第13話
首都から少し離れた郊外。大きな首都とはいえここまで来ると人家より田畑の方が多くなる。
そこの一角にある大きな商人の家。
この家の持ち主は店ではなく行商や隊商を帝国中に走らせて儲けている。だから人が少ない郊外でも問題ない。むしろ人や荷物をたくさん収容できる大きな家を作りやすい郊外のほうがいい。
その家の中に4人が乗った馬車が入っていく。
「奥様からお話は聞いております」
外から家の中まで直接馬車で乗り入れることができる変わった形の建物。
入り口となる広場は木箱や何が入っているかわからない袋が山積みになっており、その荷物の整理や帳簿つけで何人も働いているがそれでもまだ何十人も人が入るような余裕がある。
そこで4人はまず家主の商人に挨拶。
「もう一方のお客様は少々遅れてるようで。どうぞお上がりください」
「いや、そこまでしてもらわなくてもいいよ。荷物もあるし汚れてるから」
男女4人分の荷物だ。ドーリーは軽装とはいえ鎧だし、鉄兜は重たい鎧にそのあだ名のもとになった兜、それに大剣を持っている。
マリーは何が入っているのかわからない大きなカバンに筒状の袋。
一番身軽なのはV。着替えと暇をつぶす本。あとパーティー運営に必要な物としてテントや調理器具を持っている。
V以外とてもじゃないが商人の家にあがれる感じではない。
「これ・・・借りる・・・いい?」
鉄兜は端に積んであった椅子を指差す。
「どうぞどうぞ。おい、椅子をお出しして。あとお客様にお出しするお茶も早く頼むよ」
主人がそう指示をすると、周りに居た男や女たちが4人をもてなすために動く。
「変わった・・・馬車・・・入れる」
椅子とテーブルが置かれたので4人は腰を下ろす。
一般の店や住居という感じではなく、広い倉庫に主人やその家族、下働きが住む住居がくっついている形。倉庫の中には馬車が直接乗り降りできる仕組みになっている。
「行商とか隊商の本拠地も兼ねてるんだろう。そういう家は大体こういう作りだよ」
鉄兜の言葉にドーリーはそう答える。
馬車が乗り入れできるのも、雨の日などに荷物を濡らさないための工夫。
「申し訳ございません。我社は基本的に小口のお客様を対象としておりませんので、あまり見栄えを気にしていないのですよ」
4人の接待ということで残った主人がそう答える。
「木箱で1箱単位からのお取扱となります。代わりにこちらから配送させていただくサービスも取り入れていまして」
「問屋ですか?」
「問屋に近いといえ近いですが、我社は大口注文であれば個人客の注文でも受け付けますのでちょっと違います。奥様とは以前パーティー備品の仕入れなどで大変良くしていただきました」
貴族のパーティーで必要なものは木箱一つでは済まない。
「引退したあともご友人を紹介していただくなど大変よくして頂き、特別にご家族の道具を仕立てさせて頂いたりしたものです」
「ならお孫さんはご存知ですか」
Vの疑問。
「えぇ、勿論。お坊ちゃんは今風の貴族様に似つかわしくない大変素晴らしい方でした。ご両親との争いで家を飛び出しはしましたが、それでも奥様のことは気にかけていたようで。特例として小口での用立ても承っておりました」
主人の言葉は商人のものではない。
「なるほど。仲は良かったのですか?」
「えぇ、それは勿論。お坊ちゃんが継いでいたらご家名をもっと広げることができたでしょう。ですから、この度の事は悲しい話です」
よく知っている若者の死を悼む人間の言葉。
「暗い話になってしまいましたね。申し訳ございません。奥様からのご依頼ですので、特例ですが必要な物があれば仕入れ値で用立てをさせて貰います。首都の店で買える物なら大概のものは揃うかと思いますので、なんでもお申し付けください」
勿論無料ではない。これは商人の言葉。
二人は必要な物は大体用意している。
鎧や兜など荷物が特殊で重いという事で、パーティーとして必要なテントなどはVの担当。
Vも遠征は手慣れたもので大体揃えているが
「なら薬と包帯を分けていただけますか」
急ぎだったので揃えきれなかった薬を分けてもらうことにする。
「何か・・・いる?」
鉄兜は困ったような顔をするマリーにそう声をかける。
「いろんな物が、正直足りません」
「そのでかい袋はなんだよ」
「着替えと化粧道具と、えっと、何入れたっけ」
彼女の計画では明日の朝出発ということになっていた。つまり夜中の間に装備品を用意して、という算段だがそれはすでに崩れている。
なので必要そうなものをとりあえずカバンに詰め込んだ次第。
そもそも付いていくこと自体が想定外。できれば男三人とそんな僻地に行くのではなく他の人間を手配したかった。
「寝袋・・・毛布・・・食料」
鉄兜が一つずつ必要なものをあげる。
「向こうにも街はあるんだろう?生活にいるような物はいざとなれば向こうで買えばいい。テントはあるか?男三人と一緒に星の下で寝るなんていやだろ?」
「火薬・・・着替え」
冒険者家業として手慣れている二人が必要なものをあげ、あれがないこれがない、あれはあるこれは余分と、ここで荷物の整理が始まる。
結局マリーは代金を払えず、手形による支払いとなった上にいらない荷物を依頼主の宅に預かってもらうよう言伝を頼むことになる。
「こんなので大丈夫かね?」
「わから・・・ない」
二人は荷物を整理しているマリーを見てそんなことを言った。
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