NEW WORLD その2
しかし、よく考えてみたら……
レアモンスターの甲羅の上に別荘があるというのも、ある意味すごい事だよな……って、改めて思ってしまう。
2階のベランダからは、はるか遠方の山脈や地平線が綺麗に見えている。
「こうしていると、ここがゲームの中だって事を忘れてしまいそうだなぁ……」
「私も同感なんだからね!」
俺の横に、エカテリナが飛翔してきた。
背に、羽根を出現させて宙を舞っているエカテリナ。
その隣には、同じく背に羽根を出現させているフリテリナがいた。
飛翔スキルを習得したばかりのフリテリナに、飛翔のコツを教えてあげているんだよな。
俺の右側に着地したエカテリナ。
左側にフリテリナが着地していく。
優雅な舞いでも舞っているかのように着地するエカテリナに比べて、どこか危なっかしい感じで着地しているフリテリナ。
着地の反動で倒れそうになったもんだから、俺やゴーレム狸達が慌てて駆け寄っていった。
「だ、大丈夫ですわ。まだ、お母様のように上手に出来ませんけど、少し上手くなった気がしますので」
駆け寄ってきた俺達に笑顔を向けるフリテリナ。
その笑顔がまぶしすぎて、思わず抱きしめてしまう俺。
「エカテリナがいるから大丈夫だと思うけど、くれぐれも無理はしちゃ駄目だからな」
「……お父様、ありがとうございます」
俺に抱きしめられながら、嬉しそうに微笑んでいるフリテリナ。
そんなフリテリナの頭を撫でてやっていたんだが……
俺とフリテリナの周囲を、エカテリナがソワソワしながら周回しはじめていて……
その顔には、
『わ、私も抱きしめてなでなでしてもいいんだからね!』
って書いてあるようにしか見えないわけで……
「ほら、エカテリナもおいで」
そんなエカテリナに、右手を差し出す俺。
「べ、別に私も抱きしめてなでなでしてほしいわけじゃないんだからね……で、でも、どうしてもっていうのなら……」
「あぁ、どうしてもだ」
「そう……な、なら仕方ないわね」
口調こそ、いつものツンデレなんだけど、耳まで真っ赤になっているもんだから説得力のかけらもないんだけど、でも、そんなエカテリナが可愛くて仕方ないんだよな。
……で
しばらくの間、フリテリナとエカテリナを同時に抱きしめてなでなでしていた俺なんだけど、
「フリフリ様、そろそろ分岐点でございますわ」
ゴーレムメイドのゴーメが俺の後方で恭しく一礼した。
……んだけど……
「あ、あのさゴーメ……なんか雰囲気変わったかい?」
思わずそんな事を聞いてしまった俺なんだけど……いや、そりゃそうだろう……前回会った時のゴーメと比べて明らかに違い過ぎるんだよな……
背が高くなっているし、スタイルもボンキュッボンがより際だっているし、顔の雰囲気も明らかに年齢層が上がっているし……
「フリフリ様の別荘を預からせて頂いておりますゆえ、フリフリ様の内政レベルによって私も存在進化したのでございますわ」
「あ、あぁ、そうなんだ」
ゴーメの説明で、雰囲気や見た目が変わったことに納得した俺なんだけど、と、いうことは……俺の内政レベルがまた上がったってことなのか?
ステータスウインドウを表示して、内政レベルを確認してみると……
「……なんだ、この……内政レベル71っていうのは……」
いや、ちょっと待ってくれ……この間までは30くらいだったはずだぞ?
それが40以上も上がっていたのか……
でも、これって、俺だけの成果ってわけじゃないんだよな。
テテをはじめとした村のみんなが頑張ってくれて、村のレベルがあがったもんだから、それに合わせて俺の内政レベルが上がったってことなんだろう。
俺がログアウトしている間も、テテを中心にして頑張ってくれているんだもんな。
「旦那様、それは違いますわ」
「え?」
俺が呟いていたのを聞いたエカテリナが首を左右に振った。
「テテや村人のみんなも、旦那様が引き取って、毎日優しく接しているからこそあんなに頑張ってくれているんだからね!」
「そ、そう言ってもらえると嬉しいんだけど……」
「『けど』から先はなしなんだからね!」
そう言って、俺の口を右手で塞ぐエカテリナ。
なんか、そう言ってもらえると照れくさいんだけど、それ以上に嬉しくもあるんだよな。
「ありがとう、エカテリナ。俺、これからも頑張るよ」
「そんな旦那様なんだから、アタシももっとお手伝いしてあげるんだからね!」
そんな言葉を交わしながら見つめ合う俺とエカテリナ。
お互いに視線を交わしながら……どちらからともなく接近していって、唇が……
「……わぁ、お父様とお母様、仲良しです」
フリテリナの言葉でハッと我に返った俺。
よく見ると、フリテリナが両手で口元を押さえながらも、俺とエカテリナの様子をマジマジと見つめていて……
その後方ではクーリが耳まで赤くしながら見つめているし、更にその後方ではゴーメやゴーレム狸達が……
「……あ、い、いや、これはその……」
しまった……みんながいる事をすっかり忘れていたというか……
慌ててエカテリナと距離を取ろうとした俺なんだけど、そんな俺の前でエカテリナは目を閉じたまま唇を少し突き出していて……って、い、いつまでキス待ち顔してるんだよ!?
そんな中……
ロックタートルがゆっくりと停止した。
「あ、あれ?」
ロックタートルの頭の方へ視線を向けると、その前方に大きなウインドウが表示されていた。
「なんだあれ?」
そちらへ視線を向けると……そのウインドウには、
『NEW WORLD へようこそ
ここから先は、ディルセイバークエストの新世界となります。
どちらの世界へ向かいますか?
狩猟世界 / スローライフ世界』
「んん!?」
その表示を見た俺は、思わず首をひねってしまった。
NEW WORLD?
狩猟世界?
スローライフ世界?
なんだ、これ?
「これ、ひょっとして運営から発表があった大型アップデートじゃないかしら」
「大型アップデート? あぁ、そういえばそんな告知があったな」
俺の言葉に、エカテリナも頷いた。
大型アップデートってことは、スローライフ世界の方は古村さんが構築した世界ってことなんだろうな。
「おや、早くもここまでたどりついたんですね」
そんな俺の背後に、ファムさんが立っていた。
俺の家のゲートをくぐってここまで来たんだろうけど……その顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
それはまるで、
『ボクの作った世界で早く遊んでみてよ!』
って、即しているように見えなくもないというか……
ここで、狩猟世界を選択するほど野暮じゃないし、
「じゃあ、早速スローライフ世界に行ってみるか」
ウインドウの文字を選択すると、ロックタートルの眼前に大きな門が出現した。
その扉がゆっくりと開いていく。
再び歩き始めたロックタートルが、その門の中へ入っていった。
門をくぐると、その向こうには広大な森が広がっていた。
ロックタートルの背が高いおかげで、森を一望出来ているんだけど……
「うわぁ、こりゃすごいな」
起伏に富んだ地形。
それを覆っている多種多様な木々。
遙か前方にはロックタートルよりも高い山脈が見え、その所々から水が流れ落ちている。
まるで本物じゃないかと思ってしまう美麗な光景に、思わず目を丸くしている俺。
そんな俺の後方で、ドヤ顔をしているファムさん。
そんな俺達をのせたロックタートルは、ゆっくりと森を進んでいた。
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