婿殿って…… その4

 古村さんとの写真は、出勤前に立ち話した時の……

 早苗ちゃんとの写真は、駅で出くわした時の……

 東雲課長との写真は、出張で車に同乗していた時の……


 とりあえず、古村さんが下半身アレな格好で突撃してきている写真でなかった事に内心安堵していた俺。


「……とまぁ、そんなわけでして、古村さんはお隣さん。早苗ちゃんは以前痴漢にあっていたのを助けた事があって、一緒になったときはボディーガード代わりをしてあげています。東雲さんとは仕事で出張に行っていただけですが……」


 実際に、特にやましいところもないのでそれぞれ説明していったわけなんだけど……


 古村さんには妙に懐かれている気がするし……

 早苗ちゃんには運命の相手と呼ばれたりしているし……

 東雲課長にはなんかすごい事を言われた事があったりする……


 そんな3人ではあるものの……


「とにかく、今の俺は小鳥遊以外の女性を恋愛対象として見る事はありません。ご挨拶前にルームシェアというか、同棲していた件に関しては謝罪いたしますが、もちろん責任はとらせてもらうつもりです」


 俺は、きっぱりそう言った。

 実際、結婚まで考えている相手だからこそ一線を越えたわけだし、軽い気持ちで付き合いはじめたわけでもないし……まぁ、付き合い始めていきなり結婚まで考えたりする性格だから今までなかなか彼女が出来なかったり、出来たとしても長続きしなかったわけなんだが……


 俺の隣に座っている小鳥遊はというと……早苗ちゃんの写真が出た時に


「……あの小娘」


 ブツブツ言いながら絶望のオーラモーションを発動させていたものの、俺の言葉を聞くなり耳まで真っ赤になりながらうつむいてしまっている。

 時折チラチラと俺の顔を見上げているんだけど、気のせいか瞳がハート型になっているような気がしないでもないというか……


 しかしあれだよな……


 後妻さんだからこそ、小鳥遊の事を大事に思っているからこそ、俺の事を調べていたんだろうけど……こんな隠し撮りまでされたらちょっと引いてしまうんだが……

 そんな事を考えている俺の前で、小鳥遊の婆さんはというと……あ、あれ?


 ……なんだろう


 なんか、婆さんまで小鳥遊同様に耳まで真っ赤になりながらうつむいているんだけど……


「……そ、そんな……出会ったばかりで恋愛対象だなんて……じゅ、純愛……なんて素敵な純愛なのかしら……昼ドラばりのドロドロな四角関係の愛憎劇を期待していたのにまさかの王道純愛路線だなんて……あぁなんて素敵……あぁ、もう、たまりませんわ……」


 小声でブツブツ呟いているんだけど、声が小さすぎてよく聞こえなかった。


「あの……どうかなさいました?」

「ふぁ!? い、いぇ、べ、別になんでもございませんわ」


 ソファから飛び上がった小鳥遊の婆さんは、慌てた様子で写真を片づけた。


「む、婿殿のお気持ちはしっかりとお聞きいたしました。す、すぐにはお返事出来ませんが、爺様とも相談して、前向きに検討いたしたいと思います。そういうわけで、また様子を見に寄らせて頂きますね」


 そう言うと、立ち上がって深々とお辞儀をした。


◇◇


 その後、しばらく3人で談笑した俺達。

 程なくして小鳥遊の婆さんはご機嫌な様子で俺達の部屋を後にしていった。


 写真の件以降、妙にハイテンションだった気がしないでもなかったんだけど、何しろ初対面だしなぁ……俺、変な事を言ったりしてなかったかな……


「うん、とっても素敵だったよ」


 そんな事を考えていた俺に、そんな言葉を返してくれた小鳥遊。

 耳まで真っ赤にしながら俺の腕に抱きついてきているんだけど……そんな状態で、上目使いをしながら、


「……しよ?」


 なんて言われたら……もう小鳥遊の事をお姫様抱っこしてベッドに向かうしかないわけで……


 ちなみに、小鳥遊から聞いた小鳥遊婆さんのスペックなんだけど……


 年齢:30代後半

 昼ドラとハーレ●インっていうレーベルの小説をこよなく愛しているんだとか……

 その、小説ってどんなのなんだろうな……今度探してみるか。


 しかし……このまま小鳥遊と結婚したら、後妻さんとはいえ年下の婆さんが出来るわけか……


◇◇


 目を開けると、見慣れた天井が広がっていた。

 すっかりお馴染みになったディルセイバークエスト内での俺の自宅の天井だ。


「パパ!ママ! おはようございます!」

「お父様!お母様! お待ちしておりました!」


 そんな俺を出迎えてくれたのは、クーリとフリテリナの2人だった。

 この世界での、俺とエカテリナの子供達なんだけど、2人とも満面の笑みを浮かべながら俺に向かって飛びついてきた。

 

