南と穂坂の続編❶


〜潮の満ち引き・月の満ち欠け〜episode❶

(いろんな表情を魅せる、波と月の関係…)




WAVE Openの 5年後 [南side]



「俺、穂坂に片想いしてるって話、

数年前にしたよな?」


「え?あ、あぁ!あれね、覚え…てるよ?

勘違いだったでしょ?

南は思い込み激しいもんなー」


「………」


俺の感覚がおかしいのか?……まぁおかしい、のは承知だ。

だからって、満を持したあの2.3年前の告白は、俺の精一杯の告白だった。そのあとの2人の関係だって、いつもの関係を壊さないように気を使って…


ずっと友達の関係だからって、好きだと告げられた事がある相手の家になぜ平気で風呂を入りに来れるんだ、穂坂は…


「え?ダメなの?何日か泊めてよ。」


「え??風呂を貸すだけじゃないの?」


「えー!だって!

風呂入ったらもう外歩きたくないじゃん?

給湯機の部品が無くてすぐは直らないから、

何日か…お風呂貸して貰って、

そのまま泊めてくれよーー」


数時間前、お風呂を貸してと連絡があり、俺が家にいることを伝えるとキャリーバッグをひいてすぐにやってきた穂坂。

それはまぁ友達として、許せる。

風呂あがりにお酒を飲み始めたのも、許す。いつも一緒に飲んでいるし。

けど穂坂はもともと酒が強いわけじゃないし、いつも2.3杯飲んだら忙しそうにそそくさと帰ってしまうのに…

今日はほろ酔いで頬を赤くしながら、薄手のガウンを羽織り、下着は履いているんだろうが綺麗な脚を露わにしながらソファで丸くなっている。

そんな姿を恋人じゃなくて俺に見せているのが不思議だし、俺はどうしていいのか分からなくなる。


「……何日か泊まるって…

穂坂、今、恋人いるだろ、…いいのか?」


「別に…お前との方が付き合い長いし…

ていうか、この状況で追い出すの?

酷くない?あ、好きなヤツでも出来た?

いい酒のネタが出来たな、話せよ。」


「……何も話すことないけど…

お前は?仕事も順調そうだけど…」


コーナー型のソファの大きい方に座る穂坂を横から目を細めて眺めるように、対面ではなく小さいソファに座り、洗ったばかりの髪を大雑把に拭きながらビールの缶を半分くらい飲み干した。


「順調……だねぇ。ちょっと不思議なくらい。

なんか、だから、仕事に夢中になる時間より、

プライベートな事を考える時間も

増えてしまうわけで。」


「へぇ。なに?趣味とか?」


「いやー…趣味も仕事に繋がるからなぁ…

ほんと、ただただ、ボーっとしたい。

余計な事考えないで、無心で。

月とか星とかみて、酒飲んで、ボーっと…」


「疲れてるな。あ、ああ、だから俺んち?」


以前、寝室のベットで横になりながら見える、星や月が綺麗に望める窓がある事を自慢した。

誰にも見せた事は無いから宝の持ち腐れだと冗談めいて。ただの酔っ払いの小話。…というか、誰も家に泊めた事がないよっていう俺のアピール…もしかしてそんな話を覚えてくれてたのかな…


「星ってさぁ…肉眼じゃただの光の点でさ…

それも綺麗だけどさ。

月は表面まで見れるのが特別だよな。

しかも満ち欠けして形もいつも違うんだよ?

