色々おかしいというか その3
それはもう「すごい」としかいいようのない光景だった。
別荘の2階のベランダに立っている俺達の前で繰り広げられている光景ってば、そう言うしかないというか……
イベントフィールドに突入したエカテリナパーティー。
同時に、イベント限定モンスターであるドラゴン達がエカテリナパーティーめがけて殺到していった。
空から、地面から殺到してくるドラゴン達。
空のドラゴンを、弓矢の速射で次々と打ち落とすエカテリナ。
地を駆けてくるドラゴンを、でっかいハンマーでぶん殴っているポロッカ。
ラミコは戦場を駆け巡りながら2人が倒したモンスターが落としたドロップアイテムを回収しており、向かってくるドラゴンがいると尻尾を使って迎撃していた。
グリンもエカテリナやポロッカが討ち漏らしたドラゴンに向かっていっている。
存在進化したとはいえ元々ノーマルキャラだし、S級以上のドラゴン相手に一人で立ち向かえないだろうしな。
「……しかし、闘いのシーンをはじめて直接見たけど、ホントすごいな」
眼前で繰り広げられている光景を見つめながら、思わず苦笑してしまう俺。
フィールドでは、他のプレイヤーのパーティーがドラゴンと戦闘を繰り広げていたんだけど、
「お、おい……あれ、すごいぞ」
「エカテリナか……やっぱ圧倒的だな」
「ちょっと観戦してみるか」
いつしか戦闘を切り上げて、エカテリナ達の闘いぶりを遠巻きに観戦しはじめていた。
実際、エカテリナの闘い方は一見の価値があると思った。
弓を放ち、剣を振るい、フィールドを駆ける。
髪の毛がなびき、胸がぶるんぶるんと……げ、げふんげふん
と、とにかくだ、まるで戦う女神の姿を見ているような気持ちになってくるというか、戦闘に興味がない俺でも思わず見惚れてしまう程なんだよな。
「ママ! すごいです!」
クーリも笑顔で手を叩いていた。
ただ、その隣のフリテリナは、
「戦うお母様も格好いいですけど……私は村長として頑張っているお父様の方が好きです」
そう言いながら俺に抱きついてくれていたわけで……へぇ、子供達にも性格設定がされているんだなぁ、って、思わず感心してしまった。
「……あれ?」
フリテリナの頭を撫でながらエカテリナの様子を見ていた俺は、あることに気がついた。
エカテリナの後方を青い物体が追いかけていたんだ。
よく見ると……
「あれって、スライムさんか?」
そうなんです。
ゴーメ達の掃除で出たゴミを処分していたスライムさんがエカテリナの後方を追いかけていた。
よく見ていると、エカテリナが倒したモンスターの残骸を取り込んでいるみたいだった。
討伐されたモンスターの死骸って、すぐに消滅してしまってドロップアイテムだけが残るんだけど、その体が消滅する前に自分の中に取り込んでいるスライムさん。
っていうか……結構でっかいドラゴンまで取り込んでいるんだけど、質量の法則とかどうなってるんだ?
