第8話 特別編 しゅうは


〜〜〜秋波〜〜〜




pm6:00



シーズンが過ぎ人も疎ら。

夜になるのも早く、暗闇の海辺。

犬の散歩で砂浜を歩く人とすれ違いながら

仁兄は今にも犬に話しかけそうな勢いで

顔を近づけて手を振っていた。



「……犬ほしい?」


「ん?そのうち飼いたいねー。

けど今はまだ無理かなー。

もっとちゃんと

世話できる環境になってからだなー。」


「そうだよね。

飼ったら仕事で泊まりとかの時、留守番

可哀想だもんね。」





仁兄は火曜をカフェの定休日にした。


今日は火曜で仁兄は他の仕事も休み。


月や星が光りだす空の下

たまにこうして2人穏やかな海辺を歩いて

ご飯を食べに…デートのような事をしてから

仁兄の家に行くようになった。


定休日以外はほぼ仁兄の部屋で

夜ご飯を食べてる。


『1人じゃご飯さみしいでしょ?』


って仁兄の心配をする振りをして。


『寂しくないよ。慣れてるよ。

なんならご飯とか飲みとか

断ってるくらいだよ。』


そうか。そうだよな。

社会人1年目でいろいろあるはずたよな。

俺は行っちゃダメなんて言わないのに。

まぁ結局俺の為、俺がそうしたいから…

毎日のように

2人で過ごしてる。






「…………ねぇ!聞いてんのかよ!」


「え?ゴメン聞こえなかった。

何?今後の大会の予定?学校の予定?

たいして無いよ?

来年は海外の大会行く予定だけど。」


「あっそ!

海外のどこ?行かないけど!」


「……なんで怒ってんだよ。

オーストラリア!1人で行くよ!

あ、確かこの前大会で話込んだ奴も

行くって言ってたから一緒に行こうかな…」


「……」


数歩先の波打ち際を歩く仁兄に

後ろから呼びかける。


「じんにいー?

仁兄の予定は?

今年もあと二ヶ月くらいだねー。

今後の予定はー?

ずっとカフェにいる?いれない?」


「……わかんない。

モデルの仕事が入るかも。」


少し横を向き、

後ろの俺に声が届くように話す。

それでも顔は見えない。

そもそも暗くて近づかないと

顔色は伺えない。


追いかけて肩に手を置く。

そのたびに同じ背丈になってる自分が

嬉しくなると同時に仁兄が愛しくなる。


顔を近づけても

キスしたい衝動をとりあえず抑える。


「…ほんと聞こえなかったんだけど。

何て言ったの?言わないとキスするよ?」


「…言いたくないし、

ここでキスもしたくない。」


「なんでーー!

周りに人いないし暗くて見えないのにー」


ギリギリの所まで顔を寄せる。

毎日…1日に何回もしているキス。

別に今更、今、どうしてもしたいと

強く思うわけでも無い。



「ねーー…誰もいないし

遠くからは何してるか見えなくない?」



自分でも最近幸せだと思う。

愛おしい人が手の届く場所にいて

いつでもキスできる距離にいる。


キスもしたくないと言う恋人は

睨むでもなく俺を見てくる。


愛されてる自覚がある俺は

肩に回している手で

そのまま顔を引き寄せて強引に唇を奪う。

流石に外だから一瞬。

しかも奪うって言っても

実際もう俺の物だし。



「ああーーっっ!!

靴が濡れちゃったじゃんかっ!」


波が足元まで来ていた。


濡れないように仁兄から離れると

届かない程度の足蹴りをしてきた。

逃げるように更に離れる。


少し追いかけっこの様になり

捕まえた、とでも言う様に勝ち誇って

抱きしめられる。


抱きしめ返してイタズラに

波打ち際に引きずる。



小さい頃も波打ち際で

よくふざけ合ったな。

変わらず2人でふざけ合えば

時間を忘れて遊ぶ。

多分この先もずっと。



仁兄も笑ってる。

俺も幸せ過ぎてすごく笑ってる。








pm1:00



「最近ドラマの撮影で

穂坂とかがその辺来てるらしいよ?」


「え?この前ロケバス停まってた。

中にいたのかなー?ヤバくね?」


「やばいよ。私その辺ウロウロする予定ー」




昼休みの教室。


俺ら男より

女子の声はデカイ。

なんであんなに元気なんだ。


俺の隣で弁当食べ終わった友人が

詳しそうなやつに小さな声で尋ねた。


「…ホサカって?」


「最近モデルからドラマやり始めた俳優。

知らねーの?マジカッケーよ。

何でも出来るやつ。

歌も出してるし、ダンスもプロ並。」


「何それ…そんな男リアルに存在する??

