南と穂坂の続編❷


〜潮の満ち引き・月の満ち欠け〜episode❷

(月の引力によって海は満ち引き…お互いの角度によって見える満ち欠け)




WAVE Openの 5年後 [穂坂side]



南から告白されて2.3年たっても、僕達の関係は何も変わらなかった。

変えなかった、という方が正しいけど。


南のただの思い込みの恋愛感情に僕の純情を左右されたくはなかったし、もしただの思い込みじゃない僕が願うような恋愛感情だったとしても、南が片思いしてきた様子よりも僕に愛情を示して欲しかった。

愛されている自信が無かった。

南は僕に自信をくれなかった。

南は友達の関係を崩そうとはしないから、僕も距離を保った。


それならそれでいいと思っていたけど。

給湯機が壊れたのは嘘じゃないけど。

けど、付かず離れずの恋人紛いの僕の"恋人"に頼るよりも、南の家で素直な自分で過ごす夜を望んでしまった。



告白の話を南が振り返してきたのは予想外だったけど、忘れていいとか…やっぱりそんな程度かと呆れた。落ち込んだ。

かといって南の気持ちを否定されたくないと言われて……確かに勝手に否定している自分を見透かされてしまった。


南のくせに。

南の事は、南以上に僕の方が知ってると思っていたのに。


南との関係が壊れるか、試してしまった。


自分が納得するような答えを期待したと同時に、南と体の関係を持っても友達に戻れると思っていた。


…友達に戻れると…

僕は、僕の気持ちを自分で見くびってしまったのかも知れない。




「……ハァ……ッ……ハァ……」


「……ッ…」


粗い息を当てられながら、熱い唇が僕の至るところを這い回る。


……なんで?

…僕でそんなに興奮する?


え?…このまま、南と…?


「ッ…何に必死になってんだよ…」


「お前にだよ。ずっと、お前に……」


ソファに倒された僕を上から見つめてくる南に涙腺が緩みそうになってしまった。


「……笑ってないよ……嬉しいだけ…」



キスも南とは初めてで。

なんなら本気で好きな相手は初めてなわけで。

戸惑いもあって頬の筋肉が固まる。


自分からけしかけておいて、こんなにも緊張してる。


震えそうな手で下から南の顔を引き寄せ、唇を重ねる。

南のキスを受けるのが心地良くて、感じてしまう。息や体が、南の唇の動きで反応するのが自分でも過敏って思うくらい、過剰に。

唇、目元、耳元、首筋、鎖骨…南の唇が這うから、僕の吐く息は喘ぎ声になって、声が抑えられない。


いつの間にか裸な僕に、南はどこまでも唇で這い回る。

股の間に顔を埋められ…お尻を持ち上げられるようにしてそこに顔を埋められ…僕の喘ぎは強くなる。

喘ぎが止まらないし、イキそうになって涙や精液、何か出てても自分でわけが分からないくらい。

そんな中、南の下半身、スウェットの上からでも分かるほど固くなって反応してくれてるのが触れるたびに伝わる。

それが嬉しくて、さするように愛撫する。

今にも咥えたくて、顔を近づけスウェットとパンツを下げると、一瞬だけそれに唇が触れただけでソファにまた組み敷かれ…

不器用に繋げられたはずなのに、一瞬で落ちた。存在も知らなかった快楽の沼に、落ちた、…みたいだった。



奥を突かれるたびに、吐かれる南の熱い息と僕の喘ぐ声。

僕も夢中で腰を動かした。

必死に。

余裕なんて無い。

快楽の沼の中で、必死に。


「………ッ……み、なみ、……ッぁッ……ぁ…ん、」


「ほさ、か、……はぁ………ぁぁ…」




'ただただ、ボーっとしたい。無心で。'


南とSEXをしたあと、無心で月を眺めた。

背中から抱きしめられて。


余計な事は考えたく無かったから、考えないことにした。

ぼーっとしたかったから、正しくそうした。

南も僕が望んだ通りにぼーっとさせてくれた。



…南は友達に戻りたいのか。

…そのとき僕は友達に戻れるのか。

答えなんて知りたくなくて、とりあえず南を避けた。



翌日はサウナに行ってから自分の家で寝た。

そう、お湯なんて出なくてもどうにでもなる。

…南が断れなそうな理由をつけて何泊も泊まり込んでやろうと思ったのに、もう逃げ返してきた僕。

朝方、南から着信があった。

昼、仕事中にも、増える着信履歴。


今日もサウナに寄ってからの帰宅。

まだまだ夜はこれからだから…そろそろ南の電話に出ないとな、普通ならすぐに折り返ししてたのに避けすぎだよな、なんて自分の対応力の無さに笑いながらマンションのエントランスへ向かうと、クルマのクラクションが鳴った。

