第20話 ふらっしゅ

(フラッシュ…シャッターを押す瞬間に光を発し周辺を明るく照らす装置。またはその大光量の光。)



[Many Kisses and Sex]



3年前



…ミミが望むなら、賭けを理由にされてもいいから

距離を取ろうかとも思った。



…俺の行いを知ったら、呆れられると思った。

離れていった人達には

言い訳なんかしなかったけど…

ミミには、呆れられてしまったら

言い訳しようとも考えていた。



けど、そんな心配よりも、俺の心配をしてくれた。

離れるよりも、近づく事を望んでくれてた。

…俺の身体にも救いの手を…


言葉には言い表せない。

どんどんミミが好きになる。


求められる喜びを初めて感じた。


人の欲求…性欲…男のモノが勃つのは

どこか嫌悪感すら抱いていたのに…


ミミが勃ってる?俺で?いつから?


反応してるミミが可愛くて、

男らしくてカッコよくて、…嬉しくて舞い上がる…


ぎこちなく動く手…唇…ミミの動きに身を任せたら

益々ミミが愛しくなったのに…


……ごめんね。

そんな事されても勃たないかも……

……期待しないで……少し罪悪感が消えない俺は

ミミを見て一瞬涙腺が危なかった。


「……ミミも脱いで…?」


近くで見る仕草…目の動きとか…

いつも色っぽく見えるのは何で…?


整った造形の身体や肌触りは勿論だけど

今まで見てきた人達の中で

1番心が綺麗で優しい人。


そんなミミが俺の前で、

しかも初めて理性を投げ出してる。


勃たない俺のモノが疼きだして久しぶりに、

…と言うより初めてこんなに切実に

'触りたい' 'くっ付きたい' '一緒に感じたい'

ミミに対して思う欲求…性欲。


首に手を回され、首筋に噛み付かれてる痛み。

けどその痛みでさえ快感と混ざる。


2人分を包んでいた手で溢れる2人分を受け止めた。

全て受け止めれるわけ無いから

ベットに広がったけど…


「……ハァ…ハァ……

……ミミ……ミミ…?こっち向いて…?」


息がすぐには整わない、全ての感覚を味わったら

感覚が鈍くなるように

身体も気持ちもふわふわに軽くなった。



首元からこちらに動いた顔を見ながら

心の底から溢れてくる想い…


好き…

出会えて良かった…

ミミと…ずっと一緒にいたい…


ミミとキスを優しく繰り返しながら、そう願った。






「お前なんだその首の跡は…!」


「……」


翌朝、急いで学校の用意をする為に家に戻ると

起きてきた父親とすれ違う。


「…そうやってこっちでも遊ぶなら

もう次は母さんの所へ送るしか…」


「……'母さん'とか父さんも言うんだ…?

いつも'あの人'とか言って感じ悪いのに」


「あの人はあの人だ。

俺からしたら関係の無い人だからな」


「……で?母さんは今どこなの?

俺、今度は母さんの所?」


「行きたきゃ行け。確かアフリカ……」


いろんな国を飛び回る女性写真家。

両親は俺が小学生の時に離婚した。

一緒に過ごした記憶も薄れて

話した会話の内容で覚えてるのは僅か。

年に1.2度送られて来た写真も、

こちらに来てからはもう届いていない。


「ねぇ。そっちに母さんからの手紙届いてる?」


「あぁ。…けど持って来て無い。

欲しけりゃ取りに来い」


「あー、テテおはようさん。よく寝れたかい?」


「…ん…」


「またあんた達言い合いしてるのかい?

とおるはテテにキツすぎるっちゃ。

自分がダメな所もあるのに

頭ごなしに怒りすぎっちゃ。

テテはそんなに悪い子じゃない。

心配でわざわざ来たくせに、

素直じゃないっちゃねー…」


「今回帰って来たのは母さんが入る施設の話…」


「施設⁈老人ホームかい?入らんよ?

テテと朝も夜も御飯を一緒に食べて

毎日一緒に過ごしてるのに

なーんも心配する事ないっちゃ」


「…ああ、チイ婆ちゃん、俺が毎日一緒だから。

これからもずっと…俺はここで暮らすし。

っと!もう急いで出るから。

ミミのママさんが送ってくれるから!

