第21話

「事情はわかりました。確かに、あなたの言う通り、普通なら我々騎士団が止める理由はありませんが、今回は我々が主で騎士団を結成することが決まってまして。まぁこちらも1から事情をお話ししましょう。そういった事情であればお役所仕事的に追い返すのはどうかと思いますし」

 どこから話したものか、と考えたうえで最初から話すことにした騎士団長。

 彼らは話が分かりそうだ。妙なことを言い出す首都の役人連中よりはいい。


「そもそもダンジョンがある地域、といっても山の上から全部が見渡せるんじゃないかって狭い場所なんですが、はA国と我が国の境目にあり領土が未確定です」

 そう言って団長は従者に地図をもってこさせる。

 広げられる地図。騎士団や建築業者などが使う精密なもの。

「この川が国境と決まってるのですが、ここで二股に別れてるでしょう。で下っていくとまた合流する」

「まさか・・・間・・・土地?」

 団長の指は地図上で川の上流から流れに下っていき、途中で二つに分かれている場所で止まった。

 二つの河川は地図の上で陸地を細長く切り取るように下り、そしてすぐにまた一本の川として合流している。

 それをみた鉄兜の言葉。

「えぇ、その通りです。このちょっとした土地、貴族のお屋敷より狭いんじゃないかって土地ですがここはどちらの領土なのか決まってません。今回の話の根本的な原因がここにあります」


「なぜこんな土地が生まれたか、と言えば首都の官僚とA国の領主が地図を見てこの地域の策定を行ったためです。こんな僻地には興味がないんで、誰もここに来ないまま進めたんですね。それで地図と首都にある記録だけを見て、この川を境目にこっち側は帝国、向こう側はA国と決めました。この地域一帯を治めている貴族様は辺境公と呼ばれているのですが、辺境公は歴史的経緯からA家当主とも友好関係にありまして、そのつながりで帝国の貴族でありA国の貴族でもあります」


「二か国の貴族を兼ねるっていいんですか?」

「国境沿いの貴族には結構いるよ。どっちか片方は名誉称号で実権も利益もない名前だけのものだけど、そういう称号を外国から貰うと気分的にその国と争いは起こしにくくなるもんだ」

 Vの疑問に元傭兵でいろいろな貴族を見てきたドーリーは答える。


「一般的にはそうですが、辺境公はA国でも土地を所有しそれなりの実権があります。まぁ話を戻しますと、この国境周辺の土地はA国側も帝国側も辺境公が所有していたので、多少雑に切り分けても大きな問題にはならないと思われたんですね。公がどっちにどれだけ税金を献上するか、その土地でどちらの国の国民を使役するか、って問題でしかない。なので川のこっち側と向こう側って決め方をしたと聞いてます。で、この部分を完全に見落とした」

 小さな島のような土地を指でなぞりながら団長は続ける

「あるのはいつからあるのかわからない小さなダンジョンと辺境公の遠い先祖が眠る霊廟、この界隈で取れる名産品の木材、あとはモンスターと獣だけです。この名産品の木。大して高く売れるわけじゃありありませんが、それでも税が取れる程度の収益にはなります」

「それ・・・こまる」

「えぇ。少額でも税は税。なのでどちらかの国に納める必要があります。ですから領土が未確定だと困るんですが、得られる利益や税は少額ですし、これがあるから国防上問題になるなんてこともない。なので首都の官僚や王族もA国の領主もわざわざ集まって国境を引き直そう、って気を起こさないんです。その結果として長年あいまいなまま放置されれいまに至ります」

 そういって少し背を伸ばし、団長はまた続ける。


「この地域があいまいなままで困るのは辺境公と我々騎士団、そしてA国の国境警備をやってる軍や警察です。この界隈の住人は公の土地を借りるなり買うなりして商売していますから、そんな面倒な土地はかかわらないだけでいい。しかし公としては少額でも利益が出て祖先の墓がある土地を放置というわけにはいきません。しかしA国か帝国かはっきりしないと人を雇うこともできない。A国の土地なら帝国の人民を許可なく働かせるわけには行かず、逆もまたしかりで。また司法機関としてはここの領土を確定してもらわないと密漁や密輸の取り締まりがしにくくてて困るわけです」

 どちらの領土かわからない、ということはどちらの法律が適用されるかわからないという事。

「無法地帯ですね。文字通りの」

「えぇ。今は現場の協定でどうにか回ってますが、早期の領土整備を首都の官僚に陳情しています。その一環としてこの度冒険者を雇いました。これが話の始まりですね。長かった」

 そういって団長は従者にお茶のお代わりを持ってくるように指示。


「今回冒険者を雇ったのはここにあるダンジョンの探索です」

 従者はお茶をもってきた代わりに地図を片付ける。

「探索の目的はこの領土を整備するために、領土の資産価値とでも言いましょうか、それを確定させることを目的としています。霊廟は公の一族の所有物で定期的に整備されていますし、木は目測で本数がわかりますがダンジョンについては実際に乗り込まないとどういった中身かわかりません。そこでダンジョン探索で情報収集ということになりましたが、我々がでるわけにはいかないんですよ」


「どっちの領土かわからない土地に無闇に騎士団が入るわけにはいけないか」


「えぇ。それはA国側も同じです。共同で捜索隊を組む、という案もあるにはありましたが、そもダンジョン探索は騎士団や軍では業務外ですし、専門知識も装備も予算もありません。そこでどちらの国家の領土であってもその土地の持ち主であるのは変わらない辺境公が名義上の契約者となり、報酬は我々とA国の軍の予算で支払う形で冒険者を雇うということになりました。そして辺境公は基本的には帝国の貴族ですから、首都の冒険者組合に発注して冒険者、つまり今回の一団ですね、を呼んだわけです」

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