第62話 謎の騎士団
空に星が見え始めた頃。
俺は羊の背に乗ったまま、藍色の空を眺めていた。
「人の気配がするな。
もうすぐ町が見えてくる頃だぞ」
巨大羊の横を歩くアドルフが話しかけてきて、そんな台詞を口にする。
ようやくか。
文化の香りが懐かしいよ。
アンバジャックの作った集落も悪くはなかったんだが、どうもあれは俺の中では村や街にカウントされていないようである。
「そっか……ちなみにアドルフはその姿で町に入っても大丈夫なのか?
精霊がいるとわかったら、大騒ぎになりそうな気がするけど」
最近ようやくわかってきたのだが、アドルフやヴィヴィと、イオニスやヨハンナでは纏っている魔力が大きく違う。
特にアドルフは纏っている魔力が桁外れに大きい。
「そうだな、魔力に関してはわからないようにしておこうか。
あとはバンダナさえ取らなければ、見た目で人でないとわかることはないだろう」
そういえば、アドルフがバンダナを取った姿を見たことがないな。
第三の目があったり角が生えていたりでもするのだろうか?
いずれにせよ、本人が知られたくないことかもしれないから、話題にするのはやめておくか。
「そういえば、こんな時間だけど町の中には入れるのかな?
野生動物が入らないようにとかで、門が閉まっていそうな気がするんだけど」
すると、アドルフはなんでもないとばかりに肩をすくめた。
「まぁ、確実に開いてないだろうな。
その時は俺が一瞬で家を作ってやるさ。
お前のところの召使二人と違って、俺はそっちの専門家だからな。
わざわざトシキの手を煩わせるまでもない」
「まぁ、たしかにその通りなんだが……無駄に張り合うなよ。
ガキっぽく見えるぜ?」
「お前にガキ扱いされるほど落ちぶれてねぇよ!」
いや、そういうところがガキっぽいんだけどね。
まぁ、この辺にしておいてやるか。
「しかし、妙に町のほうが明るいな」
遠く森のかなたに町のシルエットが見えるのだが、ちょっと明かりが強すぎる気がする。
太陽はとっくに沈んだはずなのに、まるで夕日のような赤い光がそこにあった。
「おい、ちょっと様子がおかしいぞ、トシキ。
俺が先に行って確かめてきてやる」
そういって動き出そうとしてアドルフを俺は呼び止める。
「いや、アドルフ。
その前に誰かがこっちに近づいてくる。
かなり大勢みたいだ」
しかも、靴音に混じって金属のこすれあう音がしている。
たぶん、旅人ではない。
馬のいななきも聞こえるが、馬の数に比べて荷馬車の音が少なすぎる気がする。
「なんだろう、たぶん商人じゃないけど。
どっかの騎士団の行軍?」
「おいおい、こんな時間からか?
むしろ夜盗だろ」
アドフルが疑問を持つように、たしかにこんな時間から騎士団が動くのは変だ。
「隠れよう」
俺は即座に告げる。
相手が何者であろうと、遭遇すれば厄介ごとに巻き込まれる可能性が高い。
「森の中へか?」
アドルフへの返事代わりに、俺は背中の羽を広げた。
どうせなら、上から連中の正体を見定めてやる。
「羊たちは森の中に隠れてくれる?」
「めぇぇぇぇぇ」
巨大羊が一声鳴くと、その横に黒い羊の群れが一瞬で現れた。
そしてほかの羊の誘導を始める。
あいかわらずニンジャみたいだな、こいつら。
もしかしたら、巨大羊が殿様で、こいつらはお庭番といった感じなのかもしれない。
「アドルフは馬車を地面の下に隠してくれる?」
巨大羊と馬車をつなぐ縄を解き、俺はアドルフにお願いをした。
「わかった、まかせろ」
アドルフが答えると同時に、地面がパックリと開いて馬車を飲み込む。
同時に、巨大羊が自由になり、煩わしかったといわんばかりに首をふった。
そしてほかの羊たちがニンジャ羊の誘導で森に隠れてゆくのを横目で見ながら、俺は魔導書に戻したアドルフを荷物袋に入れて空へと舞い上がった。
さて、何がやってくるのやら。
しばらくすると、眼下に武装した集団が現れる。
装備が統一されているところを見ると騎士団といった風体だが、ずいぶんと物々しい雰囲気だ。
あいにくと世事に疎い俺には、連中の正体が何者であるかなど検討もつかない。
幸いなことに、夜の闇にまぎれた俺に奴らが気づくことはなかった。
いったいどこに向かうのかと疑問に思いながらに見守っていると、連中は俺たちがやってきた森の奥へとは向かわず、途中で南に折れて立ち去ってゆく。
やがて奴らの気配を感じなくなった頃、俺は地面に降り立って一人つぶやいた。
「あいつら、何者だったんだろうな」
とりあえず、このまま町を目指すか。
羊たちはどうせ町には入れないだろうし、戻ってくるまで待つ必要は無いだろう。
ついでにこの闇の中ならば、わざわざ歩く必要も無い。
フクロウのように夜目がきく俺ならば、このまま飛んで町の中に入ってしまったほうが面倒がなくていいだろう。
翼を振り下ろすと、俺の体は再び夜空に向かって舞い上がる。
そして西へ向かって動き始めると、しだいに風の中に焦げ臭い匂いが混じり始めた。
何か大きな火事でもあったのだろうか?
あぁ、わかっているさ。
そんなはずないよな。
この状況から導き出される答えなど決まっている。
やがて俺の目に飛び込んできた光景は、大規模な火災の中で逃げ惑う町の人々の姿であった。
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