南と穂坂の短編


〜秋波冬浪〜番外編〜





WAVE Openの3年前 [南side]



受験勉強の合間

あいつが少し出演すると聞いた青春映画。

内容には惹かれなかったけど

わざわざ1人で観に行った。


主人公達の恋愛よりも、

あいつが片思いして

切ない表情を魅せた何秒かが

ずっと胸に引っかかってる。




自分が通ってる高校で目立つグループの中、

1番明るくていつも輪の中心。

学級委員として

仲間の制服や髪の乱れを軽く注意し

ウザがられる中で、あいつだけいつも和か。


既に社会に出て仕事しているからか

全てに余裕を感じる。


補習を終わらせた穂坂が

先生に頼まれ教室で監視していた僕に

…余裕でデリケートな事を聞いてきた。


「南、お前…女の子に興味ないだろ?」


「……何…そんな事ないけど…」


「…そう?僕は興味ないねー…

仲良くなっても友達としか思えなかったし。

僕は男と映画の様な恋愛がしたいなー…」










WAVE Openの 2年後 [穂坂side]



「俳優同士で映画の様な

恋愛してるらしいね。」


事務所近くで南が1人で飲んでると知り

忙しいのについ顔が見たくなってしまう。


「……デマだよ。噂になったのは女優だし。

僕がそんな事あり得ると思う?」


「…そうだよな。

じゃあまだあの俳優とうまくいってるの?」


「ああ。まぁね。

スミマセーン!ビールグラスでー!」


「珍しい…ジョッキじゃないの?この後…」


「うん。チョットね。」


「なんだ…また俺の部屋でも

飲み直せるくらいかと思ってたのに。

まぁ明日も仕事か…」


「なにー。僕が必要なの?

何かあった?さてはまたフラれた?」


置かれたビールに口をつける。

傷ついた南を見て余計傷つかない様

心構えが自然に出来るくらいに成長出来た。

ビールの苦味が顔に出ないみたいに。


「……フラれる…のが当たり前なのが

最近分かったんだ。」


「ふーーん?当たり前?ってなんで?」


「…誰かに片思いしてる人を好きになる。

何となく原因も分かった。」


「片思いの人…ホントお前はいつもそう。

理想が高くて追いかけるの大好きだろ。

で?原因って?」


「…お前。」


「…僕、今両思いー。」


「……お前が演じて来た役…

どれも胸に引っかかってくる。

俺バカなのかな…役なのに……

片思いしてる人って、ああ…そういう風に人を愛せるんだ…って…その人の事がわかるだろ?で、そういう風に愛されたいって思うんだけど、結局それは俺に向くと違うし。

それでお前の事…あ、演じてるだけなのに…

お前ホント演技上手いよ。」


「珍しく今お前何言ってるか分からない。」


「ふっ自分でも分からない。

…まとめると…お前がずっと好きだった。

いつも幸せになって欲しいって思ってる。

もし幸せじゃ無い時、

俺が努力するから言って欲しい。」


「…努力か…お前そんなんで満足するの?」


「……幸せな穂坂が見れるなら

胸の引っかかりが取れて

俺も幸せになると思う…」


「…思う…か…確定じゃ無いし……

確定無いなら僕を巻き込まないで。

僕はお前とは別の所で幸せなんだから。」


「…ふぅ…まぁ恋人いるんだもんな…

いいんだ、俺は片思いで。お前にね。」


「…バカだな。ホント片思い大好きだな。」


「…大好きなわけないだろ。

こうしてお前が接してくれるから

どうにかいいって思えるんだよ。」



演技をする時、

本気で好きな相手を思って想像する。


切ない表情をいつも出せるのは

僕も何年も片思いしているから。





END

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