色々おかしいというか その4

 エカテリナ達の狩りが一段落したところで、俺達は別荘を後にした。

 ロックトータスも、イベントフィールドを離れて気ままな移動を再開している。


「じゃあ、後の事をよろしくな」

「はい、万事お任せくださいませ」


 別荘の事は、ゴーメと5人のゴーレム狸さん達に任せておけば問題ないだろう。


「フリフリ村長様、お帰りなさいませ」


 メタポンタ村に戻った俺達を、テテが出迎えてくれた。


「早速ですが、アンテナショップの新店舗が開店いたしました」

「あ、もうそんな時間なんだ」


 元々、アンテナショップが開店するまでの時間潰しのつもりで別荘に行っていたのを思い出した俺は、


「じゃあ、ちょっと様子を見に行ってみるよ」

「わかりました。あ、ちなみにリサナ神様とクレイントーラ神様もすでに現場入りされていますので」


 現場入りって……なんか本格的に芸人扱いになっていないか? あの2人……いや、一応女神様なんだから2柱と言うべきなんだろうか?


「とりあえず、ラミコはドロップアイテムを倉庫に持って行ってくれるかい」

「うむ、任せるのじゃ」


 俺の指示を受けて、荷車を引っ張りながら倉庫へ向かっていくラミコ。


「パパ! ポロッカは森に行く村人達の警護をしてくるベア」

「私も一緒に行ってくる」

「わかった。2人とも気を付けてな」


 ポロッカとグリンを見送り、倉庫へ向かって移動していく俺。

 俺の両手を、クーリとフリテリナが笑顔で握っている。

 エカテリナはというと、いつものように俺の後方3歩下がった位置をキープしていた。


「あの、私もご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、問題無いよエナーサちゃん。じゃあ、一緒に行こうか」

「はい!」


 笑顔で頷いたエナーサちゃんなんだけど、エカテリナのさらに後方に並んでついて来ていた……って、良妻賢母を目指しているエカテリナがそれをするのはわかるんだけど、エナーサちゃんは別にそこまでしなくてもいいんじゃないかと思うんだけど……


 苦笑しながら、自宅へ入っていく俺。

 倉庫の地下に、ログインの街の店舗の地下に通じている地下通路があるんだよな。

 倉庫の中では、ブランが忙しそいうに荷物を運んでいた。


「やぁブラン、何かあったのかい?」

「あぁ、新装開店した店舗に商品を運んでいるところだ」

「商品を、って……あっちの倉庫にも結構品物を運びこんでなかったかい?」

「そうなんだが……すでに全部売れてしまったみたいでな」

「え? 全部!?」


 ブランの思わず目を丸くする俺。


 いや、だって……倉庫の中に運び込んだ品物って、旧店舗での一日の売上数の5倍以上はあったはずなんだけど……それが開店してもう完売したってことなのか……


「うむ、心配するでない、妾も全力で品物を輸送するのじゃ!」


 ドロップアイテムを降ろし終えたラミコが駆けつけてきて、早速荷物の運搬を開始していた。

 窓の外を見ると、エルフ族の村やリザード族の村から納品に来ている荷馬車が列を成していて、空には荷物を背中に山積みにしているスーガ竜が飛行しているのが見えた。


「……おいおい、開店早々すごい事になってないか?」


 その光景に目を丸くしながら、俺達は地下通路を使ってログインの街へ移動していった。

 もちろん、商品の在庫を持ち物ストレージいっぱい詰め込んでいったのは言うまでもない。


◇◇


 地下通路に入ると、目の前にウインドウが表示された。


『どちらに向かいますか? 


