NEW WORLD その4

 ドームの中には、街道で仕切られた街並みが広がっていた。

 平屋が多いせいか、ログインの街よりも小振りな印象を受けるが、広さ的には遜色ないんじゃないかな。

 街中には人々が往来しているんだけど、胸にNPCであることを現す逆三角形のマークがあるので、最初から準備されていたキャラクターってことなんだろう。


 俺達が街中を進んでいくと、1人のNPCが笑顔で駆け寄ってきた。

 

「スローライフ世界へようこそ! 私は案内人のコンシェっていうんだ」


 そう名乗ったコンシェなんだけど……その姿がですね、オーバーオールに麦わら帽子と、ファムさんそっくりな出で立ちをしていたんですよね。

 唯一違うのは、胸が絶ぺ……


「旦那様、どこを見ているのかしら?」


 俺の背後に近寄ってきたエカテリナが、ジト目で俺を見つめてきたんだけど……べ、別にやましいことはないというか、単純にファムさんとの違いを探していただけというか……


「いや、その……なんかごめん」


 結局、エカテリナの迫力の前に頭を下げるしかなかったわけで……なんのかんので、俺って尻にしかれている気がするんだけど……


「もう……アタシという存在がいるんだから……」


 そんな台詞を口にしながら、俺の腕に抱きついて上目使いなんかされてしまうと、もう何も言えなくなってしまうわけで……


 そんな痴話げんかからの和解をしている俺達の様子を、笑顔で待ってくれていたコンシェ。


「……ほな、そろそろご案内させてもらってもいいべ?」

「あ、あぁ、よろしくお願いします」


 そこから説明を始めてくれたんだけど、彼女の話によると、


「この街は、このスローライフ世界の中心となっております。この世界で何かしようとした場合、基本的にこの街で手続きをすることになります」


 ってことらしい。


「じゃあさ、このスローライフ世界で土地を所有しようとした場合、この街で手続きをすることになるのかい?」

「はい。土地の所有に関してはあちらの町役場で手続きを行うことが出来ます。ただ、この世界で土地を所有するには……」


 コンシェがそこまで言った時だった。


「ちょ!? なんでこの世界で土地を所有出来ないわけ?」

「マジ、信じられないんですけど!」


 近くから、そんな声が聞こえてきた。

 そちらへ視線を向けると、そこにいたのはツルハとエデンの2人だった。

 コンシェとそっくりなNPCに向かって声を荒げているんだけど……どうやら、コンシェ型のNPCがプレイヤー1人1人に案内役としてついているみたいだな。

 で、そのNPCは、ツルハとエデンを前にして苦笑していた。


「だ、だからぁ、このスローライフ世界で土地を所有しようとした場合、ベース世界に所有されている皆様の村を一定以上発展させて頂く必要があるんだってぇ」


 NPCは、妙に方言めいた口調で一生懸命説明しているんだけど、


「そんなの聞いてないし!」

「ちょっとひどくない?」


 ツルハとエデンは、そんなの関係ないとばかりに声を荒げ続けていて、


「ふえぇ……お、お2人とも落ち着いてくださいぃ」


 それを、リトルちゃんが必死になって止めようとしていて……なんかもう、あの一角だけカオス状態になっていて……遅れて到着した他のプレイヤー達も遠巻きにしながら苦笑していた。


「……あぁ、そうだな……このスローライフ世界で土地を所有するには、俺の村を一定以上発展させないといけないわけだ」

「そ、そうなんだぁ。あっちの会話でご理解頂けたみたいで恐縮なんだ」


 そう言うと、コンシェは俺のことをマジマジと見つめてきた。


「ふむふむ……あちらの御仁は、条件を満たしていないみたいだけど、フリフリ村長はどのレベルもしっかりクリアしているんだな。これなら、このスローライフ世界でなんでも出来ると思うんだな」

「え? そうなの?」


 コンシェの言葉に、思わずガクッと肩を落とした俺。

 いや、なんていうかさ……ツルハとエデンが条件を満たしていないって言われていたし、何をしないといけないんだろうと身構えていただけに、なんか表紙抜けしてしまったんだよな。


「そんなわけで、何か困ったことがあったらこのアイコンをクリックしてほしいんだな。そしたら、オラが駆けつけるから」


 そう言って、俺の視界の右端の方を指さしたコンシェ。

 そこには、操作用のアイコンが常時表示されているんだけど、その中にコンシェをモチーフにしたアイコンが追加されていた。


「わかった。その時はよろしく頼むよ」


 そこでコンシェと別れた俺。

 コンシェはというと、新たに到着したプレイヤーの方へ駆けていった。


 ここで改めて周囲を見回した俺。

 よく見ると、結構な数のプレイヤーが街に押し寄せて来ていた。

 

「最初の頃は、内政系のプレイヤーがほとんどいないって聞いていたけど、結構いるじゃないか」

「何を言っているの旦那様」


 俺の肩を、エカテリナが叩いた。


「それもこれも、旦那様が頑張ったからなんだからね!」

「俺が?」

「そうよ。旦那様が領地を広げたり、多種族と交易したり、ログインの街でお店を開いたりしている様子を、他のプレイヤー達が見て、内政プレーに興味をもった結果なんだから」


 俺のプレイって、イースさんの攻略サイトに記事としてアップされ続けているんだけど、その内容がこれだけのプレイヤーに影響を与えたってことなのか……

 そう考えると、なんか感慨深いな……


「で、旦那様、早速役場に行くのかしら?」

「そうだな、せっかくだし、ちょっと行ってみるか」


 俺とエカテリナは、同行していたクーリとフリテリナ達と一緒に役場へ向かっていった。


 その後方で、


「ちょ、ちょっと待ってよ、なんで連れ出されるわけ?」

「納得いかないし! これ、絶対納得いかないし!」


 相変わらず声を荒げているツルハとエデンが、なんか屈強な農夫さん達に担ぎ上げられて連行されていたんだけど……あれって、強制退去させられているってことなのかな……そんな2人の後を、リトルちゃんが追いかけているんだけど、


「ふえぇ、だから、あれだけ村を発展させましょうって言ったじゃないですかぁ」


 時々すっころびながら2人の事を追いかけている様子を見ていると……ツルハとエデンがどんなプレイをしているか、それとなく想像出来たわけで……


 まぁ、機会があったら、それとなくリトルちゃんの言うことを聞いた方がいいと思うよって、伝えてみるか……


 そんな事を考えながら、俺は役場の中へ足を踏み入れた。


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