第11話

 おそらく昔は立派な庭の真ん中で優雅なお茶会などを楽しめる場所として作られたのだろうし、実際そのように使われていたのだろう。

 レンガ敷きの床に白いテーブルと椅子、生け垣。そこから周りの庭を眺められるように作られている。


 しかし今となっては荒れた庭。彫像なども飾られているが雨風によって風化している。見て面白いものではない。

「みなさま。どうもこの度は」

 白いテーブルにお茶のセットを出して一人座っていた老婦人が、冒険者たちを見たそんな口上を述べた。

 身なりはなんとも言えない。


 喪服だ。


「奥様。この度はご依頼ありがとうございました。契約を請け負うにあたり顔をみたいとのことでしたので、冒険者三名を連れてまいりました」

 多少敬意を払った言い方で仲介屋は三人を紹介する。

「ヴィリアです。Vと呼ばれることが多いです」

「エヴァンス・・・よろしく」

「ドーリーです。お噂くらいは聞いたことがありますが、お初にお目にかかれて光栄です」

 ドーリーの目線は手元にあるカップ。デザインとして紋章が彫られている。

 こういった紋章が彫られたセットは貴族が特注で作るものだ。そして傭兵上がりのドーリーはその紋章がどこの家を指すものか知っている。


 帝国に名を残す女傑の家。早くに旦那に先立たれてから色々な者や種族が蔓延る帝国貴族の世界で切った張ったの勝負を繰り広げてその名を轟かせきた。


「もう引退したおばちゃんですよ」

 目の前の老婆はそんな感じを見せずに、皮肉な笑みを浮かべる。


「えぇ、それではここで今回の業務の最終確認をさせてもらいます。よろしいですか。ここで問題があるようであれば帰って頂いて結構ですが」

「その点はわかってるよ」

 全員に暖かいお茶と茶菓子が渡ったところで、マリーがそう切り出した。

 執事は陶器の鉢の中で火を起こしている。庶民が料理や暖房としてなどでよく使う道具の一つで安く手に入る。


「それでは、えぇ、今回あなた、いや私達ですね、私達が向かうのはA公国との国境沿いです」

「A公国?」

 鉄兜は知らない名前。

「帝国と共和国の間にある小国だよ。早馬でも一週間くらいかかるかな?帝国とは友好的な国だったはずだ」


 A公国があるのは元々規模の小さな貴族や領主、独立地主達ががそれぞれ領土を持っていた地域。

 時代の流れの中で多くの貴族は勢力を増す帝国と共和国のどちらかに領土を献上する、もしくは編入してもらった上で一定の自治権を得るなりして整理されていった。


 この地域はそもそも軍事、文化、歴史などの面から見ても帝国か共和国寄りの地域が多く、その当時は共和国とも大きな争いがなかったので整理の際にほとんど問題は起きていない。


 そんな中で帝国寄りの文化圏であったA国を治めるA家当主は帝国への編入を拒否。

 理由としては諸説あるが、一説にはA家の当主と当時の皇帝は幼少期非常に仲が悪かった。それが編入拒否の理由であるとか。

 また別の説としては小国と行ってもそれなりの領土があるA公国は特に大国に媚びる必要がなかったとか。

 まぁとにかくそういった事情で拡大を続ける帝国領土の中でA公国は帝国につくわけでも共和国につくわけでもなく独立を維持。

 帝国としても悪政を敷くわけでもなく帝国と敵対するわけでもない小国とあえて敵対する必要もなく、共和国にしても「帝国との緩衝地帯」があれば何かと便利ということで、双方の国と軍事同盟などを結び今に至っている。


「えぇ、それでですね、A公国と帝国の国境地域には領土として何方の領土なのかわからない、いえば領土が未確定の地域があるんです。その未確定の地域に一つダンジョンが存在しています」

 マリーは続ける。

「冒険者達が向かったのはそのダンジョンであり目的は探索、情報収集です。政治的に面倒な地域であり今まで確認がされていなかったので未探索ダンジョンとなっていますが、そこまで規模が大きいものではありません。しかしそこで、その」

「事故」

 Vはマリーに助け舟を出す。

 奥様の方を気にしているのだろうというのがわかったからだ。

「そう事故がおきまして、残念ながら一名の生死が不明、おそらく死亡であろうという結果になりました。他のパーティーのメンバーはA公国に逃げ込んだようでして、詳しい状況は組合の方でも確認できていないと」

「新聞・・・よんだ・・・あの事件?」

「組合の方でも噂が飛び交ってるあれか?」

 そこまで話してドーリーと鉄兜は、それが今首都の新聞や冒険者組合をすこしばかり騒がせている事件だと気づいた。

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