 メタポンタ村アンテナショップ新店舗【NEW】

 メタポンタ村アンテナショップ倉庫(旧店舗)』


 そういえば、モグオが新しいアンテナショップの地下にも地下通路を延ばしてくれるって言ってたっけ。

 開通したばかりなんだろうな、ご丁寧に【NEW】の文字まで表示されている。


「じゃあ、せっかくだしアンテナショップ新店舗へ行くとするか」


 ウインドウにタッチすると、俺達はあっという間に新店舗へと移動していた。

 まぁ、地下通路だし、周囲の光景を楽しむことは出来ないわけだしこれもありかなと思わなくもないんだけど……

 こっちの方が便利だと頭ではわかっているんだけど、たまにはラミコの荷車で、周囲の景色を楽しみながら移動したいと思ってしまうんだよな。


 運んで来た荷物を地下倉庫の中に収納した俺達は、1階の店舗へあがっていった。


「……うわ……」


 店内の光景に、思わず目を丸くしてしまった俺。

 

「このS級ポーション、もっとないの?」

「エルフの弓用の矢をもっと買いたいんだけど!」

「斧はないの?」

「この双剣なんだけど……」


 店内にはすごい数のお客さんがひしめき合っていた。

 店の入り口で入場制限をしているんだけど、それでもかなりの人数が入店していたもんだから、


「おいおい、大丈夫なのか?」


 思わずそんな言葉を口にしてしまった俺。

 すると、そんな俺の元にリトリサ女神見習いの1人が駆け寄ってきた。


「一見するとすごく混雑しているように見えますけど、プレイヤー視点だと周囲1mの空間が確保されているんですよ」

「へぇ、そうなんだ」

「はい、大型店舗ならではの効果なんです」


 ってことは、この店舗は大型なんだ。

 リトリサ女神見習いの言葉に頷きながら、改めて店内を見回していく。


 店の入り口で入場制限をしているリサナ神様とクレイントーラ神様は、2柱ともワニと黄金の被り物を身につけ、正装しているんだけど……


「あらあらあら、駄女神様が何をおっしゃっているのでしょうか」

「はぁ!? 自分の事を棚にあげて何寝言を言ってるのかしら!

「あらあらあら!? 被り物をアッパーカットで吹き飛ばすのは反則ですわ」


 両手で顔を隠しながら、ワニの被り物を追いかけているリサナ神様。

 周囲のお客さん達は『見てはいけない』とばかりに両手で目を覆っていて……


 なんか、2柱の掛け合い漫才にすっかり慣れている様子が垣間見えて、思わず苦笑してしまった。


 店内では、リトリサ女神見習いの他にも数人の人がエプロンを身につけて忙しそうに商品を陳列していた。

 ほとんどはメタポンタ村の住人だったんだけど、1人だけ胸にNPCのマークがついていない人がいた。


「あぁ、あのお方はプレイヤーさんです。このお店でどうしても働きたいと熱く申し出てこられたものですから、私の権限で雇用させていただきました」

「へぇ、プレイヤーも雇用出来るんだ」

「はい、大型店舗の追加効果の1つです」


 そのプレイヤーキャラって、ピンクのロングヘアで、着物風の衣装を身につけていて、胸が絶壁なんだけど……


「……はて? なんだろう、この既視感(デジャブ)な感じは……」


 何か違和感を感じて、そのキャラを見つめていた俺。


「あのプレイヤーさん、すごく頑張ってくださっているんですよ。なんでも『2人を近くで見守りますの』とか申されていまして。私には意味がわからなかったのですが、フリフリ店長さんはわかりますか?」

「……」


 リトリサ女神見習いの言葉に、思わず頭を抑えた俺。


 ……ちょっと待ってくれ


 ……まさかとは思うんだけど


 ……い、いや……そんなはずは……


 俺の脳裏には、出会ったばかりの小鳥遊の婆さんの姿が浮かんでいた。

 だがしかし……例え婆さんがこのゲームをやっていたとしても、だ……そんなに都合良く、俺の店に店員希望としてやってくるものだろうか……


 若干目眩を感じた俺は、『マジュたん』と名前が表示されているそのプレイヤーに気付かれないように、店の裏口から出ていった。


 しかしマジュたんって……そういえば昼ドラの女王って呼ばれていた女優さんにそんな名前の人がいたような気が……




 


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