それはやべーな。

おいグンジ、お前は知らないだろ?」


「知ってるよ。ドラマは見た事無いけど

雑誌では見た事あるし

歌と踊り動画で見た事ある。」



夏休み仁兄がカフェをOpen、

すぐに来たモデルのテテとミミーは

雑誌で見た記憶が無かったのに

穂坂は仁兄と2人セットの写真が多く

見かけた事が何度もあった。








6年前



小学校の昼休み。

俺の友達はみんな校庭で走り回ってる。


「…グンジが外出ないの珍しいね。」


実はサーフィンで脚を怪我して

思ったより痛みがあった。

一緒に入っていた仁兄が

責められるかも知れないし、

海に入るなとか言われたく無いから

親や先生には言い出さずにいた。


「…読みたい漫画があって。

村咲は?何読んでんの?」


「これ。女子で回し読みしてるんだー。

ビーエルってジャンルがあってー

…読む?イケメンとイケメンの純愛。」


「…読まねーよ。女子が読むやつでしょ?」


「えーけど、男子が読んでも

面白いと思うけど?

あ、けど目覚めちゃったりしてね?

男が男を好きになっても障害が多いからー

そこがキュンキュンなんだけどー

まぁ実際グンジが男子とキスしても

気持ち悪いからーーごめーん!」


「………障害ねー…

別にそんなに無いんじゃないの?」


「えー!まず結婚出来ないし

子供も出来ないから男×男は切ないんだよ!」




ビーエル。キス。


仁兄から今朝もキスされた。

海の後、一緒にシャワーを浴びる時に

される事が多くなった。

されてる俺は全く気持ち悪いと思わない。

村咲、勝手に言っててくれ。

誰にも伝わらなくていい。

多分もう少し成長して、

これ以上の事をしても

気持ち悪いとは思わないはず。


…この先

仁兄と過ごして行く時間の中で

そうなって行くかもと考えたら

嬉しさで心臓の動きが大げさになる。



少しの希望と最近感じる距離感。

…少しずつ俺を避ける仁兄との距離。


ただでさえ五つも差があるのに

これ以上 距離を作らないで。




結婚出来ない。子供も出来ない。



そもそも俺達はビーエル…男同士の純愛

とは言えないのかもしれないけど。


ただ一緒にいたい。



……そう思えるのは

俺がまだ子供だからなのかな。







pm5:00



「この店の人?」


…モデル仲間だろうし、

この辺にいると聞いて嫌な予感が的中した。

そして更に嫌な予感で返事に力が入る。


「はい。店閉まってます?

…少し出かけてるだけだと思います。」



仁兄のカフェ、

出入口のドアに寄りかかりながら

しゃがむ男。

帽子を目深に被っていても

オーラを纏う男に返事をしながら

ポケットから合鍵を出し店内へ入って貰う。



「やっぱり君か。

仁兄にさっき電話したら

合鍵持ってる奴がそろそろ来る筈だから、

もし待てるなら店で待っててって。」


「あー、そうなんですか…

仁兄今何やってるって言ってました?」


「実家で片付けの力仕事頼まれたんだって。

お客さんいなかったからさっき行って、

もうすぐ帰って来るってさ。」


仁兄が何してるか

今会ったばかりの芸能人に教えて貰ってる。

どういう状況だよ…



「…何か飲みます?」


「おススメで。お酒ある?

あ、お酒は仁兄が来てからにしよー。

えっとー…ホットコーヒーお願い出来る?」


「…とりあえずアイスでいいですか?」


「え?あ、まあいいよ?アイスで。」


アイスなら冷やしてある。

ホットの淹れ方はまだ俺には難しい。

いつも仁兄がいるからやる必要も無いし。



カウンターに座った穂坂さんに

アイスコーヒーを出した。

俺と同じく'仁兄'と

繰り返し呼ぶのも気になる。

…さっきからの疑念も。


「…今日仁兄店やるって言ってました?

穂坂さんが来たから閉めるのかな…」


「お、やっぱり僕の事知ってる?僕、穂坂。

君は…サーフィンが上手な幼馴染?