凄いよね…」


まるで月に恋するように、うっとりと話す穂坂。

……心臓が不規則に跳ねた。そう、俺は穂坂のことが本当に好きで、何年も、何度も自覚しては隠している。

何度も、心臓がおかしくなるくらい。


そんな穂坂の思いを、叶えてあげたくて堪らなくなる。俺が、穂坂に、幸せになって欲しいと願うのは、高校の時からずっと変わらない願いだ。


「…今日は曇がなさそうだし…

ちょうど時間的に見れる角度だよ。

寝室、そこの部屋だから、見て来ていいぞ?」


「……いやいや……そういうのはとっとけよ…」


「そういうの?…とっとくって?」


「そういう、恋愛にとって大事そうなやつ、

僕に使ったらもったいないだろ…」


…俺にとって…今が、こごぞという時では…


「…お前が俺をそういう対象で見れないのは

わかるけど、はっきり言われると

流石にいろいろ傷つくんだが…」


「そういう対象?」


「そういう、恋愛対象として…

俺はそういう気持ちで以前告白したんだけど。」


「なに言ってんだよ。

南だって僕をそういう対象で見てないだろ…」


「なんで。」


「なんでって……そう感じるから…」


「……それは、お前が困ると思って…

困るだろ?友達としての俺がいいんだろ?」


「……」


あ、やばい。

穂坂を困らせてしまう。

頼られて、うちに来てくれて、嬉しいのに…


黙ってしまった穂坂に視線を移すと、

既にこちらに怒ったような視線を向けていた。


「……」


「俺は、穂坂のこと、友達以上に思ってる。

友達として付き合いづらくなるのは分かるけど

それなら忘れてくれてもいいんだけど…

俺の気持ち、否定はされたくなくて…」


「……」


「…怒って…る?」


「……怒って……ないよ。

南を傷付けてるならゴメン。

なんか、恋愛って、難しいよね…

僕だって…いろいろ傷付いてきたから

臆病になるんだよ。

一歩、踏み出すのだって、大変なんだよ…」


珍しく弱音を言い出した穂坂。

そんな穂坂の声が消えそうに掠れるから、泣き出してるのかとも思って視線を外せずに見つめていると、穂坂がジリジリとこちらに向かってくる。

ガウンの隙間から膝を着き、右、左と交互に太腿まで覗かせながら…さらに前屈みで、胸元までチラつかせて…


「?踏み出すって…?恋人となにか…」


「本気の恋愛が恋人と出来るなら

それはとても幸せなんだろうし、

友達に友情だけを求めてれば辛くないのに…」


「……?俺の心配……?」


穂坂はゆっくり俺のところまで膝をつきながら来て、そのまま俺の膝に乗り上げて来た。

膝にかかる重みと熱、はだけたガウンから覗く下着と白くて綺麗な内腿。肩に手をかけてきて、近くに感じる息遣い。

どれもこれも…恋焦がれていた穂坂だ。


「いや?自分の心配。

こういうの、ありでも僕達は友達付き合い出来るのかなぁ?」


「……ほさ…か?酔ってる?」


「ん?…南は、僕が、好きって?

本気には思えないんだよねぇ…

愛されてるって思えないし…」


「だからそれは穂坂に迷惑かけないように…」


「結局は僕と付き合いたいとは

思わないんだろうし、エッチなことも、

別にしたくない、とか…?

こんなことしても、友達に戻ろうとする?

僕のために?自分のために?」


「……ッ…」


肩と膝に穂坂の重みがかかったまま、鼻先が重なるくらいに近づいている顔。

真っ直ぐに俺を睨むような視線は、ぼやけそうだけど、瞳の奥の光が綺麗で驚いた。


重なってこない唇が恋しくて、狂ってしまった。自分の理性がぶっ飛ぶ瞬間、ただ脳裏には綺麗な瞳の光だけがあった。

もう止まらなかった。


腰に手を回して下から肩を引き寄せて、もう片方の手はそっと首の後ろを引き寄せて…

いや、そっとなんてもんじゃない、強引に引き寄せて、思い切り唇を重ねた。

唇をついばみ、なぞるように重ねる。

けど、何年も患っていた気持ちはこれだけじゃ収まらない。



'本気の恋愛が恋人と出来るなら…'


穂坂の恋人に死ぬほどヤキモチを妬いてきたが、恋人とは本気ではないということか?



少し引き気味な穂坂の唇が少しだけ俺と同じ動きをしたから、穂坂の中へ奥へと深まりたくて唇と舌が勝手に進む…俺の息遣いはこれでもないくらい荒い。

それに応える穂坂は俺の肩を強く掴んだけど、余計俺の理性は遠のく。

俺の上で強張る身体をソファにゆっくりと押し倒す間も、耳元の首に唇を這わせて荒い息を晒す。


「……ッ…み、なみ…」


「……ハァ……ッ……ごめ、普通に息、ムリ…」


「フッ…息、あら…」


「笑うなよ…こっちは必死なんだから…」


「ッ…何に必死になってんだよ…」


「お前にだよ。ずっと、お前に……」


ソファに仰向けになった穂坂を上から見下ろして、真っ直ぐに見つめる。…まだ、瞳の奥が光ってる。


「……笑ってないよ……嬉しいだけ…」


そう言って、穂坂は下から俺の顔を引き寄せて唇が重なる。

俺は粗い呼吸のまま、上手く息継ぎも出来ないけど、穂坂の唇、目元、耳元、首筋、鎖骨…唇を這わす。

ガウンは簡単にはだけて、露わになる穂坂の白い肌。もっと引き出すようにガウンの紐を解いた。指もおぼつかないから必死に。


「……ハァ……ッ……ハァ……」


「……ッ……ぁ……」


…野獣のような熱を野蛮にぶつけらてるのに、嬉しいとか言う穂坂は何者なんだ…


自分の粗い呼吸と、穂坂の可愛い喘ぎ声が重なる。

俺に熱をぶつけられながらも感じている穂坂を見て、もっと、もっと…


もっと穂坂を気持ちよく…

ふたりで理性を捨てて…


不器用に繋げた体。

繋げてからは穂坂にリードされ、満足させられたかも分からないようなSEX。


それでも穂坂は嬉しそうに微笑んでた。


事後ふたりで入ったシャワーは、なんだか友達のような雰囲気だったけど…俺のベットで後ろから穂坂を抱きしめながら月を見て、明日も明後日もふたりで見るつもりだった。



『結局は僕と付き合いたいとは

思わないんだろうし、エッチなことも、

別にしたくない、とか…?

こんなことしても、友達に戻ろうとする?

僕のために?それとも自分のために?』


穂坂の質問の全てに答えたつもりでいた。


いや、答えていないか…

全て、穂坂が決めるべきだと思った。

俺の気持ちが伝わっていたとして、友達に戻るか、戻らないか。

この先、どんなふたりの関係か。



キャリーバックは俺の部屋に置かれたままなのに、次の日、穂坂は俺の部屋には来なかった。




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