クラクションの方を振り返ると、今は顔を見たく無かった人物のクルマがすぐ近くに停められていて、運転席の南と目が合うなり足がすくんだ。

すぐにクルマから降りて駆け寄ってくる南。


「穂坂ッ…」


「ん?どうした?」


「…どうしたって…穂坂が連絡取れないから…」


ジリジリと距離が詰められている気がして、少しだけ後ずさる。

けど、平常心。演技は得意だ。


「ああ、ごめんごめん。

電話くれてた?なんか電話も調子悪くて。」


「……そう、…風呂は?」


「ああ、大丈夫大丈夫。

まだ給湯器?壊れてるけど、違う所でシャワー浴びれてるから。

今日ももうシャワー浴びてるし、南に迷惑かけなくても大丈夫だった!

うちまで心配して来てもらって悪かったな。

じゃ、…」


「じゃ、って……ち、違う、そうじゃなくて…

避けないで…欲しくて。

………ちょっと、ちゃんと話せるか?」


「まぁ………うん。家にあがる?」


…深刻そうな南の顔を見てたら、僕の表情も今にも壊れそうだ。

こんな顔、外では晒せない。

南には特に晒したくないのに。


「いいのか?

じゃ、じゃあ、ちょっとクルマを駐車場に…

この辺だと、あ、あそこのパーキングに入れるから、穂坂、助手席に座って。」


「え、なんで。先に部屋行ってるよ。」


なぜか掴まれる腕。そしてクルマの方へ引っ張られる。


「おーい、痛いって!

ちょ、じゃあ、ここで待ってるからッ」


「いや、出来れば、一緒に。」


「……痛ッ」


「!ごめッ…」


強引に引っ張っていた腕の力が弱まって、覗き込むように優しく振り返ってくる南。

…このまま、キスでもしてしまいたいのに…冷静にならないといけない…僕が。


「……なんだよ。冷静になれよ。

ここで、待ってるから…」


「……」


南は無言でクルマに乗り込み、いつもより荒々しい運転でパーキングへ停める様子に、僕はホントに事故でも起こさないかと見守った。

クルマから降りてドアを閉める音まで荒々しい。

そんな様子を見守ってから、南が駆け寄ってくるから僕はマンションのオートロックを開ける為にエントランスへ向かった。

追いついてきてピッタリと横に並ぶ南。

…ちょっとだけ待ってられなかったから、怒られるかもと思った。


「…待ってただろ。」


「……ああ。部屋に、早く入りたい…

流石芸能人、セキュリティ多いな。

カメラも多いし、あれずっと誰かが見てたりするの?」


「…リアルタイムではどうか知らないけど…

ずっとは見てないだろ。

まぁ…保存されてるデータがどこへ流出するか

今の時代、わからないけど。」


「な。…抱きしめられもしない…」


ボソっと横でため息と一緒に吐き捨てる南。

そんな息で、一昨日の熱い息を思い出す。

何重ものドアを通り抜けるとき、すぐ隣りにくっ付いて歩くから、歩きづらい。

……ほんと、無理なんだ。

熱い息でぐちゃぐちゃになった時間を嫌でも思い出してしまうのに、友達として過ごすなんて。


「ッ……もうちょっと離れてくれる?

なんでこんなにくっ付いて…」


「お前が電話に出ないから。」


「……電話の調子が悪いって言っただろ。」


「避けるなよ。」


「避けてないよ。」


「……何年友達しながら片想いしてると思ってるんだよ…」


ため息混じりに、また吐き捨ててくる。


「…そういう言い方やめてよ。

僕が悪いみたいじゃん。」


「穂坂が友達に戻る、戻りたいって言うなら、仕方ないとは思うんだけど…」


「……仕方ないなら、仕方ないよね。」


南を探りたくもなってしまう。

片想いが好きな南。

仕方ないってなんだよ。

僕はもう戻れないってわかっちゃって絶望感だよ。消えたい、とか思ってしまうのに。


'お前は本気で僕を好きじゃない'

