第21話 ふぁいんだー

(ファインダー…撮影レンズが写し込む範囲を目で確認する、目視できる窓のこと。)



[Repeat Sex]



彼は欲しい言葉を欲しい時にくれない。

大事な言葉ほど。


けど、その言葉よりも

実はもっと大きく、深く、強く、

安心や愛情を感じてしまう時がある。



彼が僕を好きって言ってくれるから。


愛してるって言ってくれるから。


キスやSEXが繰り返されたから。



彼と愛し合いながら一緒にいられるなら…

世界を敵に回しても大丈夫なんじゃないかって

思えてしまう。







3年前



「ねぇ…絶対…傷ついてると思うんだけど…」


「……っ…な、にが…?」


とぼけても無駄かも知れないけど、

そんな心配されたく無い。

テテが僕で興奮して、僕で感じてくれるなら

これくらいの痛みなんて…何とも無い。


「…初めて…ミミと

…っ繋がれたのはいいんだけど……

絶対……コレ…痛い…でしょ…」


「……ああ……けど………テテ…気持ち…い?」


「……っん、……ご、めん

けど……痛いなら抜く…」


「だめっ…っ…」


「…だって…ほら…痛そう…」


「……っけど…だめ…」


「……ちょっ…痛いくせに動かさないで…

俺がやめれなくなる…っ…」



そうだよ。やめなきゃいい。


多分お尻の穴は切れている。

傷口を広げる痛みは酷く苦しい。

何も入れた事が無い自分の中に

ギチギチに硬くて大きなものを入れたまま

キリキリする痛みが強くても、

やめたくない。自ら動かした。


……僕が気にしすぎなのかな。

テテはここでやめたら、

もう僕に入れようとか思わなそう。


…勃たなくなるかも…

こんな…お互いの気持ちを確認するのに

言葉よりも、適してる行為なのに…


『ずっと一緒にいたい…』


今、口に出来る精一杯の言葉が

テテの腕の中で出た。


テテも『俺も』って……

それでも、

僕は高校を卒業したら東京に行くつもりだし

それはテテに会う前から決めていた事。

テテはチイ婆ちゃんとの生活を

ずっと続けるつもりらしい。

…今まで僕がチイ婆ちゃんの役に立ててたか

分からないけど、

確かに僕とテテがいなくなったら…と、

チイ婆ちゃんを心配なのは僕だって一緒だから…


どうしよう。


離れて生活するしかないのかな…

あと1年ちょっとしたら

離れなきゃいけないのかな…

こんなに毎日一緒にいるが当たり前なのに…


僕達はそれで、大丈夫なのかな……


このテテの熱も硬さも………次は無かったりして…


痛みに堪えながら見上げると

テテだって…何を堪えてるの?

何でそんな辛そうな顔……?


「……ミミ…」


いつもより潤んだ瞳と目が合った。

囁かれる僕の名前…を呼ぶ口を

両手で頭ごと引き寄せて塞ぐ。



沢山キスをしよう。

どうせ欲しい言葉が出てこないなら。


沢山キスをしよう。

言葉よりも僕の気持ちが伝わるなら。



まだ一緒にいれるんだから、

今一緒にいる時を楽しまなきゃ……



「……っ…」


キスの合間にテテから溢れる息と、

僕を優しく包む手がぎこちないけど温かくて…


泣けるほど気持ち良かった。






冬休み、春休み…進級。

…最後の進級で、次は無い。


高校最後の年は

またテテと同じクラスになれた。


クラスのみんなは付き合ってるとか

身体の関係があるなんて知らないだろうけど

勘ぐるような友達にはバレてるのかな…

半分公認のような…

それでも変な目で見てくる人はいないし、

こんなに居心地がいいとは思わなかった。


…まぁ…テテとだからか…

変な目で見られてもいいかと思ってる自分が

凄く強くなれてる気がする。



行きも帰りも二人乗り。

家で余ってる自転車を綺麗にして少し直せば

テテの分用意できるのに、しなかった。

別行動が出来ないように…

共にする事を選んだんだと思う。


夜、寛ぐ時間が受験勉強へと変わった。


そして…僕からだったり、テテからだったり…

何度もキスを繰り返し、何度も身体を重ね合う。

…次はテテ、EDの症状が出たりして…

って不安をいつも抱きながら。


あと1年…あと半年…こうやって過ごす時間が

終わるかも知れないという不安を

お互い隠しながら。


休日には東京へ何度か旅をした。


僕にとっては大学の見学や観光。

テテにとっては母親からの写真や

偶に本人に会って現像作業をしているようだった。



「……ッぁ…」


お尻に傷を作ることも無くなった。

かといって慣れたわけでもなく

慎重にオイルで慣らされる。


奥の刺激と圧迫で、偶に不思議な感覚がくる。

…'くる'、ってこんな感じ…?


