第14話
「移動手段というのは馬車の類かと思いましたが」
夕方と夜の間くらいの時間帯に外に居た下働きが「旦那様。参りました」と呼びに来た。
そして庭に出た4人と主人を迎えたのは5頭のドラゴン。
この種類のドラゴンは馬より少し大きい程度なので、この家の大きな庭に並んで入ることができる。
しかし、つまり、この家にはいま5頭のドラゴンが並んでいるわけだ。首都の一般人だと生涯で一度も出会うことがないのも珍しくない存在であるドラゴンが。
「ご主人」
「旦那様方。遠いところご苦労様です」
「いやいや、大奥様の願いとあらば天地が逆さになっても駆けつけましょうぞ」
そのドラゴンの代表が主人と挨拶をしている。
「君たちが冒険者かな?」
「はい。そうです。えっと私はヴィリア、こっちのがエヴァンス」
代表としてVが自己紹介する。
「そうかそうか。我々は大奥様より君達を国境沿いまで連れて行くように頼まれてたのだ。3日もあれば着くだろう。短い間だがよろしく頼むよ」
「こちらこそよろしくおねがいします」
そう言って冒険者たちも挨拶。そしてドラゴンの背中に乗ることになる。
商家の主人や下働きが手伝い、馬の鞍のようなものをドラゴンの背に載せる。
馬と違うのは命綱。空を飛ぶのだ。落馬でも死ぬときは死ぬが、落龍?ではほぼ確実に死ぬ。
「おそろい」
そのうちの一頭は頭に黒い兜をかぶっている。特注品なのだろう。
「ドワーフに作ってもらったんだ。あんたのもいいな」
ただそれだけで鉄兜が乗る龍が決まる。
「羽根が大きい方が安定するのか?それとも図体がでかいほうが安定するのか?」
「体つきではそこまで大きな差はでませんよ。揺れるか揺れないかは個人の技量の影響が大きいですね」
ドーリーはそう言われても羽根と体付きが一番大きなドラゴンを選ぶ。
「これでもドラゴンに乗るのは二度目なんですよね」
「首都の方でドラゴンに乗るなんて珍しいですな」
Vはそう言って代表に乗る。
「お願いします」
仕方ないのでマリーは残った二頭の内年が若そう、見た目だけである、なのを選ぶ。
残った1頭は荷物持ち。
「では参ります。今日は夜が深くなるまで飛びますのでお気をつけを」
一頭がそう言って、5頭は順に飛び上がる。
そして商家の上を数回周りながら隊列を組み、星が照らし始めた空を飛んでいった。
商人と庭に居た人間はドラゴン達が見えなくなるまで見送り、今日の夜に帰ってくる隊商を受け入れる用意のために各々家に戻っていく。
「御武運を」
一番最後に残った主人はそうつぶやき、彼も家に戻っていった。
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