僕、仁兄からイロイロ聞いてる。

って言っても1.2年前とかだからー……

君がここにいて僕も嬉しい。」


「…?…そうとう仲良しなんですね?

その頃僕仁兄と会ってもないのに

僕の事知ってるなんて。」


「え?だって恋人だったし。

聞いてない?か…言わないか、普通。

僕芸能人だしープライベートだしねー

…君はそれで?

仁兄とは今、ただの幼馴染?恋人?」



「恋人です。」


これでもかって程

発音良く、丁寧に、事実を伝えた。




嫌な予感はやっぱり当たった。

こいつが元恋人か。


……これ以上話す気力は無くなった。







「お待たせー。

なんか訳わかんない手伝いに使われたー。

うちの実家家族増えるのかな。

兄ちゃんは遠くで元気にやってるからって

兄ちゃんの部屋だいぶスッキリさせた。

誰か使うような事言って…

今更どうやったら家族増えるんだろー。

相変わらずうちの両親はミステリー…

ねーー?あれ?

珍しく穂坂が黙ってる。

グウにはそういうキャラで行くの?」



他のお客さんが居ない店内、

2人きりで少し張り詰めていた空気が

仁兄のとぼけた独り言で

一気に緩い風が吹いて来たみたいになる。



「あーー僕のオーラが眩しいみたい。

少しお話ししたけど…」


「仁兄。ちょっと。」


仁兄の腕でも引っ張って

奥で話をしようかと

カウンターから出て

仁兄のもとへ行こうとした。すると、


「あ、やっぱり怒ってる?ごめんね?

恋人なんだってね。

そして僕、仁兄と恋人だったって

言っちゃった。怒るよね…ごめん。」


入ってきたばかりの仁兄と俺の間で

カウンター席に座りながら

俺、仁兄を交互に見て謝っている。


「……」


悪い人じゃないんだろうけど…



「穂坂が気を使う事ないよ。

グウが怒るような事じゃないし…」


「怒ってませんよ。

ただ、元恋人さんが来たし、

お客さんいないから店は閉めるのかなって。

それなら俺帰るし…」


「…穂坂はこの後時間あるの?」


「うんー。

仁兄と飲むつもりでいるけど?」


「……じゃあ、俺帰るね。」



…俺の愛されてる自覚は何処へ……


お酒も飲めないし、

元恋人との会話を見てられる程

大きな心は持ち合わせていない。


鞄を持ち、そそくさと帰ろうとすると

掴まれる腕。


「じゃあ後でまた来る?

寝る前には来て?自転車ですぐだろ?」


普段よりも素直な仁兄。

…強引にこういうお願いをされると

嬉しいし可愛くてしょうがない。

単純な俺。


「…うん。後で来るよ。」







pm9:00



久しぶりに母親の夕食を食べて

自分の部屋でくつろぎ、通帳を睨む。


仁兄への誕生日プレゼントは

俺が貰った物と同じにして

ペアリングを成立させると決めていた。


カレンダーで確認するとちょうど火曜。

カフェは定休日。

他に仕事入ってなければ仁兄は休み。


俺は学校……サボりたい…




離れていても考えるのは仁兄の事。

今頃彼は元恋人と楽しくお酒でも

飲んでるんだろう。

さっきは行くと言ったけど、

やっぱり少し躊躇。

イヤ…ここで行かなきゃ

仁兄は…どうなるかわからない。

怒らせる前に会いに行かなきゃ。



肌寒い夜風を全身で受けながら

上下スウェット、その上にジャンバーを着て

自転車に乗る。

ほぼ下り坂で海沿いまで出ると

何度も通る道が急に愛おしくなった。


…仁兄と会わずにいた日々は

ちょうど反抗期だったのかな。

自分でも可笑しく思う。

賑わう道、

溢れる人、

海にも道路にも苛立っていたのに…





カフェからは明るい光が漏れ

ドアにはclosedボード。

中へ入ると賑やかな音楽が流れていて

2人で踊ったり歌ったり

結構な酔っ払い様だ。


「グウーーー

にぃはいい感じに楽しいよー

穂坂はやっぱり最高だよー」


…ヤケにご機嫌の仁兄。

隣の元恋人がそうさせてるんだろうけど。


「…沢山飲んだの?まだ飲むの?」


「これからだよ。

これから語りが始まるんだよ。

グウも聞きたい?

穂坂の語りは役に立つぞー?

