色々おかしいというか その1
そんなわけで、ガァさんという名前がついた岩石亜人さんと一緒に亀の絵がついている扉をくぐった俺達。
その先には、別荘があった。
ロックトータスの背中の上に建設したばかりの別荘だったんだけど、
「うわぁ、こりゃすごい」
ベランダから外を眺めた俺は、思わず目を丸くしてしまった。
ロックトータスってば湖を横断している最中だったもんだから、思いがけずにオーシャンビューが広がっていたもんだから、そりゃびっくりするなって方が無理ってもんだろう。
「うわぁ! パパ、すごく綺麗です!」
「お父様素敵ですわ!」
クーリとフリテリナも、笑顔を浮かべながらベランダから身を乗り出している。
「ははは、身を乗り出し過ぎたら危ないから気を付けるんだぞ」
「「はい!」」
俺の言葉に、元気に返事を返す2人。
あぁ、なんかいいな、こういうのって……
無邪気にはしゃいでいる2人を見つめながら、思わずほっこりしてしまった。
「……ん?」
ふと、視線を下へ向けた俺は、思わず首をひねってしまった。
玄関の前で、ゴーメと5人のゴーレム狸達が掃除をしていたんだけど、その後方を1匹のスライムがついて回っていたんだ。
あいつって、ガァちゃん達と一緒に連れてきたスライムだよな。
そのスライムってば、ゴーメ達の周囲をもぞもぞと動き回っていたんだけど……よく見ていると、ゴーメ達が集めたゴミを体に取り込んで消化しているみたいだった。
「へぇ、この世界のスライムってあんな性質を持っているんだなぁ」
「旦那様が知っているスライムは違うのですか?」
エカテリナが、俺の言葉に首をひねっていた。
ちなみに、俺の後方3歩下がった位置をキープしていて、そこから俺や子供達の様子を見つめているエカテリナ。
時折、スクショ機能を使用して子供達の様子を撮影したりしていて、すっかりママって感じだった。
「あぁ、俺が昔やっていたボードゲームだと、いきなり天井から襲いかかってきて冒険者を捕食しちまうんだよな。松明を持っていなかったら自由を奪われた時点でゲームオーバーになるっていう、結構エグいキャラだったんだ」
「スライムが……ですか? 私が経験したゲームではだいたい雑魚扱いで、たまに集合体になってボスキャラになっていましたけど、攻撃の大半は体当たり系で、消化系を使用するスライムはほとんどいませんでしたわね……あ、でも、前に装備を溶かすスライムが実装されたことがありましたわ」
「へぇ、そんなスライムもいたんだな」
「えぇ、でも、18禁規制に抵触する可能性があるとのことで、即座に廃止されたんだからね」
18禁って……ま、まぁ、装備を溶かすわけだから意味はわからないでもないんだけど…… 俺達の村のスライムはゴミを処分してくれる優しくて働き者みたいだし、そんな心配をする必要はなさそうだな。
エカテリナとそんな会話をしながら湖を眺めていた俺。
「……しかし、これだけ気持ちがいいと、釣りでもしたくなるな」
つい、そんな事を口にすると、
「釣りをするのなら、これを使ってもいいんだからね!」
エカテリナがそう言いながら取り出したのは、まさに釣り竿そのものだった。
っていうか、そんな装備まであるんだ、このゲームってば……
「昔、魚系モンスターをひたすら釣りまくるイベントがあったんだけど、その時の優勝記念アイテムなんだから!」
「……討伐系じゃないイベントでも、優勝してたんだな」
誇らしげに胸を張っているエカテリナなんだけど……いや、マジですごいよな。
「じゃあ、ありがたく使わせてもらうよ」
エカテリナから釣り竿を受け取った俺。
すると、俺の目の前にウインドウが出現して、
『フリフリは【伝説の大物を釣り上げし釣り竿セット】を手に入れた』
『フリフリは【釣りマスター】の称号を手に入れた』
そんな文字が羅列されていったんだけど……手にしただけで称号までもらえるなんて、いったいどれだけすごいアイテムなんだ、これってば……
