1935:閻魔さまとの巡り会い・後(18歳くらいに書いた話)
ひとり思考に沈んでいく**の横顔を、何かを探るように凝視していた閻魔はしばらくして口を開いた。
「……お前、六道ってわかる?」
突然の閻魔の問いかけに思考から引き上げられた**は戸惑いつつも記憶をたどった。国語の資料集か何かで見た覚えがある言葉だ。
「確か仏教用語ですよね。人間道と地獄道と天道と、あとは……」
「畜生道と餓鬼道と修羅道だ」
全てを思い出せなった**に代わり閻魔が続け、そのまま話し始めた。
「お前らの魂は業に従ってそこをぐるぐる回ってんの。死んだら自力で次の道に辿り着くものだが、人間に限って地獄に辿り着けずにさ迷ってることがある」
少し真面目な顔つきになって語る閻魔に**は慌てて抗議する。
「説明されたって私は手伝いませ」
「自殺した奴は必ずそうなる」
**は自分の反論を遮った閻魔の一言に目をみはって黙りこむ。閻魔はそんな**の様子を察しつつ静かに先を続けた。
「自殺した奴は大抵迷子になるから俺が迎えに来ないといけなくなる。そうなると俺の仕事が増えるんだよ。だから自殺されると困る。わかった?」
「……私、死にたいなんて言ってませんけど」
眉間にしわを寄せて川を睨み、苦々しげに言う**に、閻魔は性格の悪そうな笑みを浮かべて答える。
「そうだな。よし、暗くなってきたからお前もう帰れ」
**が腕時計を確認すると既に五時をまわっていた。黙って立ち上がり足早にその場を去ろうとした**を閻魔は呼び止めた。
「おい、明日からタメ口にしろ。あと俺のことは
明日、という言葉を聞いて不愉快そうに**が振り向くと、命令口調でそう告げ手を振る自称閻魔の姿は、沈みかけた太陽に赤く照らされていた。
◆ ◆ ◆
「……ばれてた」
その夜。入浴剤で白く濁ったお湯に肩まで浸かった**は口を押さえて小さく呟いた。**は苦しまない死を希望しているので本当に川に入水するつもりはなかった。
だが。
◆ ◆ ◆
試験の結果は最悪だった。
「落ち込んでるの?」
順位が記された薄っぺらい紙を前にした母の疑問に、気持ちを悟られまいと**は即答した。
「別に」
嘘だった。落ち込まない訳が無かった。なのに。
「そうだよね」
諦めを含んだその声色に**は何かが壊れるのを確かに感じた。
◆ ◆ ◆
わずかに赤い光を放つ数えきれないほどの彼岸花を両脇に咲かせた細い道を、大小の球体が一列になって進んでいた。道の突き当たりには美しく磨かれた丸い鏡と木製の扉がある。扉の横に置かれた机の上には大量の紙が山積みになり、机に向かい合う椅子には髪の赤い男が座っていた。椅子の後ろに立つ青年は銀縁の眼鏡を押し上げつつ呟く。
「生きてる娘と接触したらしいですね。何考えてるんですか?」
低く響く声の主を一瞥すると、緋暮は短く答える。
「死なれたら困るからな」
青年は盛大にため息をつき断言する。
「 」
―― ― ― ―― ― ― ―― ✂ キ リ ト リ ✂ ―― ― ― ―― ― ― ――
5年ほど前、当時使っていたガラケーに書き留めたお話は、ここで途切れておりました。なんて中途半端な。
中途半端ではあるのですが、折角発掘したのでここに出しておくことにしました。句読点や改行、段落下げを整備したので、まったくそのまんま、というわけではありませんけれど。
続きを書きたいという気持ちと、続きを書ける力がそろった時に、また書き進めることもあるでしょう。
その時はもっと細かく設定を練らねば……その前にまず主人公**の名前を決めてあげねば……。
いやもうほんとこんなところで途切れさせてしまって申し訳ない限り……。
あと、銀縁眼鏡の青年(
緋暮が**に接触した一番の理由は、**に死なれて仕事を増やされると困るから、ではありませんので。
不穏。
いやいやいやそんな含みを持たせるなら、就活終わったら続きを考えろ、そして書け未来の私!!
初の長編小説としてお披露目できるよう精進いたします。
◆ 人物まとめ ◆
『**』
大学受験を控えた高校三年生
『緋暮(ひぐれ)』
自称閻魔さま
赤みがかった髪
『紫雨(むらさめ)』
小野篁さん
紫雨という呼び名は緋暮がつけた
趣味は眼鏡収集、自慢は眼鏡コレクション
『赤浄(せきじょう)』
牛頭さん
赤浄という呼び名は緋暮がつけた
黒髪ショートヘアー
『紅浄(くじょう)』
馬頭さん
紅浄という呼び名は緋暮がつけた
茶髪ロングヘアー
◆ お話と共に発掘したセリフ ◆
緋暮
「お前馬鹿なの? 言ったよな、死ぬなって」
紫雨(小野篁)
「えっ!? なに泣く子も黙る地獄の閻魔さま(様)が女の子連れ込んでるんですかっ! しかも未成年ぽい!!」
緋暮
「……
―― ― ― ―― ― ― ―― ✂ キ リ ト リ ✂ ―― ― ― ―― ― ― ――
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