いつもと違う日
一
いつになくまぶたは重く、頭もどんよりとしている朝。ぼくは、すぐに起き上がれなくて、しばらくベッドへ沈んでいた。
それでもなんとか尻を叩いて部屋を出る。トイレへ寄ってから、のそのそと台所の戸を開けた。
「けさはずいぶんゆっくりだな」
「おはよう、人夢」
一清さんと広美さんが食卓にいた。休日だからスーツ姿ではないものの、いつ出かけてもいいくらい二人ともびしっと決まっている。
きのうも遅くまで仕事だった。もっと寝ていてもおかしくないのに、疲れ知らずなこの爽やかさは一体どこから来るのだろう。
ぼくは目をしばたたく。パジャマのままで来たのが申し訳ないほど、台所は眩しかった。
「どうした? そんなところに突っ立って」
一清さんが訝しげにぼくを見る。
ぼくは、なんでもないと首を振って、そそくさと戸棚へ向かった。
すでに朝ごはんは終えたらしく、一清さんと広美さんは向かい合わせでコーヒーを飲んでいた。
食器を出し、ガスレンジのとなりにある炊飯ジャーからご飯をよそっている最中、ぼくは思い出したことがあった。手を止め、天井を仰ぐ。
「人夢、器があべこべだ」
まだ寝ているだろうお兄ちゃんのことを考えていたら、近くで声がした。
広美さんがとなりに立っていて、二人ぶんの食器を流しへ置くとくすっと漏らした。
「……え?」
「それ」
広美さんは袖をまくり、ぼくの手元を顎でしゃくる。
赤いお椀に盛られた白いご飯。見慣れない色合いで、一気に目が覚めた。
ばさばさと新聞を広げた一清さんも声を立てて笑っている。
「ぼくってば、なにやってるんだろ」
慌ててご飯をお茶碗へ移し、お椀におみそ汁を盛っていると、広美さんが顔を覗き込んできた。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「なんだか、いつもより顔色が──」
そこへ、携帯のバイブ音が入ってくる。
洗い物を途中でやめ、広美さんは台所を出ていく。
ご飯とおみそ汁を持って、ぼくは食卓についた。入れ代わるようにして一清さんは立ち上がり、居間へと消える。
朝食が半分くらいに減ったころ、広美さんが戻ってきて、すぐさま洗い物の続きへと向かった。カランをひねりながらぼくを振り返る。
「人夢、きょうは何時に出かけるんだ? 昼はいらないんだろ」
訊かれたのに、ぼくはきょとんとなってしまった。
広美さんの眉が曇ったところで、ゆうべ、なにかの報告をしていたことを思い出した。
はっとしたと同時に悲鳴に近い声が出た。壁時計を見上げ、残りのご飯をかっ込む。
たしか、約束は十時だった気がする。
夜になってようやく電話をくれた健ちゃんの言葉を巡らせながら、ぼくは体のギアを入れ替える。自分なりの猛スピードで身支度を終えた。
そうして家を出られたときには十時をちょっと過ぎていた。
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