「そんな事よりも、早く釣りをするんだからね!」
俺の腕を笑顔でひっぱるエカテリナ。
その左右に、クーリとフリテリナが駆け寄っていた。
「そうだな、家族みんなでのんびり釣りをするっていうのも悪くないかもな」
幸い、新しいアンテナショップがオープンするまでもう少し時間があるし、それまでの時間をみんなでのんびり釣りでもしながら過ごすのも悪くないかもな。
そんな事を考えながら別荘の外へ出ると……
「フリフリ様、釣りの準備を整えておきました」
俺の前で恭しく一礼するゴーメ。
その後方で、ゴーレム狸たちも一礼している。
そんな一同の後方には……ロックトータスの背中から湖に向かって足場が伸びていた。
「あ、あぁ、助かるけど……ロックトータスは大丈夫なのかい?」
「使役主であるフリフリ様のためでございます。ロックトータス様もむしろ喜んでおられますわ」
「あ、あぁ、そうですか……」
笑顔を輝かせているゴーメを前にして、そう返事を返すのが精一杯の俺だった。
◇◇
「……とりあえず、釣りをするとして、餌はどうしたらいいんだ?」
「旦那様、これを使ってもいいんだからね!」
エカテリナが差し出してきたのって……なんか、もぞもぞ動いている小型のモンスターみたいなんだけど……
「エカテリナ、それって……」
「これは、モンスターを呼び出すための餌アイテムなんだからね! これを使うとフィールド上にモンスターが出現する確率がアップするんだから!」
「へぇ、そんなアイテムがあるんだ……」
エカテリナから受け取った小型のモンスターを改めて確認してみたんだけど……なんかダンゴムシみたいな形状をしていて、触手みたいなのが伸びていた。
もぞもぞと足を動かしている感触まで伝わってくるんだから、ホント色々と凝ってるよな。
そんな事に感動しながら、針に小型モンスターを取り付けて竿を振るった……んだけど……
その針が着水する前に、
クエ~ッ!
横から飛んで来た鳥系のモンスターが餌にくらいついて……
「パパ! 釣れました!」
「お父様! すごいですわ!」
クーリとフリテリナが感動しているんだけど……い、いやちょっと待ってくれ……これは俺の知っている釣りじゃない。
そもそも、魚は釣るもんじゃない……って……
脳内で突っ込んでいた俺なんだけど、この鳥系モンスターってば針を飲み込んだまま飛び去ろうとしているもんだから、釣り竿が持って行かれそうになっているわけで……とにかく、釣り竿を持っていかれまいと必死になっている俺。
「ぐぬぬ……」
「パパ、頑張って!」
「お父様、ファイト!」
「フレー! フレー! フリフリ様」
って……クーリとフリテリナに加えて、ゴーメとゴーレム狸さん達まで一緒になって俺の後方で応援しまくってくれているんだけど……い、いや、その……応援する前に手伝ってほしいんだけど……
「旦那様! もう一息なんだからね!」
「え、エカテリナまで……あ、あのさ……出来たら手伝ってほしいんだけど……」
「そうしたいのは山々なんだけど、旦那様が一人で釣り上げないといけないんだからね!」
そう言うと、みんなと一緒になって声を張り上げていくエカテリナ。
と、とにかく俺が自分でなんとかしないといけないわけか……
「ぐぬぬ……」
改めて釣り竿を持ち直した俺は、必死になって釣り竿を引き寄せていく。
必死になって逃げようとする鳥系モンスター。
そうはさせじと更に引っ張る俺。
それでも逃げようとする……
そんな攻防がおよそ10分ほど続いた後……
「と、とったどぉ!」
ついに捕獲することに成功した鳥系モンスターを片手に、腕を突き上げる俺。
こんな台詞を叫んでいた芸能人がいた気がしないでもないんだけど……とりあえず今のは釣りじゃないよな、うん……
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