第12話
一流冒険者パーティーが国境沿いのダンジョンで事故。一名が生死不明、残りのメンバーも良い状況ではない。詳しい状況は不明。
冒険者業界では冒険者がダンジョン探索で死ぬなどというのはよくあることだが、一流がほぼ全滅というは最近では珍しい。
そのため首都では「ありえなくはないが珍しい出来事」としてちょっとした話題になっている。
また冒険者の中ではそれなりに名前を知られていたパーティーということもある。
居なくなっても誰も気にしない一山いくらの雑魚ではない。
そんなパーティーが壊滅する未探索ダンジョン、というのは冒険者にしてみると警戒と好奇心の対象になる。
「えぇ、まぁ、そういうわけです。はい」
マリーが説明に困っているところを見て、老婦人は助け舟を出した。
「行方不明になっている男は私の孫なんです」
「両親と喧嘩しこの家からも一人、剣一本と革袋一つで飛び出して行った親不孝ものですが、それでも私の家族です。ですから、せめてしっかりとした葬儀を執り行いたいのですが、棺桶に何も入れないまま葬儀を執り行うことはできません」
「まだ・・・死んだ・・・決ま・・・ない」
鉄兜は口ではそういうが、本心は別。
老婦人もそれはわかっている。
「気配りは嬉しいですが、わかっています。そして冒険者風情に騎士団は動かないでしょう。ですから遺体とは言いませんが、せめて葬儀の体を作れる遺品を持ってきて頂きたいのです。報酬の方は全額前払いでマリーさんにお渡ししておりますので、どうかよろしくおねがいします」
払ってるのか、そりゃ心配はねぇな、とはドーリーの考え。
「えぇ、そういうわけです。よろしいですか?」
報酬のことまで喋ってしまうのは想定外。やる気がないとき、支払いを盾に脅すということができない。
「わかりました。できる限りの努力をしますので」
「わかった」
「この年で早馬で一週間はきついなぁ。何か他の移動手段があればいいんだけど」
三人は特に不満なし。
貴族の家から飛び出した冒険者は珍しいが、まぁないことでもない。
帝国の貴族業界?で名を轟かせた女傑といえど、孫の葬儀くらいしてやりたいというおばあちゃんには変わりないだろうとはドーリーの感想。
「移動手段の方は私の方で用意してあります。本日の夕方からお願いできませんか」
早馬で一週間は辛い、というドーリーの言葉に老婦人が答えた。
「夕方からですか?」
夜の街道を走るのは危ない、と言いたいところだが雇い主で貴族の奥様がただで用意してくれるというのは断りにくい。
「用意・・・してある・・・いい」
「俺もだ。昨日のうちに用意はしてある」
「僕は別に身一つでいいですからね」
男共三人は気軽に答えてくれる。女は用意に時間がかかるんだよ。まったく。
「では、好意に甘えさせてもらってよろしいですか?」
「はい」
老婦人は微笑んでお茶を飲んだ。
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