「パパ! ポロッカも待ってたベア!」


 って……ちょ!? ぽ、ポロッカ!? 大型熊のお前までダイブしてきたら、俺、潰れちまうって!?


 なんとか、ポロッカの暴挙から間一髪逃れることが出来た俺。

 その代わりとして、俺の隣にログインしていたエカテリナが、ポロッカのダイビングボディプレスをくらっていたんだけど、


 HP -0


 って表示が浮かび上がっていて……あのダイブをくらってダメージなしって……エカテリナってばやっぱすごいんだな……と、妙なところで感心してしまった。


「パパ! 今日は昨日より遅かったですね」


 俺と手をつないで上機嫌なクーリ。


「あぁ、ちょっとママと色々お話していたんだよ」


 そう言ってごまかした俺。

 後方では、エカテリナが頬を真っ赤にしながらうつむいていた。

 いつものツンデレ口調を口に出来ない程恥ずかしいみたいなんだけど……そりゃ、まぁ……ついさっきまであんな事をしていたわけだしなぁ……


 釣られて俺まで顔を赤くしてしまっていたんだけど、


「パパ、メタポンタ村の新しいアンテナショップが完成するまであと2時間ですよ」


 そんな俺にクーリが笑顔で教えてくれた。

 へぇ、子供達ってばこんな事まで教えてくれるんだ。

 

「そうか、なら出来上がった頃に様子を見に行ってみるか」


 そんな事を考えながらベッドから立ち上がった俺なんだけど、


「ん?」


 俺はあることに気がついた。

 部屋の中、奥の壁際に、見慣れない扉が立っていた。

 壁についているのではなく、壁の手前に扉だけが枠ごと立っている感じなんだけど……そういえば、異世界の食堂に通じている扉が出てくる異世界物のアニメがあったっけ。


 そんな事を考えながらその扉へ近づいてみると……扉には、亀をデフォルメしたデザインのプレートが貼り付けられていた。


「亀……といえば……」


 うん、この世界で亀と言えば……


「はい、ロックトータス様とゴーレムメイドでございますわ」


 いきなり扉が開き、ゴーメさんが笑顔で姿を現した。

 その後方には、5匹のゴーレム狸さん達の姿もあったわけで……


「ゴーメさんが出て来たってことは……この扉ってば、ロックトータスの背中にある別荘につながっているってことなのかい?」

「はい、その通りでございますわ」


 俺の言葉に、恭しく一礼したゴーレムメイドさんなんだけど……その横からチラチラと俺を見つめているというか、なんかすっごく期待した目で俺の事を見つめている岩石亜人さんが……


 ……あ?


 ま、まさかとは思うんだけど……今度までに名前を考えておくって言ったもんだから、早速期待しているんだろうか……


 しまった……色々忙しくて何にも考えてなかった……


 額に嫌な汗がにじんでいる……って、こんなとこまでリアルにつくりこまれているんだな、このゲームってば……

 そんな事を考えている俺を、相変わらず期待に満ちた眼差しで見つめている岩石亜人さん……


 そんなわけで……無い知恵を振り絞った結果。


「ガァちゃんなのね! 私、今日からガァちゃんなのね!」


 俺の目の前で、感動した表情を浮かべながら感涙を流している岩石亜人さんさん改めガァちゃん……うん、


 岩石の「が」

 亜人の「あ」


 だから、ガァ……


 相変わらず、センスないよな俺……

 ガァちゃんに対して申し訳ない気持ちでいっぱいの俺なんだけど、


「パパ! 素敵な名前です!」

「さすがお父様ですわ!」


 そんな俺を、クーリとフリテリナまでキラキラした笑顔で見つめていて……俺はその笑顔を直視する事が出来ずにいた。

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