少年の冬
古代にも冬がありました。少年:僕が目を覚ますと、味のない冷たい空気が鼻をさわり、裸の肩を両手で温めてもにの腕は寒く、にの腕をさすると肩が冷えて、その間も足の先は寒いままでした。母:女は寝床での物音に敏感である。このように肌の音程度の雑音で起きてしまうのですから。彼女は息子を見やると「体を動かしたら」とだけ言って再び寝てしまいました。少年:僕は母の云いを聞くと、気合を入れて立ち上がり(鼻さきは青白かったでしょう)その場で駆けるように足踏みすると、そのまま扉をめくり外に出ました。
冬のむらは白い。土も木も白んで見えます。おまけに息も、ということは池の水も凍っているのかもしれない。空から鷹の鳴き声が、仰ぎ見て色の薄い冬の空に、枯葉の破れのような輪郭が二枚回っている、少年は、その間も足踏みを止めませんでした。
少年:薔薇を取りに行こう。
彼が云ったのは冬薔薇の事です。昨夜彼は、老人:見てみ、あの赤い星をわしは夕兆星と呼んでおる、その下に白い小さな星がふたつ引っ付いておるじゃろ、時幼双星と名付けた。稀にな、今見ておるように夕兆星の下に時幼双星が来る、これは素敵に珍しい事じゃ。そしてこの景色が見えたとき、池に浮かぶ小さな島があるじゃろ、そうじゃ、松が一本だけ生えておる、その松の下に薔薇が花を開くんじゃ。少年:という話をきいたので、今日僕は母さんに薔薇を見せるために、池まで取りに行こうと意気込んだのでした。
物寂しい冬は、少年に、朝霧、木立の唄、冷たい影、美しい灰色の羽という言葉を産んだ。
少年:僕が池に到着すると、予想通りに水面は氷で静止していたのですが、見慣れない異人が、その上に木の机を置いてその上に立ち上がっていました。「なんで木の机の上に立ち上がっているのに池にいるんですか」
男「ひとりで部屋でやっとけなんぞ云うな、寂しいじゃねえか」
少年「寂しいのですか?」
男「俺がじゃねえ……お前がだ。だいたい勿体ないだろ、こんな可笑しな事、誰かと共有しなけりゃな」
少年は砂の中から手ごろな石を掴んだ。予想よりいくらも軽かった石は悲しくって、氷の強度をみる為池に投げ込んで、それが水面にぶつかって滑って行ったときは、薔薇もつまらなくなってしまったように感じた。滑ってしまわないよう足裏に砂をつけて、踏み入る。小島に行きつくと、しゃがんで薔薇を見た。細い茎がたよりなく、頭を支えている。こういう風に薔薇が咲くのは可笑しい。
冬薔薇は眠たそうだった。薄い色彩に慣れた目に緋は強く晴れた。花弁に手を添えてみたが、彼は結局花を摘むことなくその場を去った。
妹:寝ているところにお兄ちゃんが帰って来たみたいで、うるさかった。私を足蹴にして起きろ、起きろと。布にくるまっても引き剥がされて私は、結局「池が凍ってるんだ!」と自慢げに言うお兄ちゃんに、ついて走って池に行った。池は凍っててとても楽しかった、ふたりではしゃいでいたのを憶えているけど、ふと見るとお兄ちゃんが何もない松の木の根元を神妙に見てたのも憶えてる。
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