セラピスト!セラピストだよ穂坂は。」


元恋人に身体を密着させ、

更に頭をそちらに傾けこっちを見る。


いい加減…元恋人の事…どうだったかとか

考えない様にしてたのに…

仁兄に問いただしたくなる。


「…穂坂さん、

ちょっと待ってて貰えますか?

二階で話す事あるんで。」


「うん。仁兄結構飲んでるから

無理そうだったら休ませてあげて?」


「えー?何話ってー…

まだ飲めるしー…」



引っ張って穂坂さんから仁兄を剥がし

二階に進む階段へ誘導する。


階段でふらふらする足元。

どうにか横から抱き抱えるようにして

上がりきり、ドアを閉めたら…


普段の白い肌が

アルコールで紅く染まってる。

首、鎖骨、胸元、捲り上げた腕の内側まで。

頬も当然、紅。


俺の自転車で冷えた手を頬に当てると

まだ飲むと繰り返し言っていた口が閉じて

目まで気持ち良さそうに閉じた。


「…熱いの?俺の手気持ちいい?」


口は閉じたまま

けど俺の手を押さえて離さない。

もう片方の頬を指差し仰ぐ。

無言の要求。

希望通りに俺はもう片方の頬にも手を当て…

キスをした。

酒くさ…

…なのに何でこんなに美味しいんだろ…

酔ってる仁兄を抱けるチャンスなんだけど

下に穂坂さんいるし…



「……これから語るの?

まだ酒飲みたいの?

…相当飲んでるみたいだけど?」


「…だって…僕の事なのに……

チョー喜んでくれて…

穂坂優しくて…

まだまだ飲めるよー…」


といいつつ自分で靴を脱ぎ、

這いながらベットへ転がってしまった。


…寝ちゃうかもしれないけど、

そのまま置いて下の穂坂さんのところへ。




階段を下りて店内を見ると

1人カウンターに佇む姿。

ドラマのワンシーンそのもの。当たり前か。


「もう少し待っても戻って来なかったら

帰ろうと思ってたところ。

仁兄は?大丈夫?」


「…はい。なんかすみません、

酔っ払いなのはわかるんですけど…」


「お祝いしてたんだよ。

僕達報われない恋をしていた者同士で

慰め合ってたからさ。

そしたら絶対に無理って諦めてた人と

恋人関係になってたからさー

はーー仁兄可愛いねー」


「はい。可愛いです。」


「お。そう言う素直な君も可愛い。郡司君?

改めて仁兄をよろしくお願いします。」


「あー…はい。」


「あ、郡司君の方が昔から仁兄の事

知ってるのに?って?

…僕は仁兄の弱い所ばっかり

見てきたからさー…

郡司君はこの3、4年どうだった?」


「どうって…夢中でサーフィンして…」


「モテそうだから彼女いたでしょ?」


「……はい。けど…

すぐ別れるような付き合いしか…」


「仁兄も彼女いたよ。彼氏もいたよ。

男を抱いてたよ。あ、聞きたくないって?

けど…君には知っといて欲しくて。

どれだけ仁兄が君を想って

自分で無理をしてきたか。

僕はひと目で分かったんだ。

あー…この人は誰と付き合っても

幸せにならない人だなーって。

誰かを追い求めちゃうと、何をしても

その人しか自分で納得出来なくなる…

気持ちが痛い程分かって…

僕が恋人になってあげるって。

僕が仁兄を抱いてあげた。

あ、あげたって言いかたは違うか。

抱かせて貰った。

まぁ僕も抱かれる方が好きだから

恋人って言っても

殆ど身体の関係は無かったけどね。」


スラスラと話す穂坂さん。


一言一言が俺の胸に棘を刺す。


「…郡司君はずっと仁兄が好きだったの?

何年も会わないでツラかった?」


「…ツラかった…というか…

頭に来てました。

何で全く会おうとしないんだろって…

自分から会おうって言えなくて…

イヤ…4.5年前は言ってたな…

中学卒業するような時彼女がちょうど出来て

仁兄とも話して…その時が最後で…」


「まぁそんな事だろうね…

一緒にいてもツラかったのは確かだろうし、

会わなかったからって君も仁兄を

責めてはないんだろうし。

……ただ、君の為に、君の人生の為に、

君と仁兄の2人の将来の為に、

諦めようとした事……

郡司君今18歳でしょ?

