第10話

 写しが出来上がったら4人は二頭立ての馬車に乗った。

「これから依頼主にあっていただきます。先に一度会っておきたいとのご希望で。そこで細かな計画などもお伝えしますので」

 馬車の中で契約書の写しを三人に渡しながら仲介屋は言った。

 三人はただ納得するだけ。今更何言っても仕方ないのだ。文句があれば説明を聞いてから。

 ただVは馬二頭立ての馬車を調達できるというあたりから、相手は金持ちの商人だろう、と予想をしている

 ドーリーはまた別の予想で、彼の予想があたっていた。


 首都中心部。

 皇帝が住まう城を中心に、円形に貴族の館が立ち並んでいた地域。

 居た、というのは時代の流れ。新興貴族や大金持ち、社会的地位が高い役人やモンスターの進出、それに合わせて没落していた貴族や、首都の権力闘争に負けて田舎に引っ込んだ貴族など入れ替わりで、「金持ちが集まる地域」となっている。

 その一角でもまだ古い都市計画の名残が残っている地域。

「ここです」

 その一角にある古びた屋敷の前で馬車は止まった。

「お金・・持ってる・・・?」

 その屋敷をみた鉄兜の正直な感想。

 確かに家も庭もそれなりにでかい。

 しかしその庭は荒れている。この界隈において家主の経済状況を見る一つのバロメーターがこの庭。

「それは大丈夫ですから、みなさん失礼がないようにお願いしますよ」

 そう言ってマリーの先導で門をくぐる。

 その先には執事の正装をした初老の男性。


 ドーリーはこれまで「貴族の館」というものにお邪魔したことはないが「執事」という職業の人間には何回かあったことがある。

 信頼できて身の回りのことをやってくれる人間として前線まで執事を連れてくるものは多いし、逆に前線で部下などをヘッドハンティングして、退職後の執事として雇う貴族もいるのだ。

 前者の貴族は「貴族様の執事」というのを鼻にかけた嫌な奴が多く、後者は「貴族様の執事」とい立場を理解していない人間が多い。

 目の前にでてきた執事は両方のバランスがうまく取れている、つまり嫌味ではない程度に権威を匂わせ、権威に溺れることなく実務をこなせるタイプ。

 それがドーリーの感想。


 その執事が4人対して

「奥様はお庭でお待ちです」

といいついてくるように言った。


 やはり庭は全体的にあれていた。

 というより庭師というものが居ないようだとは鉄兜の考え。屋敷の中も外も使用人の気配がしない。

 ドーリーは建物の方を見ていた。二階建てのようだが二階の窓には戸板が貼られている。外の壁も薄汚れたままでみすぼらしい。

 Vはまた別のことに気づく。

「あれは芋、一緒に植えてあるのはお茶に使うハーブ、セットで植えると害虫避けになるんです。となりのは芳香剤に使える花ですね。乾燥させて花を焼きます」

 荒れてる庭の中で若干だが整備されている部分。そこに植えてある植物は食べられるものと生活に役立つものが中心。

「旦那様はお詳しいですね。こちらは奥様の趣味の菜園でございます」

 Vの話に執事はそう相槌。

「薬学や博物学、植物学を趣味にしてる貴族様は結構いますけど、そういう感じではありませんね。どちらかといえば」

「畑の類だな」

 貴族の菜園はもっとすごいものだ。古今東西の名前も知らない植物や花だったり、ガラスで彩られたハウス、専用の庭師。

 目の前にあるのは引退した老人が半分暇つぶしに作る畑の類。

「どういう人なのか、名前くらいは聞かせてもらってもいいと思うんだが」

 豪邸住まいや冒険者風情に二頭立ての馬車を用意できる金持ち。その一方で屋敷は廃れ庭で畑を作るという貧乏貴族ぶり。

 どうにもチグハグだ。

「奥様。冒険者の旦那様方をお連れしました」

 その問について仲介屋が答える前にドーリーはその答えに気づいた。

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