行ってきます」


「あーはいはい。いってらっしゃい」


チイ婆ちゃんは穏やかな安心をくれるけど…


父との終わらないイザコザも

またミミに会えば気が紛れる。

朝も昨日の夜も幸せだったから

俺の幸せはミミにかかってる。


一緒に登校して、一緒に帰宅して、

夕方…夜、と一緒に過ごす。


今までとあまり変わりないけど、

気持ちをお互い認めて距離が近づいたら

一段と素直になれた。


夜、チイ婆ちゃんが寂しそうな時は

自分の部屋で寝る事もあったけど、

チイ婆ちゃんが早い時間に床についた後は

ミミの部屋で寛ぎ、寝る事が多かった。



「ミミ、キスしたい…」


ミミの部屋に入るなり言う。


「うん。僕も…」


返事をしながら照れるミミ。

視線をズラしながら俺の前に立つ。

俺より少し低いミミに顔を近づける為

丁度良い距離を少しだけ屈みながら

こちらに向く視線を捉える。

キスする前から潤んだ瞳、唇は

何度味わっても愛しいし…

立ったまま、抱きしめながら繰り返すキスで

背伸びしたり身長分をしがみついてくるのも

愛しくてしょうがない。



「ミミ、キスして。」


ミミからのキスも要求する。


言葉の返事は返って来ないけど、

おずおずと近付いて来るミミを、俺は待ち構える。

多分、笑みが溢れるって

こういう時の俺の顔を言う。

ミミの顔は照れた顔。

たまに俺からの笑みが伝わって

微笑みながら近づく顔…

…唇が重なるまで待つのも楽しい。



朝の電車の中。

まだ足を痛めてるミミと早めに電車に乗り

出来るだけ座って過ごす。


「…今度の土日に、東京に行こうかな…」


「…お父さんの所?」


「んー…」


目を少し見開きながらも細かく頷くミミ。


「ミミも一緒に遊びに行く?」


「え?遊び?

…お父さんと用事あるんじゃないの?」


「まったく。

あの人、俺の母親からの手紙が届いてるのに

ついでに持って来てもくれないし、

送ってもくれないから」


「へー、お母さん。…うん。僕も行こうかな…」


両親の事や向こうでの交友関係、

ミミは聞いてこないし

俺も初めて出した母親の話題。


「…母親、写真撮る人でさ。

海外転々としてて、

こっちからは殆ど連絡取れないんだけど…

年に3.4回、写真が送られて来て…」


「…うん。それは取りに行かなきゃね」


今度は笑顔で細かく頷く。ミミに相談すると、

こんなに気持ちが軽くなるんだ…


「…母親が…俺が撮った写真を見たいって…

離れてても、写真を後で見れたら…

嬉しいって……写真の現像、

母親が教えてくれるって…約束してて…」


電車に揺られながら言葉を紡ぐ。

ミミが隣で優しく頷きながら聞いてくれる。


「…ごめんね、なかなか俺の写真見せられなくて。

今度、母親が日本に帰って来た時には

現像するから…」


「…うん。楽しみにしてる…」



座りながら、鞄を膝の上に乗せてる俺達。

その鞄の下で誰にも見られないように手を握った。

ミミからも指が絡められ、握り合う手。

降りるまでこのまま…


「…ついでに僕、大学の見学も行っていい?」


「…大学?なんで?」


「行きたい大学…ホントは2.3校見たいけど

第一希望の1校だけでも見学したいな…」


…頭が追い付かない。

ミミはずっとこの場所で進学、就職と

していくものだと思っていた。勝手に。


「……家から通える大学とかは?」


「…それじゃダメなんだ。

将来的に、向こうでアルバイトとか

いろんな経験して…

やりたい仕事に就きたいから」


「…やりたい仕事って?」


「……家で話すよ。将来の夢…

ここじゃチョット…」


聞きたい事は沢山なのに

家へと持ち越されてしまった。


ずっと一緒にいられるわけじゃないって事?

ミミはそれで、なんの抵抗もないって事?


俺との関係を、認めたばかりなのに

こうして朝昼晩一緒な毎日を

ミミは簡単に捨てられるって事?



