第18話 すぷーる

(スプール…クランクと連動し、フィルムを巻き付ける軸)



[Before Sex]



3年前



文化祭の途中、学校の屋上に連れて来られた。


キス、をされた。


『何とも思ってないのにキス出来る奴』

僕のテテに対しての言葉、否定してくれないまま。


そのままキスを続けると

どんどん深く、舌が絡んで来た。

人の内側と関わる行為なんて初めてで、

しかも相手がテテで…


気持ちが追いつかないのに

女装したスカートの中で反応する下半身。



テテの行動で一回一回、泣きそうになるのに。

………テテは…勃たない。


僕のキスで勃たない事も

事実が床に座る僕の目の前に入ってきて

この目で確認してしまった。


「……もう…やだ…」


僕だけバカみたい。





その後…何度か僕の部屋で2人過ごしても

キスとかする雰囲気にはならないし、

そもそも僕はそんな雰囲気知らないし、

テテはいつも通りだった。


僕の気持ちも知らないで…


テテの顔…唇…話す口の中…舌…

見る度、心臓の動きが速くなって

絡めた感触を思い出してしまう。

テテの気持ち…恋愛感情じゃなくても

また…したい、と思ってしまう。


けど…テテはまた…

僕なんかじゃ勃たないだろうし…

反応してる僕のを見たら…引く………だろうな。






文化祭から約1週間後の球技大会。

サッカーの試合をテテとする事に。


『勝ったら何でも言う事聞いて?

