事前策を打ちませんか」
「つまり、我々で勝手に動こうってことですが」
「もちろん法に触れず、お偉いさんたちに嫌味垂れられて終わる程度の動きだけどさ」
団長はすこし眉をひそめたが話は成立。
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