ミミの将来に俺のスペースが無さそうで怖くなる。

聞きたい事も聞けず、会話が無くなる。


繋いでる手が震えそうなのを誤魔化す為に

鞄から出したヘッドホンをケータイに繋ぐ。


するとミミが空いてる右手を出して

イヤホンを要求してきた。



ミミは左耳、俺は右耳、

繋がってるイヤホンで同じ曲を一緒に聴く。

何度かした事があって、いつも…

1つになってる感覚があったのに…


今…俺の不安をミミは気付いて無さそう。


手も繋いで…イヤホンも繋がってて…

……こんなに近いのに。








pm10:00



ミミは普段しない運転で疲れが出たのか

今にも寝そうな感じ。

邪魔をしないように、そっと身体を擦り寄りながら

ベットに入っているミミの隣に入る。


目の前で目を瞑るミミに

キス…したい…けど…我慢…いや…


軽く音が立つような、すぐ離すキスをした。


「おやすみ」


「ん」


目は瞑ったまま、頬も口角も上がった

幸せそうなミミの顔に俺は安心する。


ケータイとイヤホンを手に取り、

眠りを誘う音楽を選んでいると

もともと俺とミミの間にあった

ミミの右手が広げられて来た。


俺の行動も分かってるし、ミミの行動も分かる。


手のひらに左用のイヤホンを渡すと

いつものように装着。

向き合って、音楽を流し…

俺ももう片方のイヤホンを右耳に装着して

目を閉じた。


左手はミミ。右耳は俺。

高校生の時はコードで繋がっていて

ずっと離れないで聞いていた音楽。

それはそれで近くて良かった。


今はワイヤレスのイヤホンで

大学への通学時間、少し離れて歩いたり

俺が踊り出したりしても俺達は同じリズムを刻む。


繋がっていなくても

凄く近く、深い所で繋がっている俺達。


「愛してる」


寝てしまったかとも思ったけど、

普段言えない言葉を伝えたくなる。


「………寝れなくなるだろ…」


目は瞑ったままだけど…起きてた。


いつものように俺の素肌の脚に

ミミの脚が絡んできた。








3年前



「今朝の話の続き…」


一日中 聞きたかった事、

ミミと話したかった事が

ミミの部屋に入った事でやっと聞ける。


「ああ…恥ずかいな…将来の夢は…

物語を作りたいんだよ。

まだハッキリは決まってないけど…

小説とか、ドラマとか、映画とか…」


「うん。ミミ好きだもんね。知ってる」


「で、そういうのが作られてる現場に

行きたいんだけど…」


「うん。それで東京の大学なのね」


「うん。………え……テテは?

ずっとこっちにいるわけじゃないんでしょ?

テテも東京帰ったりするでしょ…?」


「……俺はずっとチイ婆ちゃんといる」


「……」


「……」


続く沈黙を破る、次の言葉がお互い出てこない。


"行かないで"


ミミがやりたい事、好きな事、将来の夢……

ミミと過ごす毎日から伝わって来てるのに

それを潰せはしない。


けど……どうしよう。


あと1年チョット過ごしたら、

俺はチイ婆ちゃんを置いて

ミミと東京へ行くべきなんだろうか…


"一緒に行こう"


俺がチイ婆ちゃんとずっといるって言ったから?

そんな言葉、ミミからは出て来ない。

出て来たら…?

今…答えを出すのはやめよう……


着替えに戻らなかったから

2人で制服のままだけど、

俯くミミの事を丸々抱きしめた。


「僕はテテとずっと一緒にいたいよ…」


くぐもった声で胸に直接話しかけられてる。

息で温かさまで伝わる。


「……うん、俺も…」


唇で髪の感触を味わいながら、俺も伝える。


こんな心境じゃ、また勃たなかったりして…

少しミミを抱きしめる力を弱めると

泣きそうなミミと目が合い

堪らずすぐに唇を重ねた。

お互い深くなる唇と舌の動き。

制服を乱しながら、肌を弄る。

ベットに雪崩れ込み、横になってなっても

深く唇を重ね続けたら

俺のモノが硬くなるのが分かる。


「……ミミ…入れたい…何か…クリームとか…」


ミミが棚に手を伸ばし、ボトルを俺に差し出す。


「コレ…必要でしょ…」


少し起き上がり

用意してくれてたオイルを手に取ると、

ミミは俺のモノに手を伸ばして来た。


「……っ……」


刺激が更に俺のモノを硬くする。


そのままミミのお尻に手を伸ばし、

お互いやわやわと刺激しながら

…また唇を深く重ねた。


…ミミの顔色、様子を伺いながら。


「…入れてみよ…?」




俺の下で、ミミは少し……イヤ…大分苦しそう。


ミミのサイズは可愛い。

言ったら怒られるだろうけど。

…俺のサイズはデカイ…んだろうな…

ミミもさっきまで弄ってたから分かるはずなのに…


痛みとか…怖かったり…


今も痛みに耐えてる…?

固く眼を瞑っている瞼は

少し震えているし、濡れている。


そんなミミが愛しくて…


自分でミミを犯しながら、

胸はギューっと締め付けられる。


もう…ホント…好きが溢れてくるし…

出来るだけゆっくり腰を動かす。

…止めたくても止められない。


ごめん。また涙腺が危ない。



…俺の為に、

こんな…耐えないでくれよ……




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