ミミが勝ったら何でも言う事聞くから』


それなりに点数を取る自信はあるけど、

テテは運動神経が良い。

賭けを言い出すくらいだから

サッカーが上手なのかも。


僕とテテの賭けを嗅ぎつけ

面白がる僕のチームのクラスメイトから

ゴール前の僕にボールが集まってくる。


1点、2点…

ゴールポストに当たったり

キーパーに止められても、既に2点稼いだ。


相手チームは特にテテへ

ボールを集中はさせないらしい。

まぁ僕のクラスが優勢だから

気のせいかも知れないけど…


ドリブルで僕の方へ近づいて来るテテ。


やっぱり上手い。

小さい頃からやってたような足さばき…

止められないかも。


テテは僕に何して欲しいんだろ。

サッカーに集中出来ない。


右、左、とフェイントをかけられ

読めたのに身体が追い付かず

体重が足首へ、変にかかってしまった。


「……ッ!」


地面に手を突く僕。


「ミミ!」


ボールをキープしたまま通り過ぎたはずのテテが

1番に僕を支えに来た。


「足首?!痛む?!」


何も返事してないのに僕の腕を自分の肩に掛け

僕の身体を支えて持ち上げる。

痛めた右足首に負担が掛からないように

ゆっくりテテと歩き出した。


「………痛い……」


「ああ、…痛めちゃったね…」




保健室で手当てしてもらい、

その後の試合は出ずに

テテもずっと僕に付き添い

保健室の窓からいろんな試合を眺めていた。



「何か出る試合あるんじゃないの?」


「わからん。

さっきはクラスの子に教えて貰ったから…

俺が出なくても誰か代わりに出るでしょ…」


「あ、サッカー!クラブとか入ってたり…

何年かやった事あるだろ?!」


「…まぁ……少し…」


「僕、遊びでしかやった事ないのに…」


「それでもミミの勝ちでしょ。

…何か…俺に、こうして欲しいとか…

あったら言って。傷付かないから。

言われないと分からないから…なんか……

最近、俺の前だと、ミミ…ちゃんと笑ってない」


「…笑ってるよ」


「いーや、ちゃんと笑ってない」


「……それで?テテが僕に何かしてくれるの?」


「…うん。何でも言って」


「………考えとくよ」



帰り道、電車の中でも会話は少なかったけど

肩を貸してくれて支えてくれた。

僕の腰ら辺に添えられるテテの手が

くすぐったくて、捻った足首の痛みが和らいだ。


自転車の2人乗り

いつもより振動が少なく、ゆっくり…

ずっとテテが漕いでくれた。

坂道も僕を座らせたまま

自転車を押そうとしてたけど、

流石に進まなくてその時だけ歩いた。


僕の為に頑張ってくれるテテ。

…可愛いな……ありがとう……

……悪いな……ごめんね……

喉まで出そうなのに、胸の中だけで繰り返した。


この躊躇は…何だろう。

言い出したら…全て吐き出してしまいそう

…だからかな。



「ありがと。…寄ってく?」


「……1人で着替えられる?手伝う?」


「……いや、大丈夫…」


「…じゃあ、俺も着替えてから…」


…テテの方が、ちゃんと笑えてないだろ。

家の前でとりあえずテテと別れた後、

キスする前と今の雰囲気を比べてみたり…

何を頼もうか…考えながら玄関に向かう。


…向かった僕の家の玄関先、

普通に立ったまま佇む男の人がいた。


「……うちに何の用ですか?」


「…隣の婆さんとその孫と

仲良くして貰ってるかと…

輝良の父親です。君は光史君でしょう?」


「……はい。初めまして…」


「あ、輝良てるよしも帰って来たかな?待ってたんだ。

こっちに来たきり、

電話にも出ないから声も聞いてない。

輝良…彼女とか…今いるかな?

今までいなかった時なんか無いから

いると思うんだが…心配で。

また適当に子供でも出来てしまったら…」


また…?子供…?


「テテ…輝良君なら僕と一緒に帰って来てます」


「ああ。悪いね。…真面目にやってるのかな…

どれ…ここまで来たから

輝良と話せ無いにしても顔を見て来よう」


…怖い印象は無いけど

何を考えてるのか読みづらい…表情が硬い。

テテの父親…


テテの父親の背中を見ながら

今の話を振り返る。


『また適当に子供が出来てしまったら』


そう言ったよな。

テテの事だよな…それが本当だったとしたら……



その事がどうこうより、

テテが傷付いてる事だけが確かな気がした。




思ったより早くテテは僕の部屋へ来た。

父親とはあまり話さなかったのかな。

僕が話した事は知らないんだろうな。


部屋着に着替えた僕達は

2人でいつもの様にコタツに座り

テテは持ってきたカメラを弄り、

僕は用意しておいたジュースに手を伸ばす。


テテがカメラを僕に向けシャッターを押す。

何かを確認するようにカメラを弄る手元。

真剣な横顔だけどコロコロ変わる表情。


「……東京に彼女がいるの?子供とか…

お父さんさんがチラッと言ってて…」


僕…自然に聞けたかな。

息を呑んでテテの言葉を待つ。

テテの手元も、表情も、固まってしまった。


「彼女……いないし…

子供の事は、どこまで聞いた……?

……俺にも責任ある…」


事情……テテが抱えてる事情に触れてる気がする。

それは…今…テテの傷を

抉ってしまわないだろうか…


「……何も聞いてないよ。

なんか…彼女?…子供…?とか言って

テテの心配してたから…」


テテは手元のカメラを見つめ、

僕より大きな肩を丸めてしまった。

…僕は責めてない。

…テテが傷ついてるなら軽くしたい。


痛めた足首を引きずり

コタツから出て、テテを抱きしめる。


少し驚いた顔のテテと目が合う。

今にも涙が落ちそうな表情の彼は

この事情でどれ程傷ついて来たんだろう。

……今も…どれ程の傷が癒されずにいるんだろう。



「ミミ……キスしたい」


僕だって、したい。…意味が無いキスでも良い。


僕はテテが好きなんだから…

それだけでも意味はある。



目は合ったまま。

テテの望み通り、そっと唇を重ねる。

抱き締めている手にもそっと力を込めて…優しく。


「……呆れないの?

最低な事して逃げて来たんだ…って」


「……テテが…傷ついてるだろ…?