逆に仁兄が5つ下だったらとか

考えてみなよ?…諦めるのも分かるよね。

…さっき聞いた話しだけど…

2人の関係を壊そうとして

ここに戻ったわけでもなくて…

…仁兄は結局…

君から離れて自分の気持ちを誤魔化す程

君が大切でしょうがなかったんだよ。」


「おいおい何をキレイに語ってるんだよ。」


呆れた様に、けどあったかいトーンの主が

俺と穂坂さんが同時に振り向いた先の階段を

静かに降りてきた。


「何?グウ、一瞬で穂坂の事好きになったの?

さっきまでの表情と全然違うんですけど。」


「…ほんと?僕も郡司君好きー。

っと。そろそろ帰ろうかな。

話したい事話せたし。」


立ち上がる穂坂さんに仁兄が歩み寄る。


「忙しいのにありがとね。」


「いいえー。またすぐ来るよー。

今度は沢山酒持ってくるー。」


「…また来てね。

今度は南呼ぼうよ。」


穂坂さんの表情が一気に曇る。

眉間にシワを寄せてキツくなる口調。


「…余計な事はしないで下さい。

あいつに僕の気持ちは

絶対に教えてあげない。

あいつは理想が高いし

追いかけるのが好きなタイプだから…

僕の事追いかけて来るくらいじゃないと……

いいの。僕はこのままで。

適当に年上の俳優さんと遊ぶんだー。

僕モテるからー。」


「…男同士で…本気じゃないなら

本気にされないように気をつけてよ?

ただでさえ芸能人なんだから…」


「オッケーオッケー、じぁあねー。」



静かになる店内。


「…穂坂さんて南さんの事…?」


さすが俳優。一瞬本音が顔に出たと思ったら

すぐ明るい笑顔に戻ってた。


「ああ、僕もさっき分かったんだけどね。」


「ますます穂坂さんに

幸せになって欲しい…」


「なんだよ…ほんと穂坂に

骨抜きみたいじゃん…」


店に鍵をかけて、照明を落とし

二階への階段へ進む仁兄。


「…骨抜きにされてる相手

間違えてるけど?」


1人で進む仁兄の腕を掴んで

後ろから抱きしめる。

薄明かりでもまだ肌が紅いのがわかる。


「…元恋人って聞いて

ライバルかよって思ったけど…

超仁兄の味方で俺にも味方だった…」


「…何話したのか知らないけど…

……僕の事、嫌いになってない?」


…なんだその台詞。

耳元で話していた顔を肩の上に置き、

後ろから覗き込む。


「なんで…?

穂坂さんが元恋人だから?」



穂坂さんに抱かれた過去や

他にも男を抱いた過去…

あえて口には出さないし

気づかない振りくらい出来る。


嫌いになったりするわけ無い。



「……なんか、僕が気にするような事は

グウも気になるのかも…って…」


「…嫌いになるの?

あ、俺が中学卒業する辺りで

彼女出来た時、俺の事嫌いになった?」


「……嫌いになんて…

その逆で…近くにいたら

耐えられないと思って

………距離をとったんだ…」


後ろから両手でパーカーと中のTシャツを

一気にまくり上げ、

直接胸の1番感じる場所を指で弄る。

勢いつけたまま、背中に舌を這わせる。

どちらに感じてるのか…どちらもか…

仁兄の声が漏れる。


「……ぁっ…んっ……」


俺の手の中で感じる仁兄はいつも…

振り返って俺を見つめる目と目が合えば

やっぱり物欲しげな瞳。

そんな顔を向けられて…

それだけで俺の身体は反応する。


…唇にキスしようか…

下で硬くなってきた物にキスしようか…

とりあえず唇に吸い付く。

そして物欲しげな瞳に微笑んだら

ズボンやパンツを一気に下ろし、

下にも吸い付く。

少し溢れる物も舐めとると…


「……っ………ぁ……」


俺の口の動きで漏れる声。

俺の頭に添えた手、

髪の間で震える仁兄の指。


見えなくても感じてるのを感じる。



沢山愛しあって

愛されてる自信は

大きくなったり小さくなったりする。


そして俺達は

何処まで深く落ちてるんだろ…

気付いた時には浮かび上がれないくらい。

今日みたいに

後から大きい錘を受け取るような事も。



秋の静かで澄み切ったような海に見えても

ビックリする程、底は暗く深い…

誰も近づけないような場所に

2人落ちているかも。



暗すぎて辺りが見えなくても

仁兄と2人なら怖くない。


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