昔から僕の中に根付く、疑心暗鬼。

その鬼は、僕を弱くしてしまったようだ。


「……仕方な、くはないけど、けど、

穂坂の気持ちを尊重したくて…」


「それって、僕が友達に戻りたいって言ったら

戻れるって事だろ?お前は…」


「穂坂、俺は……」


まだ部屋には辿り着かない。

エレベーターの間や、部屋までの廊下の間、2人でずっと無言になってしまった。


ようやく部屋に入り、玄関のドアがきちんと閉まるのを待っていたかのように…南が力強く抱きしめてきた。

ほんとに急だし荒っぽくて、僕は持っていたカードキーやカバンを足元に落としてしまったけど、そんな事も気にならない様子でずっと抱きしめてくる南。


「俺は、穂坂が好きだ。」


抱きしめながら言ってくるから、肩越しに背中に囁かれてるよう。

…ちゃんと聞きたくて、文句を言う。


「…顔見て言えよ。」


すると抱きしめていた腕が弱まり、体は密着しながらも間近で見つめ合うような体制になった。

玄関の自動でついたライトが南の背中を優しく照らす。

優しい灯りの中だからか、南は真剣な表情で真っ直ぐだけど、すごく優しい顔で…


「俺は穂坂を愛している。」



…結局、好きとか愛してるとか、そんな言葉が聞きたかったのか…

南が必死になっている姿や表情が見たかったのか…

なんだか分からないけど、凄く満たされたような、安心させられたような…


南の事が、愛おしくて…南の頬を両手で包みながら引き寄せて、食い付くようなキスをした。

即座に応えてくる南の唇。

同時にまた力強く引き寄せられて密着する腰。

…お互い一気に昂っているのが分かって…

乱れた呼吸の中、唇を離した。


「ッ…ここじゃSEXしたあとシャワー浴びれない…」


「嫌か?」


「嫌だよ。そんなんで仕事行けないよ…」


「…明日も仕事か…行かせたくないな……」


「ッ…そういうこと言うんだお前…」


「?…じゃあ、俺の家に行こう。今すぐ。」


「……んー…今すぐ…は、僕が無理かな…」


両腕を南の首に絡ませ、誘うように唇を何度か重ねた。

次第に荒くなる呼吸と共に深くなる口付け。


南が、ほんと好き。


教えてあげないけど。


「ッ……南は、僕が南を好きだ、とかは思わないわけ?」


「それは…まぁ、そんなに都合良くは思えないけど…」


…やっぱり、片想い大好きだな…


「けど、穂坂の、俺に対する態度?とか雰囲気?は…昔からすごくあったかいっていうか、凄く優しいっていうか………愛がある?って思えるから、いいだ。」


……鈍感かと思っていたら、なんだよ、気付いてるんじゃねーか…

っていうか、僕か?

気付かれてるほど、見え見えな態度だったか…


優しく微笑みながらサクッと僕をお姫様抱っこして、廊下、寝室へと進む。



……こんな状況、愛しかないか……





散々SEXしてへとへとな僕達は結局南の家には行かず、ケトルで沸かしたお湯を使ってタオルで拭き、僕はどうにか身支度をして仕事へ向かうことになった。

南が仕事場まで送ってくれる途中、コンビニであったかいカフェオレを買ってきてくれた。

南は休日というわけではなく、仕事の電話をする為にコンビニに寄ったようなもので、僕はただ車内でボーっと南の電話が終わるのを待っていた。


几帳面そうなさっぱりとしたヘアスタイル。

髪を染めたりもしないからあまり高校時代と変わらない印象な南。

運転席で動きは少ないながらも話しながらキョロキョロしたり、笑ったり適当に返事したり。

些細な仕草でなんか惚れ直してしまう…なぜか南が慕ってくれるから忘れてしまう時もあるけど、バリバリ仕事をこなす出来る男なんだった。


数分電話して、終わるとすぐに謝ってくる南。


「ごめん。じゃあ行くか。」


「いや?まだ時間あるし、

ここでボーっとしてるのも悪くないけど?」


「?月でも見えてたのか?

そんな可愛い表情するなよ…」


「は?月は出てないと思うよ。

なんだよ、可愛い表情って。

お前って意外と恥ずかしげもなくそういうこと言うのな?」


車内の窓から空を見上げながら月を探している南。


「……そうか?可愛いのは可愛いし…

そうやって照れてるお前、可愛いし、

お前は昔から、何かを考えてるとか…

凄く…慈しむような?…愛おしいような?

心臓がギュッとする?表情なんだよ。

昔から、可愛いし、カッコいい。」






ボーっとする時、

片隅でどうしても南のことを思っている。


南が言う'心臓がギュッとする?表情'が出てるなら、

それは南を心の底から愛しているから。




END

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