「……っ…ぁっ……」


目を閉じて、感覚の成り行きを追う。

多分…男がお尻で気持ち良くなるって…こんな…


僕の漏れる息で気づいたのか、

テテは僕の手を両方とも深く繋ぎ

体重をかけてきて身体を密着して…

僕の動きを抑え込みながら腰を動かす。


僕の感じる身体は動きが取れず、

感覚を誤魔化す事も出来なくなった僕の中を

テテが強く攻めてくる。


本来なら1度で終わるはずの…快感が続く。


「……ぁっ……ぁっ……ぁっ……」


出さないつもりでも出てしまう声と、

触られてもないのに出てしまう…


抱き締めてくるテテを僕も抱きしめ返す。

2人、身体で呼吸しながら…


味わった事が無い快感のせいで流れる涙も自然だ。


『テテと一緒に暮らしたい』


…自然に出そうな言葉を何度も飲み込む。


今日も問題集を広げたままのテーブルの隣、

両親が帰ってくる前の2人だけの家。

僕のベットでテテに抱きしめられながら…


代わりの言葉は出て来ない。


テテからも……何も出て来ない。




平行線が続いたまま…受験の季節。


僕のテーブルもコタツになり、

チミーはコタツの中、

上ではテテと2人で受験勉強が続いた。


理系な僕にテテが偶に解き方を聞いてきて、

僕も確認出来て復習になるから苦じゃ無い。

一緒に数式を解く。

僕が暗記の為に口にする歴史の年号や人名、

興味の無い地名も

テテは暗記の手伝いをしてくれた。

少し後で覚えてるかチェックしてくれたり。


…2人で何ヶ月も受験勉強してるのに

どこの大学を受けるのか聞けなかった。


テテも聞いて来ない。

まぁ僕が受ける大学には直接行ったし

赤本だったりでわかってるか…



「今度…東京で母親の写真展があるんだ」


「へぇー?いつ?行くの?」


「…ついでに…俺の写真も飾られるんだ。

ミミに…見て欲しい…」


「………」



今までずっと…

テテが目にして写してきた世界を

見たいと願っていたし、口にもしていた。


何度も撮られてきた僕の顔、姿も、

どんな風に写っているか気になっていた。



「…ミミ?」


コタツの右手斜めに座るテテは両利きで、

消しゴムやペン、

僕の右上に置くと2人で使いやすかった。

その場所に伸ばした僕の右手にテテの左手が乗る。


「…ミミ…」


声が息と半々くらいで混ざると

聞くだけで温度が伝わる。

声だけでも温かくて優しくて

愛されるって思えるんだ…


「……僕…やっと見れるんだ?

……見て欲しいって…言われなくたって見たいよ。

どれだけ待ってたと思ってんだよ……見に行くよ。

…テテが見てきた…撮ってきた世界」


僕の右手は軽くなったけど、

テテの笑顔がいつものように無邪気だし

今度こそ写真を見れる喜びで満たされたから

2人で勉強を再開した。




東京へ出かける朝。


学校へ行く時のように自転車や電車を乗り、

空港へ向かう。

…東京へ2人で行く度にこの距離を恨めしく思う。


こんなに離れて暮らしていけるのかな…


少し混み合う車内、

僕は人より転んだりよろける事が多いらしく

テテに出来るだけ寄り添い、

テテの手が僕の腰にも手を添えられていた。

くすぐったいし、テテの熱を思い出してしまう…


「……2人乗り…とか…好き…」


「……え?」


「ミミとこうやってくっつくの、好き…」


「……ああ…僕だって…

2人乗りに関しては…

ずっと一緒にいたいからだし…」


「……普通じゃないんだけど…」


「……え?」


「…触りたくて…一緒にいたくて…

くっついてたくて…

…誰にもこんな気持ちになった事無いし

普通ならないでしょ…こんなに…」


「……」


こんな電車の中で、

隣に立つ知らないおじさん達にも

もしかしたら聞かれてるかも。


混み合ってる中で寄り添う僕達は自然だけど

もっと…不自然に見られても

しがみつきたくなるし、

抱きしめたら涙が出ちゃうかも。


「……ミミ…?……泣いてる…?」


「…泣いてない。…けど泣きそう…」


頭がテテの両腕で包まれる。

…僕だって…僕の方が…くっついていたいし

一緒にいたいよ……



テテと会う前、田舎は移動時間が長くて

僕の人生は無駄な時間が多いと思っていた。

その時間を、テテが…

とっても特別な時間にしてくれたんだ。



…僕の人生で貴重な、

心が愛で溢れ…踊り動く時間。




不自然に抱きしめられていても、

僕は顔が隠れてるし…テテがいいなら…

ずっと、降りるまでこのまま。


テテの温もりにしがみついた。




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