第9話 特別編 ふゆなみ


〜〜〜冬浪〜〜〜




pm7:00



…僕が望むデートコースとか

確認してくれてもいいのに…

学校があっても夜なら遊びに行けるのに…


遊びに行けないならご飯の用意をして

自分の誕生日のお祝いメニューにするのに…



前から何となく、予定を確認しようとした。

トボけてるのか何も考えてないのか…

明日は付き合って初めての

僕の誕生日なのに。

まぁ自分の誕生日ですら忘れるんだから

しょうがないか。



カウンターから睨む。

睨まれてるグウはこっちに気付いても

笑顔で後片付けのトレイを流し台へ運び、

僕の隣に来て呑気に鼻歌を歌ってる。


「…それ穂坂の歌?」


「うん。チョー聴いてる。」


…ハマりすぎ。

まぁ僕の友達と仲良くなってくれて

嬉しいけど…


「穂坂と南、高校の同級生だったんだよ。」


「ふーん。」


「腐れ縁でずっとやってくみたい。」


「ふーん。

まぁ、どっちも仁兄にちょっかい

出さなきゃいいけど。」


「お?彼氏ヅラ?」


「彼氏だから。」


「僕の彼氏さん、

今日はもう店閉めて上でご飯食べようか…

明日休みだから昼間に掃除するし。」







少し呆れてきた僕に気づきもしない

普段通りのグウ。


「このチキン美味い。なんか豪華だね。」


「…少し豪華にしてみた。

シャンパン飲もうかなー…」


「ごめんね、一緒にお酒飲めなくて。」


「……いいや。やっぱり飲まない。」


「飲みなよ。

また酔っ払い仁兄を美味しく頂くから。」


「なんだそのギャグ。」


クシャっと笑うグウが目の前にいる。


あと何時間かで僕も1つ歳をとる。

…一緒にいてくれるだけで幸せなのにな。

欲張りになる僕に呆れる。


両手でグウの頬を摘む。


「…美味しいか。僕の誕生日のメニュー!」


「…なんで…明日でしょ?」


「あ?知ってた?」


「忘れるわけ無いし…」


「ねぇ、じゃあ明日何する?

学校何時に終わる?夜ご飯どうする?」


「夜ご飯か…ここで過ごすかな…」


「'かな'ってなんだよ。

僕がしたい事とか考えてよ。」


「……ねぇ……誕生日プレゼント、

犬とかどう…?

仁兄の両親に聞いたら賛成だって。

仁兄が見れない時は実家か俺かでみれば

大丈夫なんだけど…」


「……前…両親にペット飼おうって言ったら

断られたのに…お前

どんだけ僕の両親に好かれてるんだよ…」


「え?仁兄が飼いたがってるって言ったら

すぐOKだったよ?」


「…もしかして兄さんの部屋片付けたの…

新しい家族って犬?」


「そうだと思う。…猫でもいいよ?

明日見に行こうよ。

明日じゃなくてもゆっくり俺達の子供、探そう?」


「…ぶっ‼︎…何、子供って!ペットの事?子供?

もう既に溺愛が想像つく…」


「ああ、溺愛だね。もう名前も考えたんだ。

仁兄のジと郡司のジで…合わせて…

そういうの子供っぽいでしょ?」




シャンパンを飲まなくても

水上に浮かんでるみたいに気持ちいい。

海の上、板の上でプカプカしてる感覚。

こんなにも癒される時間が続くなんて

何年か前の僕に教えてあげたいよ。



2人携帯画面を見て好みのペットを言い合う。

大型犬でおっとりしているのが僕のタイプ。

店で一緒に過ごすには大人しい方がいいし。

色は茶色か黒…。

全身黒い服が多い恋人に寄せようか…?








am0:00



「仁兄……」


目を瞑って海からあがった後の様な

気怠さを味わっていた。


さっきまで執拗に

後ろも前も胸も攻められて、

感じ過ぎて疲れた身と心…

更に眠気で曖昧になってる僕を呼ぶ声に

目を向けると…


見覚えのある包装、大きさの箱

が目の前に。


「全く一緒。サイズは少し違うけど…

それでも男のサイズなんだから

店頭で買った俺の勇気褒めて?」


…?…確かに…

自分ではめてる指輪と全く同じ物…

ペアで男サイズを買おうとするグウは

笑えるけど切ないし…愛されてるかな…僕。



「ありがと。恥ずかしかった?」


「恥ずかしかったよ。

お店の人イロイロ聞いてくるし…」


「…可愛いなお前…

僕だったら適当に返事するのに…

イロイロ聞かれてちゃんと答えたの?」


「…うん……恋人へですか?とか…

あえて彼女って言わないものなの?

サイズで男にってバレバレだったのかな…

どっちにしても恥ずかしかった…」



実は少し期待していた指輪。

いざそんなやりとりを聞くと…

考えたり、買いに行ったり、

プレゼントってホント簡単じゃないよな。



「グウ、凄く嬉しい。ほんと嬉しい。

一生今日を忘れないし、一生大切にする。」



2人裸で布団に入ったまま、

僕はグウと同じ場所、

同じ指輪を恋人にはめて貰った。


2人寝転んで左手を出し

2人で暫く眺めた。



"一生大切にする"



グウへの気持ち。一生忘れない。








2年後



僕がいつも載っていた雑誌を開くと

グウのインタビュー記事。


「…なになに…休みの日は何を…

サーフィンしない時は知り合いのカフェで

看板犬のジジと遊んでいます…?

はぁ、まぁ事実だけど。

…で?…ジジは僕に1番懐いてる?

ジジー!

ジジが1番懐いてるのは僕だよね?」



すっかり大きくなって貫禄が出てきたジジは

ドアの前で昼寝したまま僕の声に

ピクリともしない。


「…眠いのねー…はいはい…」


眠りの邪魔はしないでおこうと思った矢先、

急に立ち上がり尻尾を忙しなく振り出す。


「なんだよ。

どっちがホントのご主人様だよ…

はいはい…もうすぐ来るのね…

ジジはホント耳がいいですねー…」



まだ少し遠くで自転車を漕いでるはず。


…僕も彼が来るのを待ちきれず…

ジジとどっちが先に外に出るか

ドアの前で押し合い。

ジジとほぼ同時に出ると子木枯らしが吹き、

海からも太陽の光…乾いた反射で

いつもより眩しい気がして目を細めた。



「おーー!どうしたのー?

ちょうど散歩ー?」



ジジのおかげでピッタリのタイミングで

グウを迎えた。


…こんな何度目かのお迎えを

偶然だと思ってるグウ。



気づくまでは恥ずかしいから

偶然って事で秘密にしておこう。





グウの薬指で光る物が


自分の薬指でも光ってる事…



今でもいちいち喜んでいる事も


今は秘密にしておこう。





時には凍てつく波に飲み込まれて


暗く深い海の中で


上も下も分からなくなる時…


海面で揺らぐ太陽の光だけが頼りになって


どうにか上に泳ぐ。





光が頼りに。



お互いのプレゼントがずっと変わらず



頼りに……






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