NEW WORLD その3
「これが新しい世界かぁ」
ロックタートルの背中の上から周囲を見回す俺。
それだけでも結構高い位置なんだけど、森の中に入るとロックタートルよりも背丈の高い木々が生い茂っているもんだから視界がいまいちになっていた。
周囲をもっとよく見ようと、背伸びをしていると……俺の頭の上に羽毛さんが飛び乗ってきた。
俺の頭にジャストフィットすると、左右に羽根を延ばした羽毛さんは、一気に上空へと舞い上がっていく。
「だ、旦那様! ちょっと待ちなさいよね!」
「お父様! 私もご一緒いたしますわ!」
俺の後に、背に羽根を出現させたエカテリナとフリテリナが続いてくる。
エカテリナは、空を飛べないクーリを抱っこし、まだ上手く飛べないフリテリナの手を引きながら飛翔していた。
エカテリナってば、子供達の事もしっかりサポートしてくれているんだな。
この様子だと、リアルの方でもいい奥さんになってくれそうだな。
そんな事を思った俺だったんだけど、
「り、リアルでって……そ、そ、それって……」
俺のすぐ後方で顔面を真っ赤にしながら固まっているエカテリナ。
って……俺ってば、無意識のうちに思った事を口にしてしまったのか?
そんな俺のつぶやきを聞いてしまったらしいエカテリナは、空中で固まってしまい……そのまま、ゆっくり落下していって……
「ちょ!? え、エカテリナ!?」
「お母様!?」
俺とフリテリナが大慌てしながらエカテリナを支える羽目になった。
そのおかげで、どうにか落下することを免れたエカテリナだったんだけど、
「り、リアルで……旦那様の……子供……」
耳まで真っ赤にしながら、呪文のようにブツブツ呟き続けていた。
◇◇
そんなトラブルがあったものの、どうにか正気を取り戻したエカテリナと一緒に、ロックタートルの周囲を飛翔しながら進んでいった俺達。
「……どうやら、俺達が最初の訪問者みたいだな」
周囲を見回しても、プレイヤーの気配は一切なかった。
このディルセイバークエストは、近くにプレイヤーがいるとウインドウに表示される仕組みになっていて、チャット機能を利用して会話する事が可能になっている。
そのチャットのウインドウに、会話可能な相手として表示されているのは、
エカテリナ
エナーサちゃん
上記の2人だけだったんだ。
そんな俺の横で、エカテリナもウインドウで何かを調べていた。
「新しい世界に来たプレイヤーは結構いるみたいだけど、みんな狩猟世界の方へ行ってるみたいね」
「それもそうか……何しろ、このゲームは狩猟が人気なんだし」
まぁ、でも、そのおかげで俺達はスローライフ世界を満喫出来ているわけなんだよな。
そう思っていると、
「ん?」
チャットウインドウの中に、新しい名前が追加された。
どうやら、俺達以外のプレイヤーがこの世界に入って来たみたいだ。
改めて、その名前を確認してみると、
ツルハ
エデン
……って……この2人って、この間俺のところに内政の事で相談に来た2人なんじゃあ……
「とりあえず、あの2人も内政系のプレイを続けているんだな」
フオドーハのところでのやり取りがあれだっただけに、内政プレイに早めに飽きてしまうんじゃあ……って思ったりしたんだけど、こうしてスローライフ世界にやってきたってことは、まだ内政系のプレイ楽しもうと思っているみたいだ。
その後も、ウインドウの中にプレイヤーの名前が追加されていった。
どうやら、結構な数の内政系プレーヤーがいるみたいだな。
「わぁ、これは取材のしがいがありますね!」
ロックタートルの背中の上で、エナーサちゃんが気合いを入れてスクショを取っていた。
最近、イースさんが仕事が忙しすぎてあまりログイン出来ていないもんだから、攻略サイトの管理運営をエナーサちゃんが一手に引き受けている状態らしいんだよな。
そんなエナーサちゃんの隣には、ファムさんが立っていて、
「あぁ、あっちの滝を撮影しておくといいですよ、いやぁ、あのグラフィックにはちょっと時間をかけたんですよねぇ」
なんて会話をしているんだけど……おいおい、そんな会話をしていたらファムさんの中の人が、運営の人だって自白しているようにしか見えないんだけど……いいのか、おい……
そんな2人のやり取りに苦笑しながら、ロックタートルの周囲を飛翔していた俺なんだけど、その前方に大きなドームが見えてきた。
ドームといっても、木々が折り重なって丸い天井みたいになっている場所があるだけなんだけど、その上部に、
『スローライフ世界ログイン広場』
と書かれたウインドウが表示されていた。
「へぇ、ここにもログイン広場があるんだな」
「ここを拠点登録すれば、次回ログインする際の出現場所としてここを選択出来るようになるんだからね!」
「へぇ、そうなんだ」
「このディルセイバークエストの世界では、基本的に1世界に1つの出現ポイントを獲得することが出来るの。もっとも、新しい世界ってイベント限定の期間限定でしか出現したことがなかったんだから」
エカテリナの説明を、頷きながら聞いていた俺。
その説明によると、その新しい世界っていうのも、ディルセイバークエストにイベントエリアが新設されて以降は、出現することがなくなっていたらしい。
「ってことは、この新しい世界っていうのは、その機能を拡充したってことなのかもしれないな」
とりあえず、エカテリナの言っていた拠点登録をしてみようと、ウインドウをクリックしてみた。
すると、
『スローライフ世界にログインポイントを取得すると、狩猟世界へログインポイントを取得することが出来なくなります。よろしいですか? はい/いいえ』
そんなウインドウが表示された。
「へぇ……そんな仕様になっているんだな……」
まぁ、俺の場合ロックタートルの背中の別荘に直接移動することが出来る扉があるし、無理に拠点登録する必要もないか、と思ったものの……良く考えたらロックタートルは基本的に自由気ままにフィールド上を歩き回っているわけだし、常にスローライフ世界にいるとは限らないんだよな……
そう思った俺は、
「んじゃ、まぁ、とりあえず拠点登録しておくか」
ドームを拠点として登録することにした。
すると、ドームの一角に大きな門が出現した。
その門は、ロックタートルが近づくとゆっくりと開いていき、ロックタートルはその中にゆっくりと入っていく。
すると、
「ちょ!? なんでこっちは入れないの!?」
「そうだよ! おかしいよ!」
なんか、ロックタートルの足元の方からそんな声が聞こえてきたんだけど……
そちらへ視線を向けると、ロックタートルに続いてドームの中に入ろうとしていたツルハとエデンの姿があった。
2人は、黄色いダチョウみたいな乗り物に乗っているんだけど、門の中に入ることが出来ないみたいだった。
「ちょっと、リトル、どうしたらいいの!?」
エデンが、後方に向かって声をあげた。
よく見ると、エデンの乗り物には小柄なエルフが同乗していて、エデンの腰にしがみついていた。
そのエルフ~リトルさんはというと、
「ふぇぇぇ!? わた、わた、わた、私どうしたらいいのでしょうかぁ!? うっかり忘れてしまいましたぁ」
って……その目にグルグル模様を出現させながらテンパりまくっていて、まともな会話が交わせていないみたいで……
確かリトルスィニーは、内政系プレイヤーの救済措置として配布されたキャラのはずなんだけど、全然役にたっていないというか……
「……そうか、これが『うっかりさん』と『ふぇぇ属性』の効能なのか……」
リトルさんのスキルを思い出した俺は、納得したように頷いていた。
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