ゲームの中だし、そこまで真剣に考えるのは野暮かもしれないけど……しかし、スライムさんのあの行動から察するに、ドラゴンの死骸ってゴミ扱いなんだろうな……
律儀にモンスターの死骸を回収して回っているスライムさん。
ラミコも、残されたドロップアイテムを回収しまくっている。
「なんか、すごいな……」
その光景に、思わず見惚れてしまっていた俺。
俺の近くでは、エナーサちゃんがエカテリナ達の活躍ぶりをスクショ機能を利用して動画撮影していた。
「これはすごいです! エカテリナさんの素敵な闘いぶりをこんな間近で撮影出来るなんて!」
興奮気味に声をあげているエナーサちゃん。
後でエカテリナに許可をとって攻略サイトに動画をアップするんだろう。
イースさんの攻略サイトのお手伝いをしているエナーサちゃんだけど、そのサイトに新設したエカテリナのコーナーって結構人気みたいだし、この動画がアップされたら話題になるだろうな。
「フリフリ様、お茶の準備が出来ましたわ」
そんな事を考えていた俺に、ゴーメが声をかけてきた。
その手には、お茶のセットがのっているトレーを携えている。
「あぁ、ありがとな」
せっかくなんで、エカテリナ達の様子を椅子に座ってのんびり応援させてもらう事にした俺。
ちなみに、椅子とテーブルはゴーレム狸さん達が準備してくれた。
ロックトータスは、イベントフィールドには入れないらしいので、境界線ギリギリの場所で止まってもらっていたんだけど……
「お、おい……なんだあのでっかいモンスターは……」
「と、討伐対象じゃないみたいだけど……」
「ま、まさか、あれってロックトータスか?」
「嘘……実在してたんだ……」
そんなロックトータスの周辺にも、いつの間にか多くのプレイヤー達が集まってきていて、物珍しそうにロックトータスの事を見上げていた。
何人かのプレイヤー達は、スクショ機能でロックトータスの事を撮影しようとしているみたいなんだけど、
「な、なんだこれ? 何にも写ってない?」
「こんなにでっかいのが目の前ににるってのに……」
そんな声がちらほらと聞こえていたわけで……
「ロックトータス様を許可無く撮影しても写ることはありませんので」
「へぇ、そうなんだ」
「はい。今現在、ロックトータス様を撮影出来るのはフリフリ様とエカテリナ様だけでございますわ」
ゴーメの説明を聞きながら、周囲の様子を眺めていた俺。
最初は、湖でのんびり釣りでも……って思っていたんだけど、結果的に結構な時間をここで過ごしていた。
でもまぁ、格好いいエカテリナ達の様子を堪能出来たわけだし、結構有意義だったな、うん。
◇◇
それから小一時間ほどすると、エカテリナ達が戦闘を切り上げて戻ってきた。
ちなみに……
この1時間の間に、エカテリナのイベント順位が20位以内にまでジャンプアップしていた。
「それはみんなが協力してくれたおかげなんだからね!」
嬉しそうに笑顔を浮かべているエカテリナ。
別荘のベランダまで、羽根を使って飛翔してきたエカテリナなんだけど、何度見てもこの姿ってば天使にしか見えないというか……いや、マジで戦闘の女神って言葉がぴったりだよな。
そんな事を考えていた俺なんだけど……
「せ、戦闘の女神って……あ、あの……」
なんか、その言葉をまた口にしてしまっていたらしく……それを聞いたエカテリナが顔を真っ赤にしながらうつむいてしまった。
っていうか、恥ずかしさがマックスになると頭の上から蒸気が立ちのぼるんだな……
そのエフェクトを見つめていると、なんだか俺まではずかしくなってしまって思わず俯いてしまったんだけど……
「……あ、あれ?」
そんな俺の足元に、妙な生き物が歩み寄ってきた。
なんだこれ? ……小型のドラゴンみたいな姿をしているその生き物なんだけど、体は半透明で、俺の足元に転がっていたゴミをパクッと食べて……
「って……お前、スライムさんか!?」
俺の言葉に、その首を大きく縦に振ったドラゴン風の生き物改め、スライムさん。
「……いや、マジでびっくりしたよ」
マジマジとスライムさんを見つめている俺。
その横で、エカテリナもスライムさんの様子を見つめている。
「ドラゴンの死骸を食べていたのは気がついていたけど……その結果、こんな存在進化をするなんて知らなかったんだからね……」
口調はいつものツンデレなんだけど、ニュアンス的には興味津々といった様子のエカテリナ。
エカテリナの言うとおり、ドラゴンの死骸を体内で消化したからこその存在進化なんだろうけど……
「ドラゴンの死骸ってすぐに消滅しちゃうわけだし、その死骸を体内に取り込もうとしたら結構難しいよな」
無意識というか、単純にエカテリナが出したゴミを綺麗にしようとしていただけなのかもしれないけど、
「いや、スライムさん。ホントによく頑張ったね、すごいよ」
思わず、スライムさんの頭を撫でた俺。
気のせいか、スライムさんも嬉しそうにすり寄っている気がしないでもない。
そんなスライムさんを見つめながら、しばらくの間ほっこりした時間を過ごした。
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