向こうで誰かを傷付けて来たんだとしても…

テテが傷ついてる事の方が僕は心配…」


抱き締めている手を、

テテの大きな手が包んでくる。そっと。


「…ミミには…触りたくなるんだ。

手にも。身体にも。

……唇には…キスしたくなるし…

今まで、誰にも…誰に対しても、こんな風に

…………思った事ない」



『何とも思ってないのにキス出来る奴』


諦めていた否定が

一生懸命言葉を繋ごうとする彼の一言一言、

表情から伝わってくる。


もう一度、唇を重ねる。僕から。


少し覆い被さりながら繰り返すキス。

体重をテテにかけると僕を受け止めながら

ゆっくりテテが倒れていくから、

余計体重がテテにかかる。

最後は床へ押し倒し、

上になってしまったのに

更に引っ張られてキスが深くなる…


唇の内側、舌と舌を絡ませる気持ち良さを

知ってしまったから…

息も忘れる程、夢中になった。


熱く濡れて、僕とテテの一部が

溶けて混ざる口内…自然に反応する僕の下半身。



そしてテテの脚の間、

僕の脚が当たるけど…全く、その反応は無い…


また……

僕だけが……


唇を離し、起き上がろうとすると

テテの手に力が入り、離れられない。


「…だから、もっと…

触りたいし、キスも、もっと……」


「……けど、ごめん……

僕、…だけ、下…反応しちゃうから……」


「あぁ…うん。嬉しい。あ……ごめん。

俺、前…言ったと思うけど…勃たない…」


「……だから…僕じゃ勃たないなら……」


「いや、逆にミミなら勃ちそうだし…

……

暫く前から完全に勃起不全。病気。

気持ち的な問題もあると思う…

きっかけも、分かってる。きっかけだけど…」


ショッキングな…男にはとても繊細な内容…

……勃起……ふ…ぜん……


僕が覆い被さる体制で、

離れられずにテテを見つめたまま。

テテは僕の目を見て話しだす。


「……望まない子供が殺されるのを

目の当たりにした。その姿も見た。

俺の彼女が母親で……けど、

俺の子供では無くて……

その頃から…いや、初めから

俺はSEXに興味薄くて…あんまり…」


「……超…経験あるんだと思ってた。

あの、多分想像通り…

僕は何もかも初めてで…

テテとエッチな事したいっていうより…

…知りたい。テテの事。

気持ちもそうだし、身体も。

テテの全部見せて?…それで…

今より好きになっちゃったら、僕は認める。

人を好きなりそうな時は男の人だったし、

テテの身体を見るとドキドキする事。

女の子を見てもドキドキしないのに

テテが可愛くてドキドキする事。

テテに優しくされるとドキドキする事。

声…視線…仕草…いちいちドキドキする事。

僕と、キスして…

その先を僕に試させて…?

……これが、サッカーの賭け…

何でも言う事聞いてくれるってやつに…」


「…サッカーの賭け…

ミミが俺と一緒にいる事が嫌なのに

言い出せないなら…何でも言う事聞くって言えば、

本心言うかなって…」


「何だそれ…気にし過ぎ」


また泣きそうな表情のテテが

目元を下げ、微笑み出す。


テテの事情を聞き、

僕の思いを全て吐き出してしまった…


…僕なら勃つ……?そんな彼が見たいし…


またキスを1つ落とし…瞳を確認する。

何度も見つめてしまう…


……自分で言っといて…

試して…ショックを受けるのは

僕だけじゃなくてテテまで…

ショック受けるかな……けど、ダメでも…

何度でも…試してみればいいか……


「……試すの怖い…?

……僕は、出来なくてもいいんだけど…

とりあえず試すだけ……嫌?」


「……怖くないよ。ミミだから……」



キスを深くしたままテテのシャツを巡り、

お腹から胸へと素肌の上を滑らせるように

手を動かす。


「……っ…」


テテの吐息が漏れるのが分かって余計興奮する。


…胸の突起にも手を滑らせる。撫でる。転がす。


初めての行為なのに、

勃たないテテを試すなんて高いハードル…


相手がテテだから…




自分でも冷静に驚く程…


こんな行動が出